144話 戦いに向けて
教国との戦争は、王家も予期しているらしい。
それゆえ、俺とミナは王城に呼び出された。今後の対策のためということだ。
ソニアさん、国王レント、そして宰相が集まっていた。
まあ、重要人物たちではある。この国の中心となるような人達だ。
だからこそ、なぜ俺が呼ばれているのかは疑問だ。まあ、役割は果たすつもりではあるが。
「よくぞ来てくれた。ミナの情報によると、アスク教国はこの国に攻め入るつもりらしい。スヴェル帝国を支配した我が国の勢いを止めたいのだろう」
「勇者リオン、はじめましてですね。私はヨシュア。宰相です。さて、今回の議題ですが、教国を敵に回すことは避けたいですね。女神アルフィラは、アルフィラ教の崩壊を望まないでしょう」
枯れ枝のような老いた男が、この国の宰相であるヨシュア。どうも、アルフィラ教の敬虔な信徒らしい。
だから、アルフィラ教が国の中心となっているアスク教国を傷つけたくないのだろう。
とはいえ、俺には関係のないことだ。俺が優先するのは、親しい人だけだから。アルフィラ教なんてどうでもいい。
それでも、シルクもアルフィラ教の信徒ではあるからな。できる限りの配慮はしたほうが良いのかもしれないが。いずれ、シルクは大司教となるのだから。
だとしても、教国が敵として攻めてきたのならばやることはひとつ。打ち破るだけだ。
「騎士団としては、専守防衛に務めるつもりではあります。帝国との戦争もあり、教国に攻め入るだけの戦力を確保できませんから」
まあ、クーデターだってあったからな。国内が疲弊しているのはよく分かる。
だからこそ、教国はちょうどいいタイミングだと判断したのだろう。
そうなると、攻めてくるのは必然だと思うが。戦闘を避けるとして、どういう手段を取るつもりだ?
「となると、弱った王国を攻める機会だと判断されても、おかしくはないですね」
「そうですね。わたくしの集めた情報でも、今が好機だとの意見が大勢のようです」
「ですが、教国を傷つけることは……アルフィラ様に申し訳がたちません」
女神アルフィラの望みは、絆が力となる世界になることだろうさ。
アルフィラ教の存在にこだわっている雰囲気はなかった。シャーナさんに見せてもらった映像を前提にすると。
だから、女神アルフィラに申し訳ないなんて、考える必要はないと思うが。
まあ、どうやって今の考えを伝えるのかという問題はある。未来視など、実物を見なければ信じないだろうからな。
「そもそも、教国から攻めてくるのでしょう。私欲のために。女神アルフィラを思うのならば、教国の腐敗を収めることが先では?」
「嘆かわしい。教国の腐敗などと。アルフィラ教は人々を救う道標なのですぞ」
「結局のところ、教団を動かすのは人です。女神アルフィラ本人じゃない。だから、歪みもするでしょう」
「実際、わたくしの調査では、王国が覇権を握ることが気に入らないようですからね」
「余の答えは決まっている。攻め入る教国を打ち破るのみ。だからこそ、どのように教国を倒すのかが問題だ」
なら、話は早いな。どこまで敵を打ち倒すべきなのか。どれだけ教国を支配していくのか。そのあたりが問題になるだろう。
勝てる前提で話を考えるのは危険なんだが、ディヴァリアも戦場に出るからな。
シャーナさんの見た未来では、なすすべなく滅ぼされていた教国だからな。あまり心配できない。
とはいえ、油断は禁物。みんなが無事で居られるように、しっかりと備えないと。
「でしたら、どこまで先制攻撃を許すのかが大事になりますね」
「大義を失うわけにはいかん。だからこそ、開戦は向こうからでなくては」
まあ、言っていることは分かる。国民の同意を得ないまま戦争を続けると、王への信頼が揺らぐ。
向こうから攻めてくるのであれば、全てを教国のせいにしてやれば良い。そういう話だろう。
「そうなると、攻めて来た敵にどうやって対処するのかが問題ですね。自国で好き勝手はさせられないでしょう」
「わたくしが手を打っています。教国の人間を誘導して、宣戦布告をおこなってから攻めるようにと」
なるほど。だったらやることは簡単だ。相手の宣戦布告に即応して、戦意をくじくほどの攻撃を行う。それで良いんじゃないか?
