171話 理想の未来
ミナの仕事もある程度落ち着いてきたようで、俺やディヴァリアと遊びに来ている。
和やかに会話していて、宰相との事件など無かったかのようだ。
結構な立場の人間を死なせたから、苦労するのかと思っていた。重要な仕事をいくつもこなしていたはずだからな。
ミナの力は、俺が想像していたもの以上だったようだ。
「ディヴァリアの協力のおかげで、ずいぶんと楽ができました」
「それは良かった。ミナには良い王様になってもらいたいからね。私にも協力してもらいたいし」
「わたくしとしても、リオンとディヴァリアには名声を手に入れてほしいですから」
「ディヴァリアはすでに十分な名声を持っていると思うけどな」
俺だって、勇者としての名前は結構大きいのを感じている。
だが、聖女を慕う人間の多さを実感した以上、あまりすごいとも思えない。
本当に大勢から好かれているからな。宰相の告発で実感した。
疑われていたのなら、魔女だという言葉に同調する存在が多かったはずだからな。
清廉潔白に見える人間の悪事なんて、盛り上がる上でいい材料だろう。
にも関わらず、死ぬことになったのは宰相だからな。
「リオンだって、聖女に匹敵すると言って良いと思いますよ。まさに英雄として、希望の灯となっているのです」
「だけど、足りないんだ? つまり、帝国や教国だったところにまで広めたいって感じかな?」
「そうですね。わたくし達の支配が届くように。理想の世界を作れるように」
支配と言うと言葉は悪いが、ミナの手で制御されている方が、民衆にとっても幸福だろうさ。
ミナは本気で世界征服を望むような人間じゃないからな。
自由というと聞こえがいいが、高度な教育と才能があって初めて価値を持つものだ。
極論、犯罪者に好き勝手する自由なんて無い方が良いのだから。
優秀な人間に制御されている方が、完全に自分で何もかもを選ぶよりも幸せになれると思う。
俺だって、何でも自分で決めて良いと言われると困る気がする。
近衛騎士になるという道があるから、考えることが少なくて済むんだ。
自分の感情を理解できなかった頃の俺は、とにかく迷走していたからな。
これからだって失敗しないという保証はない。それが自由の怖さなんだ。
それに何より、ミナの力なら、自分で選択しているつもりで手のひらの上という状態を作れるだろうさ。
自由が無いなんて嘆く必要もない。当たり前に生きているだけで、国にとって都合が良くなるはずだ。
何もかもを知らずに、上を見る苦しみを味わわなくて済む。そんな幸福を手に入れられるだろう。
「ミナの理想の世界なら、きっと良いものだろうな。楽しみだよ」
「そう言ってくれるあなたが居たから、わたくしは強くなれた。リオンには、強く感謝しています」
「私達の中で、一番にミナを王様にしたいって言い出したのはリオンだからね。自分を肯定してくれる人の存在がどれだけ力をくれるかは、よく分かるつもりだよ」
おそらく、何の才能も感じなかったら、王になってほしくないって思ったはずだ。
だから、ミナ自身が素晴らしい人だからなんだよな。感謝はありがたいが、特別なことではない。
俺が王になるよりも、間違いなく良い未来を作ってくれる。そう信じられる人だからこそだ。
分かっている。俺の方が優秀だと思った上で、世辞を言える人間じゃないんだよ。俺という人間はな。
「ミナが王になった姿を見たいのは、俺の本音だったからな。ウソは苦手なんだよ」
「確かにリオンはウソが下手だよね。私には簡単にわかっちゃう」
「わたくしも同感です。だからこそ、リオンの言葉は強く胸に届いた」
ウソが下手だと思われているのは、普通に恥ずかしいな。
まあ、ミナが喜んでくれているのだから、それで構わないのだが。
貴族としては、今の状況はまずい気がするから、少しはうまくならないとな。
敵が相手だとしても、自然に笑顔を取りつくろえるくらいが理想だ。
「本気で私達のことが大好きって、すぐ分かるもんね」
