143話 ディヴァリアの変化

 今日はひさしぶりにディヴァリアと2人きりだ。かなり待ち遠しかった。

 まあ、ディヴァリアだって忙しいのだろう。だから、納得ではある。

 それに、俺を他の女たちと会わせようと動いていたからな。なにか思惑があるはずだ。

 いったい、何が狙いなのだろうな。俺と周囲の関係に気を配っているのは間違いないが。


「想いを伝えあったのに、なかなか2人の時間は作れなかったな。少し、寂しかったよ」


「気持ちは分かるよ。でも、必要なことだったからね。私としては、リオンに自分の感情を整理してもらいたかったんだ」


 お互い、俺のベッドに座りながら話している。完全にディヴァリアも内側にいるって感じだな。

 俺がディヴァリアを好きだと気づいたこと以外に、なにか整理すべき感情があっただろうか。

 これまでの日々で理解できたのは、やはり周囲の人間は大切だということくらいだ。


「俺がディヴァリアを好きだという気持ちは、少しも変わらなかったけどな」


「うん、分かっているよ。周囲の人間と接していて、なにか気づいたことはないかな?」


「なんというか、俺の周りの人間は、かなり俺に好意を持っているよな」


「そうだね。リオンは、そんな人達と結ばれたいと思う?」


「いや、ディヴァリアを裏切りたくない」


「私のことを抜きにして、だよ。魅力的だな、とか思わなかった?」


 それは否定できないが。だからといって、複数の女と付き合いたいわけではない。

 俺としては、父さんと母さんのような夫婦に憧れているから。おしどり夫婦といった、あの2人に。


「大切な相手だとは思うが、それと付き合いたいかどうかは無関係じゃないか?」


「まあ、そうかもね。私だって、リオン以外の男と結ばれたいとは思わないし」


「だよな。なら、どうして?」


「サクラはリオンに告白したよね。その後、私と一緒にいたときに泣いていたから。ちょっと悲しくて」


 まあ、失恋したのだから。泣くくらいはおかしな事じゃない。いちいち同情していたら、ディヴァリアなんて無数の相手と付き合わなくちゃいけないだろうに。

 俺だって、サクラに泣いてほしいわけではない。それでも、引くべき線というものがあると思う。


「仕方ないんじゃないか? 失恋なんて、青春にはつきものだろう」


「かもね。でも、解決できる手段もあるよね」


 話の流れ的に、俺が複数の女と付き合うことだよな。

 ディヴァリアに不誠実なのは、ハッキリ言って嫌なのだが。

 もちろん、サクラ達だって大切な友達だ。泣かなくて済むのなら、その方が良い。

 だからといって、ディヴァリアを傷つけていたら何の意味もないんだよな。

 結局のところ、俺が一番好きなのはディヴァリアなんだから。


「ディヴァリアは、苦しくないのか?」


「苦しさはきっとあるよ。でも、サクラ達の泣き顔を見るときほどじゃない」


 とても穏やかな表情をしていて、だから、何かを悟ったのだろう。

 俺としては、ディヴァリアの変化が嬉しいような、悲しいような。

 かつてのディヴァリアならば、自分を一番に優先していたはずだ。

 それが、今では周囲の人間を大切に思うようになっている。

 だが、正しいのだろうか。遠慮ばかり覚えさせたのではないだろうか。


「無理はしていないよな? ディヴァリアの感情が、いちばん大事なんだから」


「大丈夫。それで、リオンはどうするの?」


「そうだな。段階を踏まないか? 例えば、ディヴァリアとキスをしたなら、他の人と手を繋ぐくらいは良いとか」


 まあ、これまでにも他の誰かと手をつなぐことくらいは繰り返してきたが。

 提案の意図としては、ディヴァリアを優先するということと、いきなりみんなと付き合うのは負担が大きいだろうということがある。

 俺だって、サクラ達のことは大好きだ。それでも、優先すべきものがあるというだけ。

