第10話 長い旅になるかもしれない
ヴェインの命を優先するために今いる国を出る。
そして別の国でほとぼりが冷めるまで生活をし、可能ならばアイフィリア教団を何とかする機会を伺う。
基本的な指針を決めたパーシルは具体的な行動プランを練ることにした。
――これは長い旅になるかもしれないな。
アーランドたちに再びアイフィリア教団の動向を監視してもらうよう頼み、パーシルはどの国に向かうべきか決めるため、ヴェインの目の前で地図を広げた。
地図には三つの国の位置や河の位置や難所とされる土地の位置が記載されていて、パーシルはヴェインと話しを聴いてもらいながら、行先を決めようとしていた。
「ここが俺たちがいるティルスター王国。それとこっちがムーンレイル帝国、その隣がサンズライン共和国。俺たちはこのどちらかの国に逃げようと思う」
この世界カナルバカルにはパーシル達が拠点としているティルスター王国のほかに、ムーンレイル帝国、サンズライン共和国という国が存在している。
ムーンレイル帝国は帝王ライラスタインが支配し、国土は三国の中で一番小さいながらも、武に長け、農夫から子供まで武器を持って戦えると揶揄される国だ。
その戦闘国家の評判は酒の席で『自殺がしたけりゃムーンレイル人の背中に武器を構えてみろ、すぐに殺される』と笑えない笑い話があがるほどだ。
異世界転生者に関しても寛容で、武力として期待できる彼らは重宝されているとの噂もある。
一方のサンズライン共和国はパーシルが生まれる少し前に異世界転生者フロムロイによって革命が起こり、内情がごたついていると噂される国だ。
民主主義をうたっているが種族差別が厳しく、人間とそれ以外に分け、エルフやリザードマン、ドワーフなどは奴隷として国の政治には参加することはできないと聞き、異世界転生者にも風当たりは厳しく、ティルスターと同じく、文明などを推し進める知識を持ったものを確保しては、その一生涯を終えるまで国が管理し、使役されているとの噂だ。
――普通に考えれば、ムーンレイルに向かうのがよさそうだが…。
そう考えパーシルは一考する。
今回はアイフィリア教団、いわば宗教が敵となっている。
もしムーンレイル帝国にもアイフィリア教団が広まっていれば、今度こそパーシルたちは詰む。
ヴェインも歩けるようになったとはいえ、体力はまだない。
もしムーンレイル帝国にもアイフィリア教団が存在した場合、旅で疲れたところを狙われてる可能性もあるだろう。
そうなれば拠点も土地勘もないパーシルたちは瞬く間に全滅、ヴェインを守ることはほぼ確実に叶わない。
――行先の決定でもっとも考慮するべきはアイフィリアの教えが広めやすいかどうかか。
その点で考えるとサンズライン共和国は代表が異世界転生者である。
さすがに国家のトップを殺すと言っているような宗教は広めづらいだろう。
それに追う側はヴェインが異世界転生者であることを知っている。
それを考慮すると、異世界転生者を受け入れやすいムーンレイルに逃げたと考える可能性が高いのではないだろうか。
うまくその心理を利用できれば、追手の心配は減り、彼らからうまく逃げられるかもしれない。
――そして、時間が稼げればヴェインを育てることができる。何とか彼に自分の身を守れる程度の技術を身に着けてもらい、そうして……そうして、どうすればいい?
パーシルの脳裏にちらりとマリーシャの顔が浮かんだ。だがそれ以上悩んでいる時間は彼にはなかった。
未来のことを悩んでいても、仕方がない。
一刻も早くこの国を離れなければと、パーシルは目的地をサンズライン共和国に決定した。
「よし、ヴェイン。俺たちはサンズライン共和国に行くとしよう」
パーシルはヴェインに自分の考えを伝えて行った。
国の情勢、追手がどう考えるかの考察、それゆえにサンズライン共和国を選んだこと。
パーシルの言葉にヴェインは静かにうなずいた。
そしてその夜――。
「二人に話があるんだ」
再び調査の報告に戻ってきたアーランドとレインにパーシルは昼間決めた内容を伝えた。
「なるほど、サンズライン共和国に」
「あたしあそこ好きよ。いろんな果物あるもの。ま、エルフは扱いひどいけど」
パーシルは彼らにサンズライン共和国までの護衛、さらにはサンズライン共和国での活動の手伝いをお願いしたかった。
ただ、サンズライン共和国は人族以外には排他的なところがあり、リザードマンとエルフは奴隷として使役されている場所だ。
だから、パーシルは言った。
ただ、一刻も早く旅立たなければならない焦りからか、言葉をうまく選べなかった。
「それで、二人には俺の奴隷となってほしい」
パーシルはタコ殴りにされた。
ヴェインからはドン引きされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます