一人暮らしを始めたら実家から幼馴染が送られてきました。

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00:プロローグ


「......こんなもんか......」


柊 叶羽とわは荷ほどきを終え、この春から暮らすことになった部屋を見渡しながら、額の汗を拭った。




今年から高校生となる叶羽は中学卒業と同時に地元から逃げるように上京してきた。


比較的裕福で、理解のある両親がいる家庭に生まれた俺はすんなり上京を成し遂げる事が出来た。


地元から出てきた原因は人間関係。


上京したい理由を言わなくても、両親は明るく見送ってくれた。


(恵まれてるな......俺)


暗い思考を振り払うため、ベランダにでて春の空気を肺に送り込む。


ベランダから見える無数の高層ビルと数えきれないほどの人の往来は俺が都会に来たことを実感させた。


(あんなん地元の花火大会でも見ないぞ......)


気持ちを切り替えた俺は部屋に戻り、もう一度部屋を見渡す。


間取りは2LDK。 


一人で暮らすにしては広めに感じるこの部屋は、通学に便利な位置がいいと言ったのみで間取りに関しては口を出していないが、両親から送ってもらった物の中にベットとか机とかが二組あった事からこの部屋を東京観光の宿替わりにでも使うつもりだろう。


そんなことを考えていると呼び鈴が鳴った。


インターホン越しに対応する。


(宅配便か......)


オートロックを解除し、中に入れ、荷物を受け取る。


「せっかく荷ほどきが終わったってのに......俺の送った荷物はほとんど到着したはずなんだがな」


机に置いていたカッターを手に取り、段ボールを開封する。


「なんだこれ...?」


中身はレディースの服や女性もの下着やヘアアイロン、メイクなどだ。


母親のものを間違って送ってきたのだろう。


とりあえず母親に電話をかける。


荷物の中にあったミニスカートに目をやる。 今までこれを履いているところを見たところはないが、処分してくれるように説得してみよう。 想像するだけでキツイ。


数コール鳴った後、母親が電話に出る。


「もしもし?母さん?ごめん、一生に一度のお願いだからミニスカートを履くのをやめてくれないかな?」

「何の話?あとあんた一生に一度のお願いは小学生の頃に使ってるわよ?」

「まじ?覚えてないわ、何に使ったっけ?」

「仮面ライダーシャンプー買ってあげたじゃない」


まじか。 小学生の俺、もう少し考えて一生に一度のお願い使えよ。


一生に一度だぞ。


「というか違う。 荷物の話。 新しい荷物が送られてきたんだよ。 中身はレディースのものばっかだから母さん間違えて送ってきたんだろ?」

「あれ?私、叶羽に言ってなかったっけ?それはね、蓮音はすねちゃんのよ?」

「は......?」

「蓮音ちゃんも上京したかったらしくてね~向こうのご両親と相談して、一人暮らしだと心配だからって叶羽と一緒なら安心って話になったの~私も叶羽がきちんと生活できるか不安だったし、蓮音ちゃんがいるなら安心だわ~」

「ま、待ってくれ、そんな話聞いてないし、男女二人はまずいだろ!世間一般的に!」

「いいじゃない。 小さい頃は結婚するって言ってたし、私たちも蓮音ちゃんの両親もそれに賛成してるのよ?部屋は二部屋あるんだからいいじゃない」

「そういう話じゃない!俺のせいで......俺のせいで蓮音は......!」

「あ、私これから蓮音ちゃんのママとお茶だから切るね~蓮音ちゃんももうすぐ着くと思うから~」


そう言って電話が切られる。


「...まじかよ.......」


俺の幼馴染、川崎かわさき 蓮音はすねは俺が上京、もとい地元から逃げる事になった原因だ。 


幼い頃から家が近く、親同士も仲が良かった俺たちは普通の幼馴染より仲が良かった。 


結婚を約束するほどの仲だったこともあり、俺は蓮音の事が好きだった。


幼少期の頃の俺は蓮音にあった感情が恋心だったのか分からなかったが、今なら分かる。 俺は蓮音にカッコいいって言われるのが嬉しくて、ただ蓮音にカッコいいと思われるためにスポーツや塾などの習い事をこなし、常に一番を取っていた。


単純な俺は蓮音にそう言ってもらうだけでさらに頑張る事が出来た。


小学校の時には蓮音の方が高かった身長も中学に入るころには抜かし、容姿も他人よりかなり整っていた俺は蓮音にも、他の同年代の女子にも魅力的に映ったのだろう。


中学に上がってからも蓮音以外の女子とそこまで深い関わりを作ろうとしなかった俺と唯一仲のいい蓮音は、俺の事が好きなリーダー的存在の女子に目をつけられたらしい。


といっても明るく、容姿端麗な蓮音はクラスでも人気者で、人数をかけていじめるなどできるはずもなく...。そもそも、そんなことしていたら俺が止めている。


主犯格の女は偶然を装って階段から蓮音を落とした。


放課後部活をしていた俺は蓮音と一緒におらず、それを止めることが出来なかった。


足を捻った程度の怪我で、それを目撃していたクラスの女の子がいたおかげで事件は終息した。


しかし俺が原因と知った俺は包帯に巻かれた蓮音の足を見て、悔しくて、悲しくて、申し訳なくて。


一緒にいるべきではないと思った。


俺がいたせいで蓮音がケガをした。 


俺がカッコよくなるために頑張ったせいで蓮音が目をつけられた。


俺が蓮音と仲良くしたせいで......




その後俺は部活をやめ、わざと髪を伸ばし、体育には参加せず、テストは手を抜いた。


蓮音と距離を取り、かかわりを無くした。


それが中学二年の冬。


それから一年以上まともに会話をしていない。




ガチャ


ドアが開く。


久しぶりに見た蓮音は髪が伸び、金に染まっていた。


「あんた、私の下着眺めて何してるの?やめてくれない?」


一年以上まともに話していない幼馴染との会話。


それはあまりに冷たかった。


「どっちが空いてる部屋?」

「あ、手前......」

「そ、あとトモちゃんに頼まれてるから家事は私がやる。

お昼は適当にしといて、夜は作るから。」


バタン。


そう言い残してさっさと自分の部屋に入ってしまう。


(そりゃそうだよな.......)


急に態度が悪くなった幼馴染の男に親切に話す必要などない。


俺の母親、智美ともみをあだ名で呼んでいることから、まだ母親とは仲がいいらしい。 俺と住むのも、自分の状況と母さんの頼みがなかったら嫌なはずだ。


すこしだけ仲直りできることを期待していた浅はかな自分に反吐が出る。


俺に今できるのは夜まで家にいない事。


(お昼がてら東京散策しよう......)


最小限のものを持ち、家から出る。


(この先、どうなるんだ......)








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