【出会いを求めて】 合コンの世界

海星めりい

【出会いを求めて】 合コンの世界


「ったく!? ホント文字数多いな!? 効果音まで喋んなくて良いってのに……とはいえ、ここをカットしたら使える所なくなるし――やるっきゃねえ!」


 男は愚痴をこぼしながらパソコンのキーボードをダカダカと叩いていた。

 モニターにはオレンジ色を主体とした少し変わった色合いをしたミミズクとメガネを掛けた中年女性が映し出されており、男の手によって『ルルルルルルル』だの『カリカリカリカリ』だの『シャーシャー』だのの文字などが追加されていく。


 男は撮影した映像の編集を行っていた。

 そう、この男は『有隣堂しか知らない世界』のプロデューサーであるハヤ○Pだ。

 そんなハヤ○Pが動画の編集をしているとデスク横に置いていたスマホがなり出した。


(あ? 誰だよ……ブッコロー?)


 スマホに表示された名前は『R.B.ブッコロー』。先ほどからモニターに映っているミミズク――その本人? 本鳥? からの電話だった。

 今現在の時刻はちょうど八時を回ったところ。メール等と連絡手段でないことを不思議に思いつつもスマホを手に取る。


「なに? どしたの?」


「P! P! この後ってさ、空いてたりする?」


 スマホの向こうから聞こえてきたのはブッコローの甲高い声だ。少し早口なことから焦っているようにも感じとれる。


「今、仕事中――というかブッコローの動画の編集してる最中だけど、納期にはまだ猶予があるから、空いてなくはないってとこだけど?」


 早めに終わらせておくに越したことはないが、今回アップする動画も半分程度の編集は終わった所だった。

 そんなハヤ○Pの返答を聞いたからかブッコローの声音が明るくなった。


「今から合コンなんだけどさー、男側に一人欠員が出ちゃって。だから、P来られたりしないかなーっと思って連絡したのよ」


「合コン? そんなこと言って前みたいに実質、飲み会なんだろ?」


 合コンと聞いてハヤ○Pの脳裏に浮かんだのは、以前ブッコローに誘われて行った合コンという名の『有隣堂しかしらない世界』の飲み会のことだった。


 確かに男女の人数こそ合っていたが、合コンと呼ばれて言ったらブッコローを初めとして、有隣堂の文房具バイヤーの岡崎さんやら、有隣堂広報の郁さんやら、有隣堂のベテラン書店員の雅代ねえやら、普段から一緒に仕事をしている面子が勢揃いだった。

 楽しくなかったとは言わないが、合コンと言われて連れて行かれた先がいつもの面子では騙された感が強い。


 そう答えると、


「違う違う違う!? 今回はホントに普通の合コンなんだって! ねぇ、P頼むよー!」


 ブッコローがわりと本気で懇願してきた。ここまで言うということは普通に合コンなのは間違いないだろう。


「……間仁田さんでも連れて行けば?」


「もう誘ったんだけどさー、間仁田さん皿洗いのヘルプで呼ばれて来られないって断られちゃってー!」


 間仁田さんとは文房具の仕入れの全権を握っているのに有隣堂が運営する居酒屋で皿洗いをしている社員だ。ブッコローの仕事仲間でもある。


「だからさ、P、お願い! 来てよー!!」


「うーん――……」


 ここまで言われても、ハヤ○Pとしては乗り気じゃなかった。急すぎるというのが一番の理由だが、仕事も残っているというのも大きいだろう。


 断ろうと口を開いた所で、


「やっぱ――「滅茶苦茶、可愛い子達なんだよー!!」詳しく」


 ブッコローから放たれた、ただらない発言に反射的に反応してしまった。手のひらドリルにも程があるが、滅茶苦茶可愛いと言われて反応しない男がいるだろうか? いや、いない。


 ブッコローもPの感情が動いたのが分かったのか、


「三対三の合コンなんだけど、男側は私とトリ君が決まってて、あと一人としてPに来てもらいたいわけよ」


「うん分かる。そこは大丈夫だから」


 トリ君はカクヨムの公式マスコットとして活動している種族不明の鳥類だ。ブッコローと知り合いになっていたどころか、一緒に合コンに行くほどの仲になっていたのはハヤ○Pも知らなかった。

