162話 進む計画
ディヴァリアとサクラは仲違いした演技を続けている。
本気で嫌い合っているのなら、ディヴァリアなら殺してもおかしくはないと思う。
なのに、一切の兆候が見えない。である以上、本当に嫌っている訳ではないのだと安心できる。
前世では、嫌っているフリから本当にこじれた件を見ていたことがあるからな。
ディヴァリアもサクラも、相手が本気で傷つかないラインを意識しているのだろう。
見た感じ、ディヴァリアは聖女としての演技がこなせるだけあって、人の心を推し量ることがうまい。
サクラは原作では攻略対象を落としていく魔性の女だからな。人に好かれる性質があるのだろう。
俺としては、2人の演技がうまくて信じてしまいそうな瞬間すらある。
まあ、俺も好奇の目で見られているのは仕方ないか。どう考えても、2人のケンカの中心は俺だものな。
「リオンさんっ、ケンカするような人達は放っておいて、わたしと話しませんか?」
今もメルキオール学園に居るのだが、相変わらず2人は恋の鞘当てみたいな動きをしている。
それで、ユリアは信じているのかどうなのか。どちらかによって正解の動きが変わる。
ユリアは俺の腕を取って、2人の方をちらりと見た。そして、薄く笑う。
どっちだ。今の挑発は演技か。それとも、本音なのか。
かつて、ディヴァリアが一番でなくてはという認識が使用人の間の共通認識だった。
実は不満を抱いていたのか、あるいはちゃんと納得しているのか。
「ユリアさん、リオンはわたしの夫となる相手ですよ? いくら使用人とはいっても、距離が近すぎませんか?」
「なに、ディヴァリア。嫉妬? やっぱり、怖いんだ? そんなにリオンが取られるのが心配なの? あたしはリオンを信じられるわよ」
「サクラさん、そういう問題ではありません。人の男に手を出すのが好ましくないという、当たり前の事実を話しているのです」
「あんまり縛ると、リオンさんに嫌われちゃいますよっ。わたしが知っている、聖女様の秘密をリオンさんに教えたら、どうなるでしょうねっ」
何があったとしても、ディヴァリアを嫌うなんてありえない。
ハッキリ言って、もう悩むような段階は踏み越えているんだ。
さて、ユリアの言う秘密とはなんだろうな。俺は知らなくて、ディヴァリアを嫌いそうなものか。
外道であるという事実なんて、今更すぎるんだよな。
ディヴァリアはユリアをにらんでいるが、殺意は感じない。
となると、ユリアも計画の仲間なのだろうか。結構大きい問題になりそうだな。
まあ、サクラとユリアが関わっているのだから、俺が追い詰められるような事にはならないだろう。
2人とも、間違いなく俺を大切に思ってくれているからな。
「ユリアさん、脅しのつもりですか? 残念ですが、リオンが私を嫌う未来なんてありませんよ」
「そんな事を言っていいんですかっ? リオンさんだって、わたしを大切な使用人だと思っているんですよっ」
「ディヴァリアには、リオンはもったいないのよ。救国の勇者なのよ? 聖女の名前の方が大きかった頃とは違うのよ」
「そんなサクラさんは、自分がリオンにふさわしいつもりなんですか? ただ、リオンに助けられただけのあなたが」
本気でハラハラする。いつか、一線を越えた言葉を撃ち合ってしまうのではないかと。
いくらプロレスを楽しんでいても、本気で腹が立つ瞬間はあるはずだからな。
今は、きっと楽しいとすら思っていないだろうから。余計に怖い。
最悪の場合は、俺の命を餌にしてでも争いを止めるべきだろうか。
シルクを悲しませる事になるだろうが、それでも。
もちろん、何もない事が一番なのだがな。
おそらくは、本気で嫌い合っていると思われたいのだろうから、意図は分かる。
強い言葉を使うくらいでないと、演技に見える可能性はある。
さて、うまく裏側で調整できると良いのだが。
「あたしとリオンは、心奏共鳴を使えるわよ。分かるわよね?」
確かに心奏共鳴は絆の証なんだよな。えげつない挑発だ。
ただの仲良し程度の関係で使えるものではない。
お互いがお互いを信じていて、命を預けても良いと思えるくらいでなくては。
俺とディヴァリアは、心奏共鳴を使ったことがないんだよな。使う必要のある敵がいなかったのもあるが。
「それなら、わたしもリオンさんと心奏共鳴を使いましたよっ。聖女様はどうですか?」
「私とリオンの絆は、心奏共鳴なんて程度で測れるものではありませんよ」
「ふふっ、負け犬の言葉よね。あたしとユリアの方が、リオンにふさわしいんじゃないの?」
サクラがユリアを巻き込んだ。なら、計画通りなのだろう。
意図していない展開なら、もう少し調整するだろうからな。
そうなると、ディヴァリアが周囲を敵に回しているという構図が必要なのか?
