160話 愛の約束
ディヴァリアとの結婚式も、そろそろ目の前と言って良いんじゃないだろうか。
まだ1日2日で結婚する訳では無いが、ついに実感が湧いてきた感覚がある。
今日はディヴァリアと、結婚式の後の話を進めている。
気が早いと思うかもしれないが、やりたいと言ってすぐできる事ではないからな。
今回の結婚式だって、なかなかに準備期間が長いのだし。
「サクラとの結婚は、まだみんなには内緒でいこう。いきなり発表しても、困惑させちゃうだろうからね。そもそも、こっそり結婚でも良いかもしれないね」
まあ、俺とディヴァリアが結婚式を行うのは、勇者と聖女という名声、俺達の家が侯爵家と公爵家であることが大きい。
その辺、サクラは単なる平民ではあるからな。目立たせる必要は薄いかもな。
まあ、本人とも相談しないことにはな。勝手に話を進めるのは問題だろう。
「いろいろ可能性は考えて良いと思うが、サクラ次第でもあるな」
「確かにね。サクラが結婚式をしたいのなら、私だって叶えたいからね」
ディヴァリアの表情は穏やかで、サクラが大好きだというのが伝わってくる。
嫉妬心もあるかもしれないと考えていたが、制御できる感情なのだろう。
そもそも、ディヴァリアは理性的なんだよな。殺しだって、冷徹な計算のもとに行われている。
単純に感情を爆発させるディヴァリアなんて、見たことがない。
むしろ、俺の方が心を制御できていないくらいだと思える。
まあ、絶望の未来では怒りに身を任せていたか。
だけど、だからこそ安心できる。大切な人が死んでただ耐える人間なんて、むしろ信用できないからな。
病気や寿命なら、分かる。でも、殺されている訳だからな。
多少理不尽であっても怒りをぶつけるくらいの方が、俺には理解できる。
「今でも驚いているな。ディヴァリアが複数の妻を容認するなんて」
「あはは、嫉妬深いって思われてた? 間違いじゃないけどね。ただ、サクラ達は大好きだから。ソニアやシャーナも、我慢できる範囲だから」
「無理はしないでくれよ。俺が一番好きなのは、ディヴァリアなんだからな」
「大丈夫だよ。リオンが私を一番に考えることは疑ってないよ。だから、耐えられるんだ」
なら、しっかりと愛を伝えていかないとな。
耐えられるという言い回しからして、苦しさは感じているのだろうから。
周りとの関係と、自分の嫉妬心を天秤にかけているはずだ。
その上で、友達だって大切にしたいと決断しただけなのだろう。
ディヴァリアの決意に、俺だって応えたい。ちゃんと、幸せにしてあげたい。
「ありがとう、でいいのか? とにかく、大好きだ」
「ふふっ、急にどうしたの? 私も、大好きだよ。ずっと一緒だからね」
「ああ、もちろんだ。お前のことは、何があっても幸せにしてみせる」
「リオンがそばに居てくれるだけで、私は幸せだけどね。リオンが幼馴染で、本当に良かった」
花開くような笑みを見ることができて、少し安心できた。
ディヴァリアだって、サクラ達との関係で悩んでいたのだろう。
俺も、異性である以上は付き合いを考え直すべきか悩んでいたからな。
それでも、ディヴァリアは周りを大切にするという決断をした。
俺の知っている原作のディヴァリアでは、きっとありえなかったと思う。
「俺だって、お前と出会えて良かった。苦しんだこともあったが、今では良い思い出だ」
「リオンは人を殺すのが嫌だもんね。知ってたよ」
前世での価値観なのか、それとも人類共通の悩みなのか。
ディヴァリアは人殺しが平気そうだから、余計に悩んでいたんだよな。
俺が弱いだけなのか、あるいはディヴァリアがおかしいのかと。
今となっては、ディヴァリアの存在が頼もしいのだが。
「まあ、シルクもルミリエも嫌みたいだからな。できれば俺がやりたかった」
「優しいね、リオンは。私も手伝ってあげたほうが良かった?」
「いや、皇帝レックスとの戦いまでの道筋は、絶対に俺にとって必要だった」
自分の本心を理解できないまま、ずっと生き続けてきたわけだからな。
仮にディヴァリアが敵を殺し尽くしていたとして、俺が好意を自覚できたかは怪しい。
苦しい道筋ではあったが、確かに意味のある道だった。
「帝国と戦ってすぐだったもんね。リオンが告白してくれたのは」
「そうだな。命の危機になって、初めて自分の心を理解できた」
逆に言えば、死ぬ直前まで自分の本心を分かっていなかった。
ハッキリ言ってバカバカしいと思う。でも、多分死にかけなきゃ受け入れられなかっただろうな。
ディヴァリアを外道と認識したままで好きになるのには、良心が邪魔だったから。
理性も何もない裸の心が表出したからこそ、俺の心に納得できたんだ。
「リオンが危ない目にあったのは嬉しくないけど、おかげで好きになってくれた訳だからね。複雑だよ」