 鳥類同士なにか通じるものがあったのだろうか。


 まぁ、それはそれとして――『男側の情報はいらないから、はよ』というのが、今のハヤ○Pの本心だった。


「で、相手の女の子達なんだけど」


 そう! 大事なのはその情報! と内心で思いつつハヤ○Pは耳に神経を集中させる。


「一人目が運動大好きな子」


「運動大好きな子」


「そうそう。特に走るのが好きで、よく走ってんのよ。スポーティーで健康的な感じ」


 陸上部的な感じかな? とスポーティーな一人目の少女がハヤ○Pの脳内にインプットされた。


「で、二人目がギャル」


「ギャル」


「あー、今って陽キャの方がわかりやすかったりする? まぁ、いいや。ファッションとか、メイクとかにこだわってるギャルっぽいッ子」


 パリピ的なギャルだろうか。人当たりの良いギャルを想像しつつ、三人目へと意識を向ける。


「三人目は大人しい子かな。物静かな清楚系の子よ。前二人と友人だから付いてきてくれた感じ」


「清楚系」


 文学少女的な感じだろうか? それとも箱入りお嬢様系? どちらにしても合コン慣れしてなさそうな子が来るということらしい。

 ブッコローが合コン好きというのはハヤ○Pも知っていたが、ここまでタイプの違う三者三様の少女達を集められるほどの実力者だとは知らなかった。


「で、どう? P参加する?」


「する」


 即答だった。


「じゃ、一時間後に集合ってことで。集合場所は送っておくから、Pよろしく」


「分かった」


 ブッコローとの電話を終えたハヤ○Pは小躍りしながら、合コンの準備を始めるのだった。


「軽めにシャワーでも浴びとくか? いや、ガッツキ過ぎな気も…………でもなあ…………」




 *************




 結局、あの後軽くシャワーを浴びたハヤ○Pはブッコローとの集合場所にやって来ていた。


 神奈川県内の繁華街であるここは、夜こそ本番と言わんばかりにネオンがギラギラと輝きを放っていた。


「おっ、P! こっちこっちー!」


「どうも……お久しぶりです」


 集合場所にはすでにブッコローとトリ君がやって来ていた。どうやらハヤ○Pは一番最後だったようだ。


「ゴメン、遅れた?」


「大丈夫、大丈夫、十分間にあってるから。急に呼んだのこっちだから、謝んなくって良いって。むしろ、来てくれて感謝すべきところだからさ」


 ブッコローはそう言うとパタパタと軽く飛び上がって、トリ君とハヤ○Pを先導するためかゆっくりと羽ばたき始めた。


「こっちに予約した店があるから付いてきて!」


「あれ? 相手の方達は待たないんですか?」


 ブッコローの言葉にトリ君は羽ばたきながら疑問を呈す。

 ハヤ○Pもそれは気になっていたことだった。


「女の子達ならもう少し後。ちょっと話しておきたいこともあるわけよ」


「ふーん」


 ここは今回の幹事とでも言うべきブッコローにトリ君もハヤ○Pも従っておくことにした。

 ブッコローに連れられてやって来たのは繁華街の居酒屋だった。


「すいませーん! 予約してたR.B.ブッコローです!」


「はい……どうぞこちらへー」


 後から追加で女の子達が来ることを店員へと説明した後、通されたのは個室だった。

 六名で使うには十分な広さだろう。

 おしぼりが店員によって準備されたところで、ブッコローが口を開く。


「最初に話しておきたいのは狙いについてよ」


「狙い……ですか?」


「まだ、相手の子達が来てないのにその話するのか?」


 合コンで誰狙い? みたいなのはよくある話だが、男同士で狙いが被るのもよくある話だ。


「女の子来てからこんな話するのは失礼でしょー。ひそひそ声だとしても、聞こえるかもしんないしさー、だから男だけ先に集まったのよ。あ、あとPから誰狙うのか決めていいよ」


