第15話 そして俺は笑ったのかもしれない

 英雄の谷を越えたパーシル達は無事に竜の山を下山した。


 どうやらドラゴンゴブリンたちはティルスター側にしか存在しないらしく、パーシルたちは比較的安全な下りの山路を進み竜の山を横断することに成功した。


 その後、山から離れ2日歩いたとこにある小さな村に立ち寄り、消費した食糧を補充、一泊をした後、パーシル達はサンズライン共和国に向けて出発した。


「ここからあと5日ってところか」

「あの国にはよほどの用事がなければ立ち寄らぬからな。何か名産のうまいものでも食べたいものだ」

「あたしもー。久しぶりに森いちごとか食べたいわ」


 街道を進み五日、周囲の安全を確認しつつ、時折ヴェインにも歩いてもらいながら、パーシル達の順調に旅路を進んでいく。

 

「パーシル、これG84LQ@」


 道すがらヴェインが何か見つけたようで手で持ち上げる。

 それは細長い緑色の瓜だった。瓜の部分が蔦に繋がりヴェインのそばに群生しているようだった。


「ああ、それ。きゅうりね。食べても害はないけど、焼いてダメ、煮てだめ、生は微妙、の野菜よ。本来は山岳地帯にあるはずなのに、なんでこんなところに」

「これ、もってく」

「え、ヴェインそれ食べるつもり?」


 ドン引きするレインにヴェインはうなずいた。

 何か考えでもあるのだろうか。ためしにパーシルもきゅうりを手に取ってかじってみた。


――本当に食べれなくはない、という味だな……。


 パーシルはとりあえず捨てるのはもったいないと残りもすべて食べきる。


「これを持っていくのか? どれぐらい?」


 ヴェインが積極的に何かに興味を持つのが少し珍しかったので、パーシルは彼を手伝うことにした。


「100本」

「うーん」


 改めてパーシルが手に取ったきゅうりはグネグネに曲がり、どう詰め込んでも100本はかさ張る。

 さすがに食糧を買いだめたばかりで、馬車もなしに持っていくのは無理だった。


「……なるべくまっすぐな奴で、20本ぐらいな」

「わかった」


 ヴェインはうなずくときゅうりの群生地に手を伸ばし、10分ほどで20本のきゅうりを集めた。

 パーシルはそれらをあいている麻袋に詰め、背負い鞄にしまった。


 再びヴェインに歩いてもらい、パーシルはとっさの事態に対応できるようヴェインの手を握って歩いた。


――小さい手だ。でも生まれたときより、心なしか握りやすくなったような気がする。


「なあパーシル、実はあのきゅうりとやら、うまかったのだろう?」


 ヴェインを挟み、反対を歩くアーランドがパーシルの背負い鞄を眺めていた。

 肉を主食とするリザードマンだが、それはあくまで主食の話。

 味がわかる種族において、おいしいものに興味を持つのは当然のことだった。


「そんなことはない。レインの言った通りだった」

「嘘をつけ、ならばなぜ、そんなに機嫌が良さそうなんだ」


 隣を歩くアーランドはパーシルを小突いた。

 言われてパーシルは自分が笑っていることを自覚した。

 

「あー……それは……」


 ちらりとヴェインを見て、パーシルは言葉を濁す。

 

「秘密だ」


 握っている手が少し大きくなり、成長を実感したからなどとはパーシルは言えなかった。

 

 かくして5日後、パーシル達はサンズライン共和国の関所までたどり着いた。

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