「なるほど。相手の動きに合わせて、国境に来る前に打ち破るのが理想ですね」
「ああ。国民のことを考えても、領土内での戦いは避けたい。そこで、リオン。そなたの力が必要になる」
トゥルースオブマインドの能力を、ある程度知っているのだろうな。
エンドオブティアーズだけなら、攻めてくる敵軍に対してはそこまで有効ではない。
破壊の力で敵を押しつぶせば、後はどうとでも料理できる。
「分かりました。何をすればいいですか?」
「ミナを守ってもらいたい。最上級魔法で敵を殲滅してもらう。その間の護衛を頼む」
ああ、そっちか。となると、シルクも連れていった方が良いかもな。
守りにおいて、シルクの右に出るやつなんていないだろうから。俺よりも明確に上だ。
「陛下、お待ちくだされ! 教国を倒せば、教団からの信頼を失いますぞ!」
「ヨシュア。聞きたいのだがな。帝国との戦争で、クーデターを始めとする国内の混乱で、教団はどれほどの力を尽くした?」
「それは……では、何のために信徒シルクとミナ様の関係を紡いだのです!?」
「信徒シルクならば、王国のために教団を有効活用できるだろう。だからだ」
「そんな……アルフィラ様は許しませんぞ!」
虎の威を借る狐か何かか? どうにも、ヨシュアには好感を持てない。
前世の価値観で、信仰をイマイチ理解できないからかもしれない。
だが、目の前で失われそうな命よりも教義を優先しているように見えるからな。
正直に言って、理解したいとは思わない。ヨシュアの信仰は、真っ当には見えない。
「女神アルフィラは、絆こそを望んでいたはずです。今の教団は、どうなんでしょうね?」
「確かに絆は重要な教義。ですが、教団を失うことなど……」
「俺からすれば、信仰を言い訳にして自らを反省しないだけに見えますが」
「よく言った、リオン。教国の動きなど、まさに言う通りよな。話は終わりだ、ヨシュア」
「後悔なされぬことです、陛下。アルフィラ教は民の支え。それを忘れるなど」
「わが国土を踏みにじられることこそ、最大の後悔になるだろう」
俺としては、国王の言葉に賛成だ。
女神アルフィラ本人を置き去りにした信仰より、今を生きる人間のほうがよほど大事なのだから。
教国は結局のところ、領土欲や権力欲のようなもののために戦っているのだから。
そもそも、俺の守るべきものは国や信仰ではない。大切な人の居場所と、大切な人そのものだけだ。
「では、教国への対応は決まりましたな。続いては、軍の編成。私が口を出すべきことではありますまい」
さっきまで国王をにらんでいたヨシュアだが、今では穏やかな顔だ。切り替えが凄まじい。
やはり宰相ともなると、ただの小物ではありえないか。信徒としての立ち位置を明確にしておいて、それでも宰相としての判断を切り分けているのだろう。
「とはいえ、単純だ。ミナとリオン、ソニア。後は体裁だけだろう」
「ディヴァリアの力を借りられれば、もっと楽になると思いますが」
「聖女か。そなたが推薦するのであれば、相当に強いのだろう」
「そうですね。ソニアさんよりも強いのは確かです」
「ソニア、まことか?」
「はい。聖女様に勝てる人間など、この世には居ないでしょう」
本気でディヴァリアは最強だからな。原作での対応策では、きっと勝てない。
だから、安心して戦いを任せられるんだ。
「では、そちらで必要な戦力を整えてもらう。余の方では、兵数を用意しておこう。結局は、個人の力で全てが決まる。よく分かっておる」
国王の顔からは、どこか諦めのようなものが見えた。
まあ、これで今回の話は終わりだ。俺の方で、協力者を集めるとするか。
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