第10話


 翌朝。



(はぁ……。昨夜は結局テオドール様にお会いできなかったわ。)



 前日、アネットの前で泣いてしまったクラウディアは、その後テオドールとどう関わっていくべきか、アネットやジョアンナ、サムに相談していた。そしてテオドールへ、あるお願い事をすることになり遅くまで帰りを待っていたのだ。




(朝食も、きっとまた一人ね。慣れているけれど、やっぱり……。)




 公爵家で暮らしていたクラウディアは、父一人、子一人の家庭で、たくさんの使用人に囲まれていたが、父親との関わりは殆ど無かった。父親は仕事人間であり、クラウディアがレジナルドの婚約者となることで、より公爵家の地位を確立すると考えているようだった。なので、これまでもクラウディアは、一人で食事を取ることが当たり前だった。




 静かに思いを巡らせながら、ジョアンナに連れられ、朝食の場に向かうと……。





「……おはよう。」




 少々決まり悪そうに、挨拶するテオドールの姿があった。






「……!」




「……昨日は不在にしていてすまなかった。」




「……。」




「クラウディア嬢?」




「……っ!い、いえ!そんな、お気になさらないでください。テオドール様はお忙しいと思いますし……。」




 サムと、ジョアンナがテオドールへ冷たい視線を送っていることに、クラウディアは気付いていない。




「いや……。その、昨夜も遅くまで待ってくれていると聞いた。すまなかった。」



「そ、そんな。」



「何か話があったのだろう。何かあっただろうか。」



「え、えっと……。」




 まさか話せるとは思っていなかったクラウディアは心の準備が出来ていなかった。言葉に迷っているクラウディアを察したサムがフォローを入れてくれた。




「テオドール様。お食事をされてから、ゆっくりお話しされてはいかがでしょうか。」




「む……確かにそうだな。クラウディア嬢、食べるぞ。」



「は、はい!」




 誰かと食べる朝食は、もう随分と久しぶりだった。緊張のあまり、味も分からなかったが、クラウディアは嬉しさがじわじわと込み上げていた。






◇◇◇◇






「執務を手伝いたい、だと?」




「はい。」




 朝食の後、ジョアンナの淹れてくれたお茶を飲みながら、クラウディアはお願い事を伝えた。アネットたちとの話の中で、テオドールとの距離を縮めるための方法として、クラウディアの得意な事務作業を生かすことを提案された。クラウディアがテオドールの助けになると分かれば、テオドールが手放せなくなるだろう、とサムとジョアンナは自信満々だった。





「だが……クラウディア嬢はこれまで公務のせいで激務だったのだろう。今はここでゆっくりしてほしいのだ。」




「テオドール様……。」



 テオドールの優しさに、クラウディアは思わず目に涙を浮かべた。婚約者だったレジナルドも、血の繋がった父親も、テオドールのように心配してくれなかった。テオドールが当たり前のように心配してくれることが嬉しかった。





「テオドール様、何も王宮のように朝早くから夜遅くまで執務をするという訳ではありません。」



「ええ。ただ、あまりにすることがないと、クラウディア様も手持ち無沙汰になってしまいます。」




「む……。」



 テオドールは眉間に皺を寄せ、考えているようだった。結局、午前中の二時間だけ執務に取り組むことを許され、それ以外の時間はたっぷり休むことを約束させられたクラウディアは、笑顔を見せた。




「テオドール様、ありがとうございます!私、頑張りますわ!」



 明るく笑うクラウディアを見て、テオドールは思わず目が離せなかった。

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