異世界転生したショタコン俺、美少年と旅に出る

J.J.

第1話 ショタコンと美少年

26歳ブラック企業で病んだショタコン、川に飛び込んだらゲームっぽい世界に異世界転生しました。

これが流行りのやつか……。

一瞬垣間見えた気がする天上の世界で、神様っぽい人が「ゲームの世界に転生させましょう」って言っていた気がする。

記憶はそのまま、見た目は銀の長髪、ショタと言うには厳しい成人くらいの男子。

どこかの家の中のようだが、恐らくは自分の家だろう。

これが……俺!?とはなるが、ここはどこ?とはならない。よくあるRPGの始まりという感じだ。



「まずは……そうだな、家には誰もいないみたいだし、外にでも出てみようかな。」



銀の長い髪を後ろに束ね、元々用意されていた旅の道具を鞄に詰め、戦うための武器っぽいものを腰からぶら下げ、満を持して家の外へと一歩踏み出す。

久々の青い空、白い雲。人々が行き交う活気のある街。どこからか漂ってくる焼きたてのパンの匂いや、ふんわりとした花の匂い。



「すご、本当に異世界だ。……あ、ゲームの世界ってことはステータスが見れる……はず。」



頭でステータスの書かれた何かを思い浮かべたら、目の前に光る画面が浮かんだ。



名前 : 金田勝己かねだかつき

性別 : 男

職業 : 冒険者



なるほどなるほど、名前は生前のままで、こんなに異世界っぽいのに公用語は日本語なんだな。

さてさて、今の俺の強さは……。



攻撃 : ERROR

防御 : ERROR

体力 : ERROR

魔法 : ERROR

幸運 : 仲間次第



はぁ……?

なんだこのERRORって。強いのか弱いのかはっきりしないな。幸運の仲間次第ってやつもよく分からん。

……あれ、これは何だ?



状態異常 : ショタコン(解除不可)



状態異常……が、ショタコン?ショタコンが状態異常だと!?

いや、おい待て、違うぞ。ショタコンは異常じゃねぇだろ。全人類大好きだろうがよ、可愛い男の子は。



「あ、でもこれバフっぽい……ん?」



【ショタコン】

自分の仲間にいるショタの人数に応じて自分が強化される。ショタ1人あたりで上がる強さは、愛によって変化する。この状態異常がある間、仲間にショタがいないとお前はクソザコナメクジ。



く、クソザコナメクジ……だって?