「まあ、逆の立場だったら似たようなことを思うだろうな。でも、俺は嬉しいよ。自分の想いが叶って」
「リオンのことは、ずっと大好きだったんだよ。気づいてくれなかったけどね」
「ごめんな。言い訳になるかもしれないけど、俺にも悩みがあったんだ」
「リオンの悩みって、何だったの?」
言ってしまって良いのだろうか。悩ましいな。
ごまかすとして、どこまでごまかすべきだろう。
いや、ウソをついたって気づかれるよな。俺だって、ディヴァリアのウソは分かる気がするし。
そうなると、素直に話すのが正解だろうか。仕方ない。話すとするか。俺がうかつなことを言わなければ良かっただけだからな。
「ディヴァリアが人を殺すのを止めたくて、ずっと悩んでいたんだ」
「今では悩んでないんだね。なら、もう大丈夫なの?」
「それこそ、サクラやノエルみたいな人がが死なない限りはな」
「なら、問題ないね。とはいえ、私だって積極的に殺すつもりはないよ。手間だからね」
やはり、良心で止まる人間ではないという俺の判断は正しかった。
今でも、人を殺すこと自体を問題視している訳ではないのだろう。
それでも、ディヴァリアが好きなんだ。俺も罪深いものだ。
だが、悪い気分ではないな。ディヴァリアが俺のことを考えてくれているのは。
「ありがたいな。人が死ぬのは、できれば少ない方がいい」
「それがリオンの望みなら、できるだけ殺さないようにするよ。どうしても必要なら、話は別だけどね」
もしかしたら、初めからディヴァリアに頼めばよかったのかもな。人を殺さないでほしいと。
なら、ずいぶんと遠回りをしたものだ。だが、当時の俺には選べない選択だった。ディヴァリアを恐れていたからな。
反対すれば殺されるのではないかという考えは、いつも頭の片隅にあったから。
「まあ、今の王国で誰も殺すななんて言うやつが居るのなら、信用できないよな」
「そうだね。最低限、殺すべき敵はいるよ。好き嫌いを抜きにしてもね」
実際、武力に訴えかけようとする人間は多い。
これまで戦ってきた敵のほとんどが、力で現状を変えようとする人間だったからな。
それを思えば、殺さずに生きるなんてことは貴族には無理だ。流石に、わきまえている。
「だな。それでも、犠牲が少ない方が嬉しいが」
「リオンの望みは、もうすぐ叶うよ。だから、安心して結婚式を待っていてね」
「ああ。お前との未来のために、もう少しだけ頑張るよ」
「ふふっ、今回は、私が全力を尽くす番。でも、少しだけ心配をかけちゃうかもね」
シャーナさんも言っていたな。俺に負担がかかりそうだというような事を。
それでも、ディヴァリアのことを信じるだけだ。簡単なことだよな。
「それが終わったら、結婚だな。きっと、俺達は誰よりも幸せになれるだろうな」
「うん。約束するよ。必ずリオンを幸せにする。私の全てをかけてね。だから、これからもよろしくね」
ああ、もちろんだ。俺の命が続く限り、お前を愛し続けるからな。
――――――
リオンとの結婚式まで、もうすぐだと言って良い。
最高の舞台を整えるために、最後の敵を排除しないとね。
私を理解している全ての人間に対する抑止が、完成する瞬間なんだ。
脅しなんて通用しない。真実を明かそうとしても無駄。敵対すれば死ぬ。そう教えてあげるんだ。
親切だよね。さっさと殺した方が、私にとっては楽なんだから。
だけど、リオンは犠牲を少なくしてほしいみたいだから。
少しだけ遠回りすることになるけれど、リオンのためなら悪くないかな。
協力者は、リオンとの結婚を餌に集めた。ソニアもシャーナも、喜んで従ってくれたよ。
リオンの師匠の持っているものは、恋愛感情ではないみたいだけど。それでも、一緒に居たい相手だもんね。
私に何かあれば、リオンだって巻き込まれちゃう。私とリオンが結婚することは、周知の事実なんだから。
リオンに希望を見た人達は、絶対に失いたくないと考えている。都合がいいよね。
ソニアは私に敵意を持っていた。その感情は本物だから。
だからこそ、私の計画にとっては都合がいい。私を排除したい人を、逆に潰してあげるためにはね。
――人はね、敵味方で境界を引きたがるんだ。中間を考えられる人は少ないよ。
ソニアやサクラ、他の人達を味方って思っておいてね。
最後には、絶望とともに死を贈ってあげる。
どこまでも私の手のひらの上でしかないのだと、心から理解させてあげる。
その後は、いよいよ私達の結婚式だ。
かつて望んだように、誰からも祝福される結婚式になりそうだよね。
楽しみにしていてね、リオン。
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