俺と恋人は将来結婚して娘を授かるらしい。そいつが今目の前にいる ~同い年の娘が未来からやってきた~

色海灯油

第0話 未来と過去の始まり

「ハァッハァッ、やばい、もう4時だ」


 残暑が厳しい9月の初め頃、杉本柚希すぎもとゆずきは急ぎ足で病院の廊下を歩いていた。急いで仕事を切り上げてここまで来たのには勿論理由がある。


 今日、子供が生まれるからだ。


 自分と妻の初めての子供。妊娠が発覚してからこれまで体調に気を遣い、楽しみだねと笑い合い、健やかに育って貰うために様々な準備をしてきた。

 ついに今日、これからその赤ちゃんに出会えると思うと今すぐにでも走り出したくなるが、病院内ではそれも叶わない。できる限り速く歩き、分娩室の前にたどり着く。

 看護師さんによると、今まさに出産の最中らしい。今の自分には頑張れ、頑張れと祈りながら待つしか出来ないのが凄くもどかしい。


 どれぐらい待っただろうか、外を見るともう陽が沈みかけていた。もうかれこれ数時間も経っている。あとどれぐらいかかるのだろうか。彼女は、妻は大丈夫だろうか。そんなことを考えていると、中から、声が聞こえた。


 オギャーッオギャーッ

 ついに、生まれた。


「明音、大丈夫か!!」


助産師さんに呼ばれ中に入り、開口1番に問いかけると、妻の明音あかねはゆっくりとこちらを向き、にこりとぎこちない笑顔を向けてきた。


「柚希、来てくれたんだ。ありがとう」

「当たり前だろ」


 明音の憔悴仕切った顔を見て、思わず目頭が熱くなる。


「ふふっ、泣いてるの?」

「うるせー」

「こっち、来て」


 呼ばれて近づくと、明音を挟んで反対側に彼女がいた。今はもう眠っているのか、先ほどまで聞こえた産声もやんでいた。


「やっと、生まれたよ。私たちの子供。元気に育ってくれるといいね」

「大丈夫。きっと元気に育つさ。明音も知ってるだろ?」

「そうだね、もう8年ぐらいになるのかな?」


 8年前、当時大学2年生だった俺たちは彼女と出会った。

 俺たち2人の子供 ――真奈美と――



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