この画面による説明は、どうやら俺が分かりやすい文章で表示されているらしい。



「そこの道行く冒険者の方、お待ちを!」



唐突に聞こえてきたおじいちゃんっぽい声に振り向くと、老いた執事さんが駆け寄ってきた。

俺に追いつくなり、ボロ布を被った子供を俺に押し付けるように渡して、こう言った。



「この子をどうか旅へ連れて行ってください。事情は後ほどこの子から説明があると思いますので。とにかく、どこか遠くへお願い致します。それでは!」



驚く程に早口で説明され、何かを聞き返す間もなく、執事さんは風のように去っていってしまった。

その場に残されたのは恐らく小学生くらいの小さい子だけ。



「えっ……と?」


「この街を出るまでは極力喋るな、とじいやに言われている。」


「そ、そうなんだ。じゃあとりあえず街の外まで行こうか。」



声的にこの子はショタだ……!じいやさんはきっとさっきの人だろう。

ボロ布の隙間から覗く可愛い膝小僧を見る限り半ズボンなんだろうな。色は白くてスベスベで、なんかもう、舐めまわした……げふん。



「ガキはどこだ!」


「探し出せ!何としても捕らえて殺せ!」


「おい爺さん、ガキをどこへやった!」



遠くの方から声が聞こえる。隣のショタがビクッと反応したのを見て、探しているのはこの子だと確信する。



「ショタくん、こっちに逃げよう。地図によると、こっちから外に出られるはずだから。塞がれる前に早く行こう。」


「ショ……?」



ショタくんは怪訝そうな声を出しながらも俺と一緒に走り出し、颯爽と街の外へ飛び出した。

あ、意外と足が速いな、こんなに小さいのに俺に軽々着いてこられるとは。



「……まだ誰も追っては来てないみたいだね。」


「前方、モンスターが近づいてきているようだぞ。」


「え、なんで分かるの?」


「探知魔法だ。」



確かに何か気配的なものを感じはするものの、それが何かは分からないし、マップにも全くもって表示されない。

しかしショタくんの言葉を裏付けるように、森の入り口に大きな狼が立ち塞がっていたのだった。見つからないように静かに岩陰に隠れて様子を伺う。



「うわ、本当に出た……!」


「城のテイムモンスターだ。」



て、テイムモンスター……だと?なんだそれ。


【テイムモンスター】

特定の人物や組織に飼い慣らされているモンスター及び、召喚されたモンスター全般のことを指す。


なるほど、解説ありがとう画面さん。

しかしどうしたら突破できるだろう。周りは木の密度が高くて道と呼べるものが無いし、迂回路も無い。



「ショタくん、どうす……。」


「お前は安全な場所まで戻れ。僕のことは気にしなくていい。どうせ城の兵士に見つかるまでの命だ。」


「え……?」


「巻き込んで悪かった。あんなに熱心に追いかけ回されているんだ、きっと僕が悪いんだろう。隣にいると仲間だと思われるぞ、戻るなら今だ。」


「……。」


「少しの時間だったが、外に出られて楽しかった。外界にはこんなに綺麗な景色があったのだな。最期に見られて良かった。感謝している。これは報酬だ、受け取れ。」



ボロ布の隙間から出てきた白い手で、銀貨が詰まった質の良さそうな皮袋を差し出される。

展開への困惑よりも、全てを諦めたような口ぶりに正直寒気がした。子供らしからぬ口調、冷めた声、嫌に冷静な発言。どれをとっても子供とは思えない。



「そんなこと言わないで。俺も一緒に……。」


「なぜ、見ず知らずのボロ布を被った得体の知れない奴に命をかける?僕ならしない選択だ。僕を助けたところで何の価値も無いだろうに。」



何の価値も無いと、無感情に自分で言う子供がいるだろうか。この子の周りには、この子を心から大事にしてくれる人はいなかったのか。



「……さっきのじいやさんは……。」


「じいやは僕を匿って連れ出しただけだ。お前が気にすることでは……。」


「じいやさんは君が殺されるのを阻んだ。それは、じいやさんにとって……君は生きてるだけで意味のある人間だってことだよ。だから君の価値観だけで自分の価値を決めたらダメだ。」


「……。」



じいやさんは兵士に詰め寄られても口を割っていなかった。命の危険があることを重々承知でこの子を俺に託したんだ。

じいやさんの為にも、俺がここでこの子を見捨てる選択をする訳には行かないし、それに……。



「ショタくん、よく聞いて。例外なくどんな人間でも、少なくとも子供のうちは幸せであるべきなんだよ。だから一緒に逃げよう。」


「……道は塞がれている、それに僕が一緒にいればお前の身も危険になるぞ。」


「君といられるなら本望だよ。それに、道がないなら作ればいい!」



俺は冒険者だ。冒険者になったんだ。ステータスは分からないし、ただのショタコンだけど……。

倒す必要は無い。ちょっと時間を作れればいい。そう思いながら力強く一歩を踏み出す。



「おい……!」



狼の傍に近づくと、襲いかかってくるのは恐ろしい牙と爪。VRゲームの要領で躱し、握った拳に全力を込める。その瞬間、何かが心の中で煌めく感覚がした。



「お"ぉらぁぁぁぁああ"っ!!」



今まで発したこともないような声で叫び、狼に拳を繰り出す。狼は変な声を上げて吹き飛び、木々をいくつかへし折ったところで大木に当たり、グッタリと動かなくなった。

思った以上の威力だったが、そんなことを今気にしても仕方がない。



「……はぁ、はぁ……ショタくん、逃げるよ!」



いつ城の兵士が街の外へ追ってくるのか分からない。ショタくんの手を掴み、また俺は走り出した。

森を超え、川を超え、もう一度森へ入り、さらに暫く走ると綺麗な花畑に出た。

流石に休憩しようと座り込んで、異世界で見る花は違うなー、と思っていると、小さい手が俺の袖を掴んだ。



「おい、お前。名はなんという?」


「名前?俺は金田勝己。ただのショタコンだよ。」


「その……ショタコン、とは何だ?先程からショタくんと僕のことを呼んでいたようだが。」



あー、この世界にはショタっていう言葉は無いのか。説明が必要なら説明しておこうかな。



「ショタは君みたいな小さい男の子で、ショタコンっていうのはショタに愛を捧げている人ってことだよ。」


「そ、そんな……えっ……?ぼ、僕に手を出したら承知しないからな!」



ショタくんは焦ったように一歩二歩後ずさると、上擦った声で威嚇した。

かわいー……。

久しぶりに仕事以外で誰かと話した。しかもそれがこんなに可愛いショタだとは!



