第7話 まるで買い物デート
布団を買い終え、今度は真奈実の服を買いに向かう。
今は明音の持っていた服を着ているが、数に限りもあるしサイズだって合う合わないがあるだろう。
最も2人は背格好がほとんど同じだから、サイズに関しては気にしなくて良いのかもしれないな。
そういう訳で、今日のメインとも言える買い物だ。
ちなみに明音も良い服があれば買っていくらしい。
明音の色んな服装が見れそうなので俺としては万々歳。
そして何故か俺の服も買うことになっている。
去年着た服もあるし数が足りていない訳でも無いのだが、明音と真奈実曰く『もっと良い服を着ろ』だそうだ。
正確にはお洒落な服を増やせ、と言われた。
そしてこれは、一応ある程度は持ってると反論した時の事。
「でも私、柚希がデートで着てきた服2種類ぐらいしか記憶に無いけど?」
「それはほら、その服が1番無難だからと言うか、ダサくは無いはずだったからで」
「でもお父さん普段同じような服しか着てないよ?」
「柚希は大人になっても変わらないのね。似たような服でも良いけど、偶には別の格好をしても良いんじゃないかしら」
「そうは言っても俺はどれが良いとか分からないぞ。今の服とかは友達に選んで貰ったものだしな」
あまりにもファッションセンスの無い俺を心配したのか、高校卒業の際に幼馴染みの直貴や友達がいくつか見繕ってくれた。
今着ている服もその内の1つ。
この服が明音とのデートで着ていった服なのだが、俺1人で選んだ服は悉く白いTシャツかパーカーに偏っていく。
「それは私も意見出すから大丈夫よ。私もセンスあるわけでは無いけどね」
「明音はセンスあるから心配するな。その服とか滅茶苦茶似合ってて可愛いから」
「……ありがとう。これで柚希が格好いい服着ていたら完璧だと思うんだけど、どうかしら」
そんな風に言われたら断れるわけ無いだろう。
こうしてなし崩し的に、俺も新しく服を数着購入することが決定した。
「わたし結構この時代の洋服屋来るの楽しみにしていたんだけどさ~、現代とあまり種類が変わらないって事が分かったよ」
真奈実と明音の服を選びに服屋に来て少し、真奈実が残念そうに呟いた。
30年でファッションの流行が大幅に変化してるだろうとか思っていたのかな。
ただ残念ながらそこまで変化は無いようだ。
というかこれまでに通行人とか散々すれ違っているから服に違いが無いこととか気が付きそうなものだけどな。
因みに俺なら気が付かない自信がある。
「30年でまるっと変化していたらそれはそれで怖いけどな」
「柚希みたいな人は流行とか知らずに気が付いたら超時代遅れ、とかになりそうね」
「否定は出来ないけど真っ向から言われると傷つくな」
「大丈夫。お父さん元々流行とか一切知らなかったからどの道だよ」
「なんかとどめ刺された!?」
そうか、俺は今も未来も変わらずジーパンにTシャツ、時々カーディガンみたいな服装なのか。
ある意味では変わっていなくて安心する。
娘にあんな風に言われるぐらいだから、もう少し身なりに気を使ってみるか。
服を見始めて暫く、2人は和気藹々と言い合いながら服を手にしては戻していく。
ここには婦人服しか売っていないため、今俺に出来る事は無さそうだ。
「柚希。この2つだとどっちが良いかしら」
と思っていたが、なんと意見を求められた。
明音が持ってきた服はブラウンのブラウスとベージュのニット。
どちらも似合いそうではあるが、上の服だけでは判断しかねるな。
「あ、ちなみに下は今履いているもので考えてほしいわ」
「うーん……。どちらも似合いそうではあるけど、どっちが良いかと言われるとな……」
2つを比べて悩んでいると、明音から助け船が。
「じゃあ、聞き方を変えるわ。……どっちを着た方が可愛い?」
似合う、ではなくて可愛いと思う方か。
「可愛いと思うのは、そっちかな」
「そう。ならこっちを買うわ」
「良いのか? センスの無い奴の意見だけど」
「柚希に可愛く見られたいから買うのよ」
「そ、そっか」
お互いに気恥ずかしくなり微妙な沈黙が流れる。
「またやってるよこの2人は。いやまあ見慣れてはいるけどさ~」
真奈実から溜息交じりに言われるが、付き合って2ヶ月のカップルなら普通じゃないか?
