Film1. 俺にとって【曇らせ】とは?
諸君。諸君は【曇らせ】を知ってるか?
作者の性癖や、読者の需要によって、キャラクターや読者の表情を、文字通り曇らせることを指す言葉だ。
急に現れて、重い代償を以て主人公が苦戦していた敵を一蹴する。戦闘では無類の強さを発揮するが、その暗い過去と孤独を以て、主人公たち登場人物と読者に哀れみと同情を誘い、最期は儚く散るキャラ。
最初は主人公の幼馴染として登場するが、数々の修羅場に巻き込まれる主人公に助けになろうと力を求め始める。だが、次々と現れるヒロインたちに主人公の隣の座を奪われ始め、さらに力を求めた結果、最期は暴走し、主人公に止めを刺されて、その腕の中で息を引き取るキャラ。
その他、例を挙げればキリがないが、その誰もが主人公の成長のために犠牲となったり、主人公の暴走のきっかけになったり……当然ハッピーエンドもある(そっちの方が多い)が、【曇らせ】とは、そういった話の転換点になるキャラクター達に宛てがわれた役割なのだ。
───ところで諸君。俺は曇らせが超がつくほど大好きだ。
俺にとって【曇らせ】は、定期的に摂取しないと気が狂いそうになるほどの依存物質であり、娯楽以上の生活必需品であり、身体を駆け巡る血液である。
「今日も更新されてない……アバババ」
そして今、絶賛俺は禁断症状を発症しそうになっていた。
いつもならこの時間に更新されている【曇らせ】にフィーチャーされている作品が投稿されていないんだ。つい先日まで毎日更新されていた、直近で一番ハマっている【曇らせ】が、だ。
幸い他の【曇らせ】を摂取することによって何とか発症を抑えているが、それもそろそろ限界……
あ、あぁ、
どれだけ良い作品が書けるといっても、このサイトに小説を投稿しているほとんどの作者がアマチュアだ。専業で小説を書いている訳でない以上、何か急に仕事が入ったとか、作品を更新するモチベーションが下がってしまったとかあるかもしれない。だから更新が滞ってしまうのは仕方の無いことなんだが……
───ここから永遠に更新されないとかないよね? な、ないよね?
「お〜い、アラシ? 次の授業に遅れるよー」
「あ、あぁ……」
「何、どうしたの?」
「いや、なんでも……」
次の授業は魔法実技だったっけ。
今は何もやりたくない。授業もめんどくさい……モチベだだ下がりだ。
「アラシ?」
「今行く……」
更衣室に向かうために必要なものを持って重い腰を上げると、目の前に立っていた、一瞬女子生徒かと見紛うほど整った容姿と襟足のラインで切り揃えられた金色の髪が特徴的な同級生が溜息を吐く。
「やっと動く気になった。ほら、急ぐよ」
「らじゃー……」
金城 ユウキ。俺、出雲 アラシがこの学校、第二魔法学園高等部に入学して以来の親友である。
ユウキとは最初の席が隣同士だったことから関わり始めた仲だ。
席が隣ということで、授業の中で関わったりと、何かと話しているうちに、学校で一緒に過ごすことが普通になった。
喧嘩は一度もしたことないし、学校外でも互いの家にお邪魔してゲームを共有したりなど、付き合いとしては短くとも思い出には事欠かない。
───ユウキはそこら辺の女子より可愛い容姿をしてる。身内贔屓だと思われるかもしれないが、実際、男子から一定の人気がある。けれど、男であることはとある事故で完全に確認しているし、今更その容姿に惑わされてドギマギすることはない。
俺が自然体で話せる、数少ない友人なのだ。
「今日の実技って何やんだっけ?」
「模擬戦だよ、覚えてないの?」
そうだった……思い出した。今日の魔法実技の授業は模擬戦をやるんだって木村先生が言ってたな……
求めていた【曇らせ】を摂取できずに憂鬱だった気分が、余計に沈んだものになる。やらなければいけないものは仕方がないが、対人戦の才能が全くない俺にとっては、模擬戦なんてストレスの原因でしかないのだ。
「まぁまぁ、そんなに気を落とさない。誰にだって向き不向きはあるんだから」
「って言われてもねぇ……」
正直、理論だけなら誰にも負けることはないと思う。
それこそ向き不向きだ。俺に戦闘が向いていないのは百も承知している。だが、そう割り切れない自分がいるんだ。
俺にもまともに戦える力があればなぁ……
ユウキの腰に下げてある剣を見ながら、俺はそんなことを考えるのだった。
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