第6話



「……つまり、今回の婚約破棄は、君とアネット嬢が画策したもので、甥は掌で転がされていた、という訳か。」




 テオドールの低い声を聞き、クラウディアは頭が冷えた。大好きな相手と婚約出来て、つい舞い上がってしまったが、テオドールの立場からすれば良い迷惑だ。





「……テ、テオドール様。申し訳ありません。」




「ん?ああ、怒ってはいない。驚いただけだ。元々、甥や弟夫婦が君のことを大切にしていれば、こんなことにはならなかっただろうしな。」




「ですが……。」




「すまん。俺は考えることがあまり上手く無くてな。君の話を疑っている訳じゃない、だが、少し考えさせてくれ。」





「分かりました。」



 それっきり、馬車は静寂に包まれた。クラウディアは涙を堪えるのに必死だった。






◇◇◇◇





「テオドール様。貴方、馬車の中でどんな無体を働いたのですか。」


 執務室に着くと、テオドールの従者、サムは疑いの目を向けた。



「むっ、無体など働いていない!」




「だって可笑しいじゃないですか。王宮で婚約の手続きが終わってから、馬車に乗るまでクラウディア嬢はとても嬉しそうにしていたんですよ。それなのに、屋敷に着いたら今にも泣きだしそうだったじゃないですか。」




「お部屋に着いてからも、気丈に振舞われておりましたが、入浴は一人でさせてほしいと仰って。浴室で一人で泣かれていたのでしょう。目を腫らして、とてもお辛そうでしたわ。テオドール様が二人きりの時に何かしたとしか思えません。」



 侍女のジョアンナもテオドールを責め立てた。長い付き合いの二人に、テオドールは隠すことは出来ず、馬車の中でのことを全て話した。








「「それの何が問題なのですか?」」



 話し終わると、サムとジョアンナは声を合わせて尋ねた。




「あのな、何が問題って……。」




「クラウディア嬢は、テオドール様を好いてくれていたんでしょう。この歳で、あんな若くて可愛くて有能な令嬢に好かれるなんて奇跡ですよ。」



「クラウディア様は、王宮使用人たちからの評判も良いと聞きます。きっとテオドール様を支えてくれる奥さまになってくれると思いますよ。」




 サムとジョアンナは呆れ口調で話した。だが、テオドールも引かなかった。



「俺は、ほんの人助けのつもりで今日行ったんだ。しばらく休ませてやりたいし、その後は好きなことをやらせてやりたいと思っただけだ。それが、婚約破棄は彼女たちが仕組んだようだし、俺のことを好きだと言うし、混乱しても仕方ないだろう!」




「だからって、ねぇ。」




「本当に意気地なしですわ。」




 良い歳なんだから四の五の言わず、さっさと仲良くしてください、と心底呆れられてしまった。だが、待ってほしい。良い歳だからこそ、踏み出すのが恐ろしいのだと。テオドールは、心の中で叫んだ。





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