さよなら、こんにちは、たあちゃん

@hama64

さよなら、こんにちは、たあちゃん

暖かでふわふわした感触しかなかったのに、突然細くて固いものにひっかけられ、とても早く下に 落ちた。眼はまだ半開きで、光が鋭く眼を刺して痛いと感じたとたん、下にぶつかり痛みを感じた。けれどすぐに冷たくて固い感触しかなくなっていた。

生まれたばかりだったけど、し暗くて底の無い場所に引きずり込まれてしまいそうになった。なすすべもなくとうとう眼を閉じて引きずり込まれる時を待っていた。


どれくらい時間がたったのか、急にふわふわではないけれど暖かでやわらかいものに包まれた。とうとう暗い場所を通り越して生きていた所を違う場所へ着いたのかと眼を開けると、自分より何倍も大きな眼が二つ見えた。びっくりして逃げようとしたが、落ちた時に打ち付けた足が痛くて動けない。怖くてぴいぴい鳴くしかなかったが、二つの眼は以前居た暖かでふわふわした感触に近い場所に入れた。

しばらくすると、くちばしに何かを当てられた。思わずくちばしを広げると以前いた場所で食べさせられたものではないが、いますぐ欲しいと感じ、迷わず食べた。するとすぐ次のものがくちばしに当てられ、それも夢中で食べた。


 そんな風にしばらくくちばしにものを当てられ、それを食べていると、足の痛みもなくなり、眼もはっきり開くようになった。

二つの眼は、眼の下に丘のようなものがあり、その丘には二つの黒い穴があり、さらにその下にくちばしがあったけど、とても薄くて広く、そこからおおきく「あー、あー」と鳴いていた。

その隣にもうひとつ同じような二つの眼が、薄くて広いくちばしから「たあちゃん、とりの眼が開いたね」と鳴いた。

自分は「とり」と呼ばれているようだ。そして、一番近い二つの眼は「たあちゃん」と呼ばれているようだ。


「たあちゃん」は、隣の二つの眼よりもずいぶん小さい。そしてくちばしからは「あー、あー」しか言わなかった。けれど、となりの大きな二つの眼より眼の中の天気がよくわかった。

たあちゃんの眼が大きく明るく開くととてもよく晴れて、暗くなると曇ったり雨が降ったりする。そんな時、たあちゃんの眼の中の天気に合わせて自分の眼の中の天気も一緒に晴れたり曇ったりした。

となりの眼の天気は晴れたと思ったら急に曇ったりしてよくわからなかった。どちらも同じような二つの眼なのに天気はずいぶん違うんだなと見ていた。


自分の体がさらに大きくなり、固い羽が生えて来た。羽を広げると風を動かして、体が少し浮く気がした。

そんな時、たあちゃんの眼が大雨になった。鳴き声も「あー!あー!」といつもより大きく鋭かった。

たあちゃんのとなりの眼は、たあちゃんをじっと見て、「たあちゃん。お外に行こうか」と何かを足に当てようとしていた。その眼も少し曇っていた。

それでもたあちゃんの 眼の中は大雨になってしまうことが多くなってきた。雨の中でずぶぬれになって何かをゆっくり持って見ていた。それをもうしばらくは見ていたいだけなんだ。


ある日。いつもより羽を大きく広げて早く動かすと、体ふわりと浮いた。更に早く動かした。体が一気に高く浮いた。こんなに高く浮いたことに驚く。夢中で羽を動かすと飛び立つことができるようになった。

今日も雨の中に居たたあちゃんの眼が急に晴れ上がった。急いで追いかけてきた。だんだん小さくなる。たあちゃんの隣にいつもいる二つの眼も追いかけてきた。どちらも飛ぶことはできないようだ。 


「たあちゃんさようなら」と鳴いた。

そして隣の眼に、「たあちゃんは、雨の中で『おかあさん。もうちょっと待って。もうちょっと待ったらもっとお話できるようになるから。』って言ったんだよ。」鳴いた。

自分にたあちゃんたちに伝わる鳴き声が出せたら。

いつかたくさんのたあちゃんたちと鳴きあうことがあればいいな。


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