結婚してからも変わらないのは嬉しいけど。
「でもそうか。こうして考えると一応はデートになるのか?」
「子連れでデートっていうのも変だけど。ふふっ、でもそうかもね」
本来映画デートの予定だったけど、買い物デートでも充分楽しいから良しとしよう。
「結局あの服買わないの!?」
今までの会話は何だったんだろうとあざ笑うかのように、最初に来た店では1着も買う事無く後にした。
「買うわよ、色々見た後でね。1つは決めたけど他に気に入る服が無ければあそこで2着買うのよ」
「なるほどな」
「女の子の買い物は長いからね~。覚悟してよねお父さん」
「俺は別に良いんだけどさ」
こうしてここからモール内の様々な洋服店を見て回った。
そして時間はお昼過ぎ。あれから2時間以上歩き回り、さすがに疲れが見え始めた。
しかし服を選んでいた当人達は全く疲れた様子を見せないのが凄い。
もうそろそろお腹が空いたと言って、休憩がてら昼食を食べに行くことにした。
「それじゃ何処に行く? というか何食べるよ」
「私は何でもいいわよ」
「何でも良い、は1番困る答えだよ。真奈実は?」
「んー、ぶっちゃけわたしも何でもいいんだけどな~」
「無いのかよ」
「そういう柚希は食べたいものでもあるの?」
「無い」
結局誰も行きたい店や食べたいものが無いため、フードコートへ行くことにした。
お昼のピークを過ぎたとはいえ、まだまだフードコートはがやがやと人がひしめき合っていた。
何とかテーブル席の空きを見つけ、各々食べたいものを買ってくる。
「それじゃあ2人とも先選んできて良いわよ。私が席で待ってるから」
「ああ、ありがとう」
「いってくるね~」
俺と真奈実が注文してくる間に明音が席を取ってくれている。
さて、何を食べようか。
各自特に食べたい物が無かったからフードコートへ来たのに、未だに決めかねている。
この場にあるお店はラーメン、たこ焼き、丼、定食、スパゲッティ、ステーキ……おっ、マ○クもある。
でもこの前食べたしな。せっかくなら別の物にしようか。
「お父さん、わたしマ○ク食べたい」
「え、ああ。真奈実が食べたいなら買えば良いと思うけど。今も30年後も味に大差無いんじゃ無いか? せっかくだからもっと他のにしても良さそうだけどな」
「そうなんだけど、違うんだよ!」
目を輝かせながら、ほらあれ! と店を指さす真奈実。
その先にはでかでかと張られたポスターに、期間限定という見出しと共に特大サイズのハンバーガーの写真が。
「そう言えば最近また数量限定販売が始まったとかCMでやってたな。」
「そうなの! 少し前まで売ってたけど中々行けなくてさ~。気が付いたら販売期間終わってたんだよね。だからこそ今目の前にあるのなら食べないと。しかもちょっと安いし。」
「そ、そこまで言うなら……っていうか30年後にもギガビッグ○ックあるんだな」
「って事でいってくるね~」
意気揚々と列に並ぶ真奈実を見送り、俺は何を食べようかと再び思案する。
結局考えるのが面倒になったので、その時目に付いたお店に決定した。
昨日も賄いで食べたな、うどん。
せめて普段食べないメニューにするか。
席に戻ったとき明音から『何故今それを』とでも言うかのような目で見られた。
仕方ないだろ、たまたま目に止まったんだから。
それによくよく考えたら従業員の優待券を持っていた。
つまり実質タダだ。
チェーン店でバイトしているとこういう時便利だと思う。
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