第8話
名残惜しそうに出発したジルを見送って、私は手を叩いた。
「さぁ、テト、お掃除しましょう!」
散らかっている洗濯物を洗ったり、積み上げられている本を元あった場所に片付けたり、箒や雑巾で掃除をしたり、やることは盛りだくさんで一息ついたときには、もう昼食の時間だった。テトは小さいけれど、文句も言わずに、手伝ってくれた。一旦お仕舞いにして、シャワーを浴びてから、お昼ご飯を作る。野菜や、火を通さなくても食べられるハムを挟んだサンドウィッチだ。
「サチ、ぼく、まだまほうがうまくつかえなくて…だから、ひがつかえないんだ」
テトは悲しそうに、ごめんなさい、と耳を垂らす。『ねこダリ』の世界では、魔法が生活の中心となっている。
「謝らないで、私も使えないから。それにこれ、美味しいよ」
「うん!おいしい!サチはおりょうりもできるんだねぇ」
にこにこしながら、サンドウィッチを頬張るテト。和やかな昼食の時間となった。
昼食を食べた後、お茶を飲みながら、昨日から気になっていたことを聞いた。
「テトとジルは、兄弟なの?」
『ねこダリ』では、テトもジルも脇役のお助けキャラだ。細かい設定は全くなく、ジル推しの私は、歯痒い想いをしていた。
「ううん、ぼくはジルにひろってもらったんだ、おとうさんとおかあさんにすてられちゃったから」
寂しそうに話すテトに、心がぎゅっと苦しくなった。
「ぼくのおうちは、まりょくがつよいおうちで、だけど、ぼくはまりょくがよわいから、じゃまだったみたい。ぼくたちみたいな、ちゃとらは、みんなまりょくがよわいんだ」
『ねこダリ』の世界は、魔力の強さがステータスだ。そして、魔力の強さは、猫の種類によって決まる。黒猫やロシアンブルーなど、一色の毛並みだと魔力は強く、テトみたいな茶トラのように何色か混じっていると、魔力は弱い傾向にある。もちろん、魔力が弱くとも、幸せに暮らしている家庭がほとんどだ。だが、テトの家ではそれが許せなかったようだ。
「だけど、ジルはすごいんだ!ほんとうは、キジトラだって、まりょくがよわいのに、ジルはこのくにでいちばんのまじゅつきしなんだ!それに、やまのなかにすてられたぼくのことも、みつけて、かぞくにしてくれた」
「山って…そんな…大丈夫だったの?怪我しなかった?」
この世界では山の中に魔獣がおり、それらが人を襲ったりしないようジルたち魔術騎士が巡回したり、必要な場合は攻撃し倒す。そんな場所に、今より小さいテトを捨てるなんて、信じられなかった。一歩間違えば、テトの命だって危ない。
「だいじょうぶ!まじゅうにみつかるまえに、ジルがみつけてくれたからね。いまは、ジルにまりょくのつかいかたをならっているんだ」
テトはにっこり頷く。辛い思いをしてきたのに、テトはいつも笑顔を見せてくれる。
「サチがきてくれて、うれしいんだよ。ジルとふたりきりのかぞくだったから、サチがかぞくになってくれてうれしいんだ」
テトをぎゅっと抱き締めると、くすぐったい~と言いながら、テトも抱き締め返してくれた。うれしいのと、切ないのと、色々な気持ちが混ざりあって、また涙が出てきた。
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