恨みというか、敵意を持っていると思われてほしいのだろうか?
つまり、ディヴァリアに敵対する人間をあぶり出したいのか。いったい誰だ?
「聖女様っ、リオンさんの輝きに憧れるのは分かります。だけど、心奏共鳴もできないのなら、結果は決まっていますよねっ」
「あたしとリオンは、双翼の双子の心奏共鳴だって超えたんだからね」
実際のところ、俺とディヴァリアで心奏共鳴は行えるのだろうか。
これまでの経験上、どうしても必要という局面がほしい。
今の俺とディヴァリアの2人で、追い詰められるような事態を想像できない。
とどのつまり、俺とディヴァリアで心奏共鳴を実行するのは難しいだろうな。
「どれほど絆を主張しようとも、私とリオンが結ばれるという事実は変わりませんよ」
「ぐっ……ただ、幼馴染として生まれただけのことで!」
「それを、運命と言うんですよ。私とリオンの絆は、何があっても壊れないんですよ?」
「サクラさん、今回は下がりましょうっ。しっかりと計画を練らないといけませんからっ」
「……そうね。無策で挑んでも、結果は同じか。味方を増やさないことにはね」
なるほど。その味方として、ディヴァリアの敵は入り込もうとするのか。
だとすると、メルキオール学園に通うような貴族とのつながりがあるのか?
今は情報が少なすぎて特定までは難しいな。
だが、相当な権力者の可能性もある。それは分かった。
おそらくは、ディヴァリアの本性を知っている人間をターゲットにしているのだろう。
サクラとユリアは去っていき、俺達2人が残される。
どうも、ギャラリーはヒソヒソとなにかを言っている様子。
まあ、当たり前か。修羅場が目の前であれば、それは話題になる。
「リオン、私が一番ですよね? そう言ってください」
「もちろんだ。俺はお前が誰よりも好きなんだ。結論は変わらないよ」
周りで人が聞いているのだと思うと、とても恥ずかしいが。
状況的には、ディヴァリアとサクラ達の対立軸を深めそうなことを言うべきだろう。
サクラやユリアの嫉妬が、恨みが、本物であると勘違いするように。
失恋した少女など、容易く操れそうだと思うのだろうな。
だが、ディヴァリアの味方だと決まり切っている相手なんだよな。敵も哀れなものだ。
「なら、安心ですね。サクラさんも、ユリアさんも、つまらない嫉妬をしているだけ。全て無駄なんですよ」
「あまり悪く言わないでくれよ。俺の友達と使用人なんだから」
「だったら、リオンのそばすら失いそうな選択をしなければいいのですよ」
本当にディヴァリアから俺を奪いたいのなら、あるいは俺と結ばれたいのなら、確かに他のやり方はある。
だからこそ、余計にサクラ達が愚かに見えるのだろう。敵にとっては都合のいいことに。
「まあ、否定はできないが。ディヴァリアとあいつらなら、お前を選ぶからな」
「ふふっ、良い気分です。私だけのリオンは最高ですね」
ディヴァリアは、バカにしたような笑みを浮かべる。
計画が終わったら、きっと再び仲のいい姿を見られる。
そう信じて、俺は進んでいくしかない。
つらくはあるが、未来のためだ。順調なようだし、頑張っていこう。
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