闇が深そうな生体兵器にされちった!

淺間 葵

Film0. プロローグ

 星など1つも見えない摩天楼の森で、唯一空から降り注ぐ月光を背にして黒と赤のコントラストが1人空に舞う。


『右腕電磁投射砲、展開』


 少女の声が、無人のビルの屋上でされた。───瞬間、少女の右腕が5本の指に沿って不気味に裂ける。

 そうして露出したのは、無機質な裂け目を埋めるように赤黒い稲妻を発生させ続けている電磁投射砲レールガン


『照準器表示』


 続いて出力された少女の声に応えるように、少女の眼前に無機質なディスプレイが表示される。

 ディスプレイには、右腕を向ける少女と同じ色の紫電を放つ怪物と、それに相対するように神々しい剣を構えた少女のような人物が戦闘している場所が映し出されていた。


『右腕電磁投射砲、電圧、規定値を突破。射撃用意完了』


 少女はその2体を見下ろしながら、自分とである方に照準を合わせていく。

 少女にだけ聞こえる照準器から発生している規則的な音が、やがて鳴り止む。ディスプレイでは『照準、目標を追跡中』の文字列が同族の姿を飾り付けている。


『……穿て』


 照準が問題なくを捉えているのを確認して、無機質に一声。

 その瞬間に文字通り、右腕が叫ぶ。空間を切り裂くように。敵に風穴どころでは無い被害を与えるために。

 およそ少女の体から発声してはならないレベルの爆音と、鍛えられた男の肉体の体幹であっても踏ん張りきれないレベルの爆風がビルの屋上を襲う。

 衝撃でビルの屋上はひび割れ、爆風で少女の腰まで伸びた紅いインナーカラーが映える黒髪が狂い咲く。

 ───やがて、衝撃に耐えきれなかった無人のビルが崩壊を始める。


「……やっべ、巻き込んでないよな?」


 矢継ぎ早に紡がれた、少女の声と共に。





「ッ……」


 周囲に鳴り響く警報に混ざって、私の剣と怪物の体の表面を覆う鱗がぶつかり合う音が響き渡る。

 魔物が現れた時に使われる警報を聞き、街からは既に人気は一切なくなっている。

 そんな無人のビル街で、もうどれぐらい目の前の怪物の鱗に剣を打ち付けているだろう。自分の体内時計が信じられなくなるくらいには、無心で目の前の怪物に剣を振るっていた。

 それにしても、固すぎる。やはり普通の魔物とは違うらしい。……魔力を通した斬撃でも一切効いている様子がない。

 魔物とは明らかに違うフォルム。全く魔力を感じられないという異常性。なのに魔法の様な超常的な能力を有している。

 そんな怪物の正体を探っているはずの本部との通信手段ももうない。戦闘開始直後にインカムを破壊されてしまっていた。

 体は既に悲鳴を上げ始めていて、魔力はもうすぐ切れる。そうなればこの剣に魔力を通すことはできなくなり、目の前の怪物を殺すことができる可能性がもっと低くなる。

 今ですら倒せる可能性はゼロに近いのに……

 私の人生もここまでか……ハハ、思ったより早かったな……

 もうすぐそっちに行くことになりそうだよ、アラシ。出来れば、盛大に歓迎してくれると嬉しいな───

 そんな諦めを、が感じ取ったかのように、手足のように振り回せていた剣がいきなり重くなる。

 魔力切れだ。そう言えば、魔物の目の前で魔力切れは起こすなって、授業でアラシが怒られてたっけ……

 まぁ、どうでもいいっか。これでアラシと同じところに行けるなら───


 そうやって、鈍らになった剣を手放して、敵に無防備をさらした瞬間。

 空間が、爆ぜた。


「え……? うっ───!」


 その衝撃を、爆風に身を任せるように転がって受け流す。

 ゴロゴロと地面を転げまわって、やがて、どこかの建物の壁にぶつかって止まった体を起こしてみれば、さっきの謎の爆発で抉れた地面と、その周りに少しだけ飛び散っている赤黒い液体が目に入った。

 それが、さっきまで私が苦戦していた怪物の残骸だと理解するのに、そう時間は掛からなかった。


「一体……なにが……ッ?!」


 状況を確認しようと、私の真横まで飛ばされていた聖剣を杖代わりにして近づこうとしたその時、近くのビルの上の空間から違和感を感じた。

 まるで、そこの空間から一切の魔力を無くしたかのような、そんな感覚。

 さっきまで相対していた怪物も魔力は一切感じられなかったが、空間にぽっかり穴が開いたように感じさせる程の魔力の無さではなかった。

 そこに深淵でもあるかのような、魔力の空白地帯ブラックホール

 恐る恐る、そちらの方に目を向ければ、その空白地帯にいたのはまだ初等部か中等部生ぐらいに見える少女。

 腰まである黒髪の内側を彩る紅が綺麗だと感じさせる一方、違和感を感じるのはその存在感だけじゃなくて、その服装もだ。

 黒一色のツナギ服に赤いベルトの様なものが取り付けられており、それらは無理やり引きちぎられたように破壊されている。それに加えて、右袖は焼き切れたように不自然に無くなっていた。

 およそ少女が袖を通すべき服装ではないように見えるそれに包まれた彼女は、私と目が合うと、すぐにどこかに飛び去ってしまった。

 ───多分、さっきの砲撃は彼女によるものだ。通常生物が皆持っているはずの魔力が全く無いように感じたあの少女が、どうやってあれほどの火力の砲撃をしたのかは分からない。

 だが、彼女のおかげで捨てていた命を拾ったんだ、私は。

 そんな確信が、あった。

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