第9話

 その晩、遅くに帰宅したテオドールを、サムとジョアンナは責めるような目で迎えた。




「どうして、こんなに遅かったんですか?」




「い、いや……急ぎでやることがあったから。」




 サムとジョアンナの目は、より鋭い目つきで睨まれる。テオドールは、公爵位ではあるが執務の全ては雇っている者たちに任せ、本人は畑を耕したり、物作りをして職人のように過ごしている。急ぎの仕事なんてものは無いことは、サムとジョアンナもよく分かっていた。




「クラウディア様は、先ほどまでお帰りを待たれていましたよ。」




「なっ……なんで止めなかった!」



「私たちは止めましたよ。ですが、クラウディア様がテオドール様とお話になりたいと仰って。日が変わるころには、半ば強引にベッドに入っていただきました。」



 ジョアンナは、テオドールに聞こえるように、「お可哀想に……。」と呟いた。テオドールの居心地は最高に悪くなっていたが、強引な使用人二人は逃がしてくれなかった。テオドールは観念して訊ねた。





「……今日、彼女は何をして過ごしていた?」




「「クラウディア様に、お尋ねになって下さい。」」




「お前たち……。」




 情けない声を漏らすテオドールだが、サムもジョアンナも攻撃の手は緩めない。




「朝食の場に、テオドール様がおられず、ショックを受けておられました。」




「う……。」




「……クラウディア様は、テオドール様に好きになってもらいたいと涙を流されておりました。」




「なっ……。」




 テオドールの繊細な心を、遠慮なくグサグサと刺すサムとジョアンナは、最後に「明日こそは朝食くらい一緒に取って下さい。」と締めくくった。






◇◇◇◇




「……少々言いすぎましたかね?」




 サムが心配そうにジョアンナに尋ねるが、ジョアンナは首を振る。




 昼間、クラウディアの涙を見たサムとジョアンナ、そしてアネットの心は一つとなった。この健気な人の願いをどうか叶えようと。





「まだまだ言い足りないくらいでした。アネット様の分まで言わないといけないのですから。」



 サムは大きく頷いた。明日から本格的にクラウディアの為に動くことになる。二人は燃えていた。

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