第34話 新たな討伐者?

 解放されたエリアから、生存者たちを安全地帯のこの場所へと誘導する。

 言うのは簡単だが、実際は難しいだろう。

 エリアボスを倒しても、他のモンスターが消える訳ではない。

 そのため、戦闘が避けられない場面が必ず出てくる。


 問題は、救出に向かうレギオンメンバーのレベルがどれぐらい必要かという事だ。

 これがエリアボスの居るエリアなら判断は難しいが、今回は違う。

 複数人のパーティで動くことと、救出時に無理をしない事。

 その二つを条件に入れれば……救出隊全員のレベルは15、いやは20あれば安心か。

 まあそれも絶対ではないが。


 俺がそう伝えると、紫音は少し思案して、口を開いた。


「アイテムの中に、モンスターに襲われないようになる『退魔のお香』という物がありましたよね? それを使えば、ある程度の安全は確保できると思います。ただ、数は限られてますが……」


「へぇ、そんなアイテムがあるのか」


「ん? 当たった事がないのですか? 比較的良く出るアイテムだと思うのですが……?」


「あ、ああ……まぁちょっと事情があって」


 あの称号のせいで、俺はガチャのアイテムについては詳しくない。

 別に隠すような事ではないが、言ったところで紫音を心配させてしまうだけだろう。


 俺は誤魔化すように、話の続きを求めた。


「今、このレギオンで一番高いレベルは渚さんの11になります。あとのメンバーは皆さん一桁代ですね」


「だったら、渚を中心にレベル上げを急ぐべきか……」


 だがそうなると、渚を危険に近づける事になる。


「渚さんの持つ重力魔法はとても汎用性の高いスキルです。相手の動きを封じたり、重力の防壁を作り出したり、パーティのレベル上げにも、とても貢献してくれています」


 そんな渚をいつまでも安全な場所に留まらせて置くのは得策ではない。

 紫音はそう言いたいのだろう。

 

 安全地帯があるとはいえ、それだけでは生存者全員が安心して暮らせる環境は作れない。

 一番大きい食料の問題にしても、生存ボーナスの200GPでは足りないのだから、食料調達に行くか、モンスターを倒してGPを貯めるしかないのだ。


 それが、妹を危険な目に合わせたくないと言う俺の我儘で立ち行かなくなるのなら、俺はどこかで線引きをしなくてはいけない。


 それにアイツ自身、自分だけ安全な場所に居るのは嫌がるだろう。

 俺の忠告を無視して学校に行ったぐらいだし、俺が無理をするなと言っても聞かない。

 だったら、多少無理をしても問題が無いぐらいには強くなってもらう方がいいか。


「分かった。だったら、渚だけはしばらくの間、俺が一緒にレベル上げするよ」


 更にレベル上げと同時に重力魔法の訓練も行おう。

 三叉槍の能力訓練をして分かった事は、自分のアイテムについて深く理解するのが重要だという事。

 魔力が多いだけでは意味がなく、スキルや武具の能力は、訓練して慣らしていかなくてはいけない。


 渚が、あのポーンベアーを一人で難なく倒せるぐらいに強くなれば、俺もちょっとは安心できる。


「では明日の朝、皆さんにはそう伝えます。今日は本当にありがとうございました」


 ぺこりと、丁寧に頭を下げる紫音。

 そうして紫音との密会は終わり、最後にフレンド登録をすると、俺たちは別れた。


 ××××××××××


 翌朝。

 レギオンミッションに挑戦した事のあるメンバーを集めた紫音は、彼らに真実を包み隠さず話した。


「皆さんを騙して、本当にすみませんでした……!」


 紫音の突然の告白に、メンバー全員は言葉を失っていた。


「もし、私が隠していなければ誰かがやり遂げれたミッションもあったかもしれまん。もし、高難易度ミッションをクリアできていれば、他の方達は無理をして食料調達に行かなかったかもしれません。もし──」


 紫音が震える声で何かを言いかけたところで、渚は紫音を抱きしめた。


「大丈夫だよ、会長! もしもしもしって、そんなこと誰にも分かんないよ!」


「そ、そうですよ。私、会長がそんな辛い思いしてるなんて気付きませんでした。謝るのは私の方です。ずっと私たちの為に耐えてくれていたんですね」


 他のメンバーも一様に紫音に同情していた。


 どうやら、『ジェネシス・ワールド』が始まってから、紫音は頼り甲斐のある、良いリーダーであり続けたらしい。

 皆んな、紫音の事を信頼し、そして尊敬している。


 そんなリーダーを、誰が責めれるというのだろうか。


「弓弦さん……私、皆さんに打ち明ける事ができて、本当に良かったです」


 皆んなに抱きつかれながら、俺への感謝を述べる紫音の目には、うっすらと涙が溜まっていた。


「ちょっと待って! なんで会長がお兄ちゃんを下の名前で呼んでんの!?」


「なんでって……それ重要なことか?」


「重要な事だよ! 陽毬だってまだ下の名前で呼べてないのに!」


「ええ! なんで私!?」


 急に水を向けられた酒井さんは驚愕していた。


 ××××××××××


 そうして2日後、紫音と話した方針の通り、渚のレベル上げを急ピッチで進めていた俺は、新たな討伐者の出現に、レベル上げを一時中断する事になった。


────────────────────

 金沢市エリア4

 エリアボス:キャノントスク

 討伐者:

────────────────────


 三人目の新たな討伐者。

 それが俺と同じ金沢市で出るのは奇跡だが、討伐者の名前の欄に記載がない。

 これは何かのバグなのだろうか?


 考えていても答えは出ないので、紫音と相談し、真相を確かめるべく、俺は一人でエリア4へと向かう事になった。

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