「ええ。わたくしは、リオンの好意に救われたのです。周囲の人間には、認められていませんでしたから」
「私も似たようなものかな。私の言葉を理解してくれたのは、リオンだけだったから」
「お前達の周りが、見る目がないだけなんだよな。どう考えても優秀だったのに」
実際、ディヴァリアは外道でさえなければ、どんな人間よりも魅力的だと思う。
ミナだって、今の状況が才能を示している。ミナの思い通りに進んでいる訳だからな。
俺なんて、本来はディヴァリア達と並んでいい存在じゃないからな。偶然に助けられただけだ。
だからといって、今みんなと一緒に居られる状況を手放すつもりはないが。誰が相手だろうとな。
「なんか、リオンだけは私の知っている他の人達と違うんだよね。考え方が、別の世界の人みたい」
流石に俺が異世界から生まれ変わったという事実にたどり着かれはしないだろう。
それでも、正確に正解を引き当てているあたり、ディヴァリアは優秀だ。
誰が相手だろうと明かすつもりはない事実だから、墓まで持っていくつもりではあるが。
シャーナさんには、原作を知っているという事実だけは知られているんだよな。
実際のところ、正確な答えにたどり着かれているのだろうか。
まあ、理解していたとしても黙っていてくれるだろう。その辺は安心できる。
「その感覚は分かります。根本的に、私達とは価値観が違うのでしょう。まさに異世界の人ほどに」
「俺はただの人間なんだけどな。特別になりたいと感じたことはあるが、現実からは遠いよ」
「リオンの正体なんて、私達のそばに居てくれるという事実と比べたら小さな事だよ。ね?」
「そうですね。仮に化け物だったとしても、どこまでも隣にいるだけですから」
俺も同じような気持ちではある。ディヴァリア達が人ではなかったとしても、感情は変わらない。
だからこそ、ディヴァリア達の言葉が嬉しい。何があったとしても、絆は壊れないと信じられるから。
「ありがとう。俺だって、どんな未来でもお前達のそばにいるよ」
「約束だからね。リオンが居ない世界なんて、私には必要ないんだから」
絶望の未来を見ていると、本気で世界が滅ぶと分かるからな。
俺は死ぬ訳にはいかないんだよな。世界の命運がかかっている。
とはいえ、シャーナさんからも警告はきていないし、少なくともしばらくは安全なのだろう。
ゆっくりと、ミナの治世を見ていきたいな。きっと、いい国になってくれるはずだから。
「リオンが居る限り、わたくしは理想の王を目指します。あなたが望んでくれた国をね」
「責任重大だな。だが、安心してくれ。絶対に離れたりしないよ」
「これまで、リオンはずっと約束を守ってくれたからね。信じているよ」
「わたくしも同じ気持ちです。リオンだけは、わたくしを裏切らない」
「そうだね。リオンだけは、何があったとしても信じられる。ミナ達だって、ちゃんと信じているけど。やっぱり違うんだよ」
「わたくしにとっても、ディヴァリアにとっても、他の人達にとっても。リオンは光なんですから」
大切な相手だと思われていることがよく分かる。
だからこそ、これからの未来でみんなが幸福で居るためにも。俺は生きてやる。
「俺だって、お前達のことはずっと信じているよ」
「ええ。信頼しています。だからこそ、あなたの幸福のために全力を尽くす。全身全霊をかけて」
「そうだね。私達だって、リオンが幸せだと嬉しいから」
「わたくし達は誓います。ずっと、どんな未来でも、あなたの幸せは壊れないと」
「うん。きっと、リオンの想像なんて超えちゃうんだから。期待していてね」
「それが、今までもらった幸福へのお返しです。ありがとう。これまで尽くしてくれて」
こちらこそ、だ。ミナ達だって幸せになれるように、俺だって全力を尽くしてみせるからな。
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