 ブッコローはさらに続ける。


「急に呼んだお詫びというか、来てくれたご褒美というか、そんな感じ」


 ブッコローはそう言うがトリ君もそれでいいのだろうか? ハヤ○Pがトリ君に問いかける。


「は、はい。僕は大丈夫ですよ」


「そっか。じゃあ、折角だしお言葉に甘えさせて貰おうかな」


 と、言ったところでハヤ○Pは根本的な疑問が浮かんだ。


「あれ? でも誰狙いってどうやって伝えれば良いわけ? 伝えようと声だすわけにはいかないよね?」


「それは大丈夫。これを使うから」


 ハヤ○Pの質問は想定内とでも言わんばかりにブッコローはある物を手に取った。


「「おしぼり(ですか)?」」


 そう、ブッコローが手に取ったのは店員が持ってきていたおしぼりだった。一体これをどう使うのだろうか。


「やることはスッゲー簡単よ。おしぼりの向きで狙いの子を決めるだけ」


 そう言って、ブッコローはおしぼりを縦長に丸めた状態のまま実演する。

 自分の位置から見てというわけではなく、女の子達の位置をおしぼりで指定するらしい。


 例をだすと、

 /――これなら一番右の子狙いというわけだ。

 \――これなら左の子。

 ―なら真ん中の子ということになる。


 利にかなった説明だがスラスラと出てくるだけあって、ブッコローにとってはこのおしぼりコマンドとでも呼ぶべき技法は手慣れているのだろう。


「で、特に誰も狙わないって言うなら、おしぼりをグチャッと丸めちゃう感じ」


「ああ、相性が悪そうだから止めとくってこと?」


「そうそう。あっ、狙わないって決めても適当な態度とって、場を盛り下げるような真似は止めて欲しいかなー」


「わ、分かりました」


「流石にそんなことするわけないだろ」


 と、おしぼりコマンドについて理解し話し合いが終わった所で――


「おっ待たせー!」


「待たせちゃったー?」


「よ、よろしくお願いします……」


 可愛らしい声と共に女の子達が個室へと入って来た。


 合コンの期待値が上がるこの大事な場面。


「ッ!!!!!!」


 ハヤ○Pはやって来た彼女達を一目見て、声なき声を上げると思いっきりおしぼりをグチャッと丸めてしまった。


 なぜなら――


「全然、全然、待ってないよー! 私達、男組が早く来ただけだから気にしないでー!」


「分かったー。何頼もっかなー?」


「まず先に、自己紹介っしょ?」


「そうだと……思います……」


 そこにいたのはダチョウ、クジャク、ハシビロコウの三羽だったからだ。


 ブッコローとトリ君が参加している時点で、相手にも鳥類がやって来ることをハヤ○Pは気付くべきだったのだ。

 ここまで来てしまえば、今さら気付いたところでもう遅い。合コンは始まってしまった。

 人間一人、鳥五羽の謎の合コンが――





「そこで私はこう言ったわけ、薄ーい消しゴム食わされているみたいって」


「そんなこと言っていいの?」


「いいのいいの! 好き放題言っちゃっても。それが持ち味だから。忖度しないスタイルなの、私は!!」


「やだブッコローちゃん面白ろカッコイイー!!」


「ははっ……」


(なんだこれ?)


 軽く酔い始めているミミズクとダチョウとクジャクがじゃれ合っているのを見ながら、ハヤ○Pは適当に酒とつまみを口に放り込む。

 場を盛り下げないように取り繕ってはいるが、正直、帰りたい気持ちでいっぱいだった。


「トリ君って普段何してるの?」


「カクヨムの紹介とかしてます」


「それって具体的には?」


「えーっとですねー……」


 性格上、気が合うのかトリ君はハシビロコウと良い感じだった。


(せめて、人間が一人でもいれば……)


 会話自体は苦痛ではないとはいえ、テンションの上がる要素がない合コンを過ごすこと約二時間。ハヤ○Pは代役として合コンをやりきった。


(あーやっと帰れる。会話自体は苦痛で無かったのが幸いか……)


 女の子達は全員良い子でハヤ○Pとしても非常に好感の持てる子達だった。それ以外の問題があったため、無理してくる必要はなかったかな? とは未だに思っているが。

 そんな風に考えているハヤ○Pの気持ちを知ってか知らずか、


「二次会しよ! 二次会!!」


 ブッコローがそんなことを言い出した。


「おおーいいねー!」


「いっちゃおいっちゃお! ブッコローちゃんどこ行きたい?」


「トリ君も行く?」


「折角ですから行きましょうか」


 トリ君も行く気満々のようだ。

 このままでは、再び無駄な時間に巻き込まれてしまう!? とハヤ○Pは空気を壊すのを覚悟して断るべく口を開いた。


「ああー、ゴメン。仕事が残っているから、二次会は遠慮していい?」


「ええーPさん帰っちゃうんですか?」


「ちょっとPには無理してきて貰ったからね。しょうがない。P今日はホントにありがとう!!」


 ブッコローを初めとする全員の言葉を受けながらハヤ○Pは自宅へと帰っていく。




 *************



「あー、なんかどっと疲れた」


 家に帰ってきたハヤ○Pはそう独りごちると、編集の続きをするためにパソコンを立ち上げる。

 作業を開始しようとしたところで、スマホから音が鳴る。


 どうやらメッセージアプリの反応のようだ。

 確認してみると、ブッコローから『二次会 お裾分け』と称されてカラオケの個室で撮られた写真がアップされていた。


 見ると、そこには日焼けなのか小麦色の肌をした美少女の膝の上に抱っこされているブッコローとトリ君がいた。


 おまけにブッコローは青と緑が混ざった色合いのツインテールにメイクやネイルをバッチリ決めた美少女に撫でられており、トリ君はメガネを掛けた清楚な雰囲気を漂わせた灰髪の少女に撫でられていた。


 

 ハヤ○Pは一通り写真を眺めた後、軽くスマホ放り投げると万感の思いを込めて、



「人型に……成れたのかよっ!!!!!!!!!!」



 とても惜しいことしたと叫ぶのだった。



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