第4話
テオドールは、王族に生まれながら、全く王族らしくない男だった。平民らしい暮らしを好み、早い段階で王位継承権を放棄した。テオドールは、当時の国王夫妻である両親へ、廃嫡してほしい旨を伝えるが、それは許されず、公爵位を賜った。テオドールは優秀な文官たちに、執務を任せ、クラウディアに渡したような木箱を作ったり、庭の一角に畑を作りそれを耕したりして過ごしている。―――変わり者の公爵、それが貴族たちの評価だった。
「伯父上であれば、堅物のクラウディアとお似合いでしょう。」
レジナルドの揶揄は、クラウディアの耳に入らない。
「喜んで。」
美しい白い肌の手を、テオドールに重ねる。働き者の、ごつごつした大きな手に、クラウディアは心を弾ませ、頬を染めた。
◇◇◇◇
「クラウディア嬢、本当に申し訳ない。」
馬車に乗るなり、テオドールはガバリと頭を下げた。
「えっと……どういうことでしょうか。」
クラウディアは目をぱちくりとさせ、テオドールを見つめた。
「俺の甥と弟夫婦が、君にとんだ迷惑を掛けてしまった。謝っても許されないことだが、本当に申し訳ない。ましてや俺と婚約など……。」
先ほどの話の後、レジナルドはすぐに婚約届を取り出し、テオドールとクラウディアに記入させた。
(これほど準備が良いなら、もう少し公務をしてくだされば良かったのに。)
クラウディアは心の中で呟いた。なので、テオドールの苦い顔には気付かなかった。
「……あの時、会ったことを覚えているか?」
「はい、木箱も、飴玉も、ハンカチもとても嬉しかったです。」
クラウディアの答えに、テオドールは漸く表情を緩めた。
「そうか、それなら良かった。……あの時、誰かは気付かなかったのだが、後からクラウディア嬢だと思い出した。甥や弟夫婦が君に負担を掛けていることも耳に入っていたが、まさかあそこまで疲れさせているとは思っていなかった。」
「……。」
クラウディアは言葉を失った。自分では、素敵な初対面のつもりでいたが、そこまで酷い顔をしていたとは。
「だから、甥から君との婚約の話を聞いた時、甥には腹が立ったが、婚約すれば君をあの場所から解放できると思ったのだ。俺のようなおじさんと婚約なんて嫌だろうが、休暇だと思ってゆっくりしてほしい。君の望む進路が決まれば、いくらでも助けるから、そしたら、婚約破棄しよう。勿論君が悪いとならないようにするから。」
「そ……。」
「ん?」
「そんなの……。」
「クラウディア嬢?」
「そんなの嫌ですわ!!!」
完璧な淑女と言われたクラウディアの悲痛な叫びに、今度はテオドールが目をぱちくりさせる番だった。
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