「君の名前も教えて欲しいな!」


「……あ、あぁ、申し遅れたな。」



ボロ布を取り去るとそこには、息を飲むほどに美しい顔立ちの、黒髪の男の子がいた。

俺はショタの中でも、こういう美少年が大好きなのだ。好みにどストライク過ぎる見た目に、年甲斐もなくドキドキする。



「僕の名はルイレンという。王の子、ではあるのだが……その、母は奥方ではなくてだな……。」


「えっ、じゃあ……王子様ってこと?」


「いや、王は僕のことを自分の子供だと認めていないし、存在すら公表されていない。だから僕に王位の継承権は無いし、第一あんな男を父だとは思っていない。」


「じゃあ、なんで兵士に追っかけられてたの?」


「僕にもよく分からない。だが考察するに、誰かが僕の存在に気がついたのだろうな。調べればすぐに自分の子だという証拠が出てきてしまう。」


「つまり……王の浮気の証拠隠滅のために殺されかけたってこと?」


「要約すればそうなるな。」



勝手に奥さん以外と子供を作っておいて、自分は知らないなんて無責任な話だ。あまつさえ子供を殺すために城の兵士を寄越すとか、有り得ない最低さだ。



「お母さんは?」


「母は平民で、とっくの昔に殺された。実際僕を育ててくれたのはじいやだ。城の一室から出られない日々は退屈だったが……まさか追われて外界へ逃げることになろうとはな。」


「そんな……証拠隠滅のためにそこまで……。」


「まぁ、母の記憶は無いに等しいから、今更気にすることでもないが。僕には立場も親も人脈も無いし、オマケにお尋ね者だ。」



ショタ……ルイレンくんは、花畑を見ているようでどこか遠い目をして語った。

こんな美少年が、そんな可哀想な子だったなんて……俺は……俺はぁ……!

思わず膝から崩れ落ち、目からは涙がボロボロとこぼれていく。



「うわぁぁぁん!ルイレンくん、辛かったよねぇ、今までよく頑張ったねぇ……!」


「は?」


「でももう大丈夫だからねぇ……!お兄さんがついてるから……うぶゎっ!?」



急に目の前が暗い。顔面が痛い。というか踏まれた。ちょっとグリグリされてる。

そんなことされたら、よ、余計に涙が……!



「ルイレンくん、じゃなくて、ルイレン様、だろ?この変態野郎が……触るな気色悪い。」


「ありがとうございますッ!!」



反射的に叫んでいた。

まさか異世界に来てから美少年に踏まれることがあるなんて思ってもいなかった。

でも……そうか。執事の爺さんと2人だったなら、今までルイレン様としか呼ばれたことがないんだろうな。



「うわ、きも……。」



ルイレン様が足を退けてくれて視界が開けると、そこには心底引いた、という顔の美少年が蔑んだ目を俺に向けていた。

あっ、ドン引きの顔すら可愛い。これで興奮する俺は、ショタコンなだけじゃなくてマゾだったのかもしれない。

俺が若干の名残惜しさを感じていると、ルイレン様はさっきまで踏みつけていた俺の顔を両手で掴んで目を合わせた。



「僕は確かに生まれながらにほとんど全てを失った。だがな、ショタコン。幸い僕は、顔も名前も知られていない。こうして生き延びたからには、諦めていたこと全てをやってやる。」


「……いいと思うよ。」


「全く、お前のせいだぞ。責任を取って、最後まで付き合ってもらうからな。」



ああ、この笑顔は……すごく子供らしい、素敵な笑顔だ。俺が守っていかないといけない笑顔だ。

心底美しいと感じる笑顔はそう長くは続かなかったけれど、仲間とするには充分な時間だった。



「うん、もちろんだよ。君のやりたいこと全部叶えて、幸せにしてみせる……ショタコンの名にかけて!」



こうして、ショタコンとショタによる冒険の旅は始まったのだった。

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