149話 師に託されるもの
トゥルースオブマインドでは、エンドオブティアーズのような剣と盾が生み出せる。
だが、大きく変わったことがある。破壊の力をまとえることと、剣や盾の形から外れた姿にも変化させられること。
つまり、単なる剣技だけでは収まらない技が必要になってくる。
ユリアのホープオブブレイブと似たような戦術も取れるが、あれも基礎があってこそ。
だからこそ、しっかりと戦闘技能を高めないとな。
破壊の力が通用しない相手が居たとしても、武器として心奏具を用いて勝てるように。
まあ、ディヴァリアが世界を滅ぼせていたことを考えると、心配し過ぎではあるのだろうが。
だからといって、努力をやめて良いわけでもないだろう。ちゃんと訓練しないとな。
いつかの未来で、ディヴァリアみたいなとんでもない人が生まれる可能性だってある。
その時に、対応できるように。無い可能性の方が、明確に高いだろうけどな。
ということで、ソニアさんと訓練をしている。
新しい技をいろいろ思いついたので、その検証のためだ。
破壊の力を使ってしまえば訓練にならないので、今はただの武器として使う。
ただのということもないか。形状を変化させられるだけで、特別と言える。
「さあ、来てください。小生も心奏具を使いますよ。
「トゥルースオブマインド、俺の心を具現化しろ」
ソニアさんの首元に首輪のようなものが現れ、俺の両手に剣と盾が現れる。
さあ、いろいろ試していこう。まずは盾を邪魔にならない形にして、剣を槍の姿に変える。
形状が自由になったおかげで、選択肢の幅が大きく広がった。
つまり、これまで以上に高い判断能力が必要になる。
一瞬の判断が重要になる以上、以前のほうが強かったとなりかねない。
迷えば、選択肢の多さに意味なんて無いんだからな。
ソニアさんの速さに対抗するためには、ただの攻撃ではダメだ。
とはいえ、訓練だからな。しっかりと試すことが大事になるよな。
まずは、イメージしやすい形の武器を使うところから。
ソニアさんに突きを放ち、当たり前のように避けられる。
引き戻す時に、槍の先側を変化させ、ハルバード状にする。
前回よりも手札の幅が広がったな。剣の形にとらわれないだけで、できることが大きく増えている。
とはいえ、ソニアさんには回避されてしまったが。
「なるほど。エンドオブティアーズの頃とは、まるで違いますね」
「ああ。だからこそ、これまでの訓練だけでは足りないんだ」
「そうでしょうね。槍の姿を取るのなら、槍術が必要になりますから」
斧に変えれば斧術が、小手に変えれば体術が必要になる。
今までやってきたこととは別の技術が要求されるんだよな。
剣のまま使う方が、教国との戦争では好ましいかもしれないな。
判断に迷ったり、慣れてない動きをしたりすることになりうる。
どうしたものか。訓練を続けるにしても、変な癖がつかないように気をつけないとな。
今度は鎌状に変えて振り回してみる。重心が取りづらい。
ソニアさんにも楽々に避けられて、あまり有効とは思えないな。
訓練不足なのか、鎌が扱いづらいのか。とにかく、今すぐには扱えなさそうだ。
「やはり、難しい。使いこなすためには、相当な時間が必要だろうな」
「ええ。今すぐ上達できる物ではないように見えます。長い目で見る必要があるでしょうね」
「そうだな。急ぎ過ぎたら良くないだろう」
「はい。短い期間では、なにか1つの武器に絞るのが良いかと」
だな。いろいろ覚えようとしたら、何もできないなんて事になりかねない。
教国との戦争で失敗しないために、ちゃんと方向性を決めておこう。
そうだな。さっき試した槍でいってみよう。剣と役割が違って、ちょうどいいだろう。
「なら、槍だな。突きの感覚は剣のものが応用できるだろうし」
「分かりました。なら、付き合いましょう」
俺は武器を槍の形に変え、ソニアさんは再び構える。
今度はソニアさんの方から攻撃される。振り下ろされた剣を、柄の部分で受ける。
本物の槍だと、柄は木でできているのだろう。だが、俺の武器は違う。
だから、ただの槍とは別の使い方になるのだろうな。
さて、どういう運用をするべきだろうか。破壊の力を放たないなんて、滅多にないだろう。
だから、当たってしまえば敵の武器を奪えるんだよな。
とはいえ、俺のエンドオブティアーズみたいに、壊れない心奏具だって想定しないといけない。
ちゃんと武技の面でも強くならないとな。付き合ってくれるソニアさんのためにも。
「そう簡単に負けはしない!」
「全力で来てください!」
ソニアさんは何度も斬りかかってくる。そのたびに槍で受ける。
向きを変えるだけで受けられて、なかなかに便利だ。
とはいえ、防戦一方なんだよな。どうにかして攻撃しないと。
攻撃のスキマに振り下ろしてみるも、反撃されてしまう。
やはり、慣れていないと難しい。一朝一夕では身につく気がしない。
一歩一歩、着実に進めていくしか無いのだろうな。
なかなかに大変で、先が長そうではある。
それでも、立ち止まる訳にはいかないからな。
今度はこちらから攻撃を仕掛けてみる。突きを繰り返し、長さや太さを変えていく。
ときおり、槍の横側に刃をつけてみるが、それでも避けられていく。
基本的には、形の変化は初見殺しになりがちだ。
全く別のパターンを用意できれば良いのだが、無限とはいかない。
だからこそ、単純な技量も大切になってくる。
「素早いな。だが!」
槍の先を三叉に変えてみたり、さすまたのように変えたりしながら突いてみる。
今度は剣で受けられた。やはり、槍からの派生だとやりやすいな。
イメージも大事になってくるから、思い浮かべやすいというのはアドバンテージだ。
槍のような武器は、他に何があっただろうか。すぐには思いつかないな。
だったら、今度は振り下ろしを試してみるか。
薙刀のように変えてみたり、ハルバードのように変えてみたりしながら振っていく。
よけられたり、剣で受けられたり。なかなか、運用が難しいな。
剣の時と違って、長さや太さを変えることが、そこまで有利にならない感覚がある。
取り回しが決まっていて、その対処に対して有効な手札がないと言うべきか。
突きを避けるのなら、横に動く。だから太さを変えようとしても、単純に太くするだけだと持ちにくくもなる。
刃だけの形を変えようにも、そこは注目されていて当然だからな。全く動きを隠せない。
振り下ろしていっても、長さを変えても意味がない。後ろに避けようとはされない。
現状の課題だな。薙刀やハルバードの形状まで利用できると、変わってくる気はするのだが。
「ふむ。まだまだ上達しませんね。小生が貴殿の対処に慣れている事もあるのでしょうが」
確かに、ソニアさんには手の内を知られている。
だが、敵だって俺の情報を集めているという前提で行動すべきだからな。甘えては居られない。
とはいえ、すぐに上達するわけではない。今後の課題になってくるな。
「ソニアさん、教えることが増えて大変かもしれないが、これからも頼む」
「もちろんです。リオン殿が諦めない限りは、どこまででも付き合いますよ」
「なら、ずっと手伝ってもらうな。忙しいところ、申し訳ないが」
「いえ、大丈夫です。貴殿が強くなれば、きっと近衛騎士団長の座は貴殿に託す。ですから、良いのです」
ソニアさんと同じ立ち位置か。胸が熱くなるな。
あなたが誇れるような存在になれるよう、努力を続けていくからな。
だから、いずれ武技でもソニアさんを追い抜かしてみせる。
言葉にはしないが、俺は心に誓った。
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