第3話
(あぁ~むしゃくしゃしますわ!)
クラウディアは、心を整えるために騎士団の訓練所へ来ていた。流石に、王太子の婚約者が行くと目立つだろうとこれまではここに来ることを我慢していたが、先ほどのレジナルドの暴言に心を乱され、気持ちを落ち着けるために足を運んだ。目立たない場所で、こっそりと見ていると、イケオジ騎士たちが模擬戦をしている様子が見えた。
(大体、結婚したくないのは私だって同じですわ。)
レジナルドは容姿だけは良い、と言われているが、クラウディアの好みでは全くなかった。典型的な王子様タイプの、線が細く、キラキラした美形に、クラウディアの心は一ミリも動かない。
(殿下は若すぎて本当に無理……。)
少々横暴でも、体格の良い、ガサツなタイプのイケオジであれば許される、クラウディアはそう思った。レジナルドは、年を取っても王子様タイプのままだろう。結婚して、数十年我慢しても期待できない。クラウディアは、自分の暗い未来を思うと、大きく息を吐いた。
(私が好きなのは……。)
汗を流し、模擬戦を続けるイケオジ騎士をぼんやりと見ながら思い出す。王宮で、クラウディアを気遣い、優しくしてくれるイケオジたちを愛でることは勿論大好きだが……クラウディアは、あの日、飴玉が詰められた木箱を渡してくれた男を忘れられなかった。
だが、クラウディアには、あの男と結ばれることも、レジナルドから離れることも許されない。
「いっそ、平民になりたいわ。」
自分の好きなように生きることが出来ないみじめさで思わず呟いたクラウディアの言葉を、盗み聞く者がいた。
◇◇◇◇
「お父様、私を公爵家の籍から外してくださいませ。」
王宮の一室で、クラウディアの声がよく響いた。バーネット公爵はピクリとも動かない。国王夫妻がどうにか止めようとするが、言葉が出てこない。公爵より、国王夫妻より先に、レジナルドが口を開いた。
「いや、クラウディア、そこまですることはない。」
レジナルドはニヤリと笑った。
「クラウディアの新しい婚約者は既に見つけ、了承を得ている。お前は、良い婚約者ではなかったが、俺は慈悲深いからな。平民に落とそうとは思わない。」
感謝しろ、とレジナルドは鼻を鳴らした。
(ちょっと!何てことしてくれているのよ!)
まさか、嫌がらせのためだろうか。最後まで、最悪な婚約者だと、レジナルドを恨みを込めて見据えると、隣に佇むレジナルドが愛するアネットが、一瞬ニヤリと笑った。
「連れてきてくれ。」
レジナルドの合図で、入室してきたその男は―――。
(まさか……。)
「あ、兄上!なぜこんなところに……。」
国王は勢いよく立ち上がると、声を上げた。王妃も、公爵も、目を丸くして見ていた。
「テオドール=モーズリーと申します。どうか、クラウディア嬢の手を取る許可を頂きたい。」
国王陛下の兄、そして現在はモーズリー公爵家の当主を務めるテオドールが、クラウディアの前に跪いた。
(どうして、この方が。)
クラウディアは信じられない思いで、テオドールを見ていた。美しい正装に身を包み、身だしなみを整えているが、目の前で跪くテオドールは、あの木箱をくれた男だったからだ。
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