 だから、ディヴァリアの想いとの妥協点を探っていくのが大事だろう。


「いつでも私だけが突出するのは、大丈夫なの?」


「そもそも、ディヴァリア1人と付き合うつもりだったんだけどな」


「だから、みんなの想いを全部は叶えなくてもいいってこと?」


「まあ、少し叶えれば欲が出るかもしれないか。もう少し詰めた方が良いかもな」


 結局は、ディヴァリアが満足するかどうかだ。友達を大切に思っているから、悲しませたくない。

 その感情が、俺を独占したいという感情よりも強いというだけ。だから、ディヴァリアの苦しみが少なくなる道を選びたい。

 俺が他の女と結ばれる苦しみが大きければ、何の意味もなくなってしまうから。


「それで、みんなとは一気に付き合わないんだよね?」


「ああ。スケジュール管理も大変だろうし、いきなり環境が変わったら、俺だって疲れるからな」


「確かにね。なら、最初はサクラが良いか。その次は、ミナ達かな?」


「まあ、今すぐじゃなくていいだろう。俺もしばらくは、ディヴァリアとの時間だけを楽しみたい」


「それは私もだね。リオンが私だけのものである時間を、少しでも味わっていたいな」


 ディヴァリアにも確かに独占欲がある。友情の方を優先していただけ。よく分かるセリフだ。

 だからこそ、今の時間を大切にしたい。きっと、嫉妬心だってあるだろう。心と向き合うのは、案外大変なんだ。


「なら、今はいったん話を終わらせよう。時間はいっぱいあるんだから」


「そうだね。ねえ、私の膝に寝ない?」


「ああ。よろしく頼む」


「じゃあ、こっちに来て」


 ディヴァリアは座り方を変えると、太もものあたりを軽く叩いている。

 そのまま頭を預けると、ゆっくりと撫でられていった。

 甘い香りと暖かさを感じて、とても心が安らぐ。手付きは優しいし、それも穏やかに思える要因だ。

 ひさしぶりだよな、ディヴァリアの膝枕は。相変わらず、最高の気分だ。


「重くないか?」


「少しは。でも、今は私だけの特権だと思うと、嬉しいくらいかな」


 なら、ディヴァリアだけの特権はひとつくらい作っておきたい。

 サクラ達と結ばれることになったとしても、ずっと。

 俺の一番がディヴァリアであることは、きっと変わらないからな。


「なら、しばらくはディヴァリアだけに頼むよ」


「ありがとう。後ちょっとで結婚できるから、それまでは、私だけがいいな」


「分かった。だったら、サクラ達と付き合うのは結婚してからでいいか?」


「まあ、ゆっくり考えようよ。まずは、次の戦争を終わらせてからだね」


 ディヴァリアが計画しているのだろうか。だが、もう迷わない。たとえ世界征服が狙いだとしても、最後まで付き合うだけだ。


「戦争の予定があるのか?」


「リオンは嫌だよね。だから、次で最後になるように頑張るね。ミナ達とも協力して、ね」


 俺は、できれば人殺しはしたくない。今でも変わっていない感情だ。

 だが、ディヴァリアへの想いを優先するというだけ。いちばん大切なものは、決まり切っているから。


「どこと戦う予定なんだ?」


「次の敵は、アスク教国。きっと、アストライア王国の一強である状態を許さないから」


 本当にただの戦争か。なら、全力で突き進むだけだ。

 疲弊した王国を支配しようだなんて、許せるはずがない。

 せっかく平和を手に入れたんだ。だから。


「それなら、俺も戦わないといけないな。王国を守らないと」


「私だって戦うよ。リオンだけに任せたりしない。私達2人で、みんなの未来を守るんだよ」


 ああ、いい響きだ。これまでは、あまり気乗りしない理由での戦いだったからな。

 まあ、戦争なんてない方がいいのは確かだが。戦いの理由が変わるだけで、気分が楽だ。


「分かった。俺達の最後の戦いにしような」


「そのつもり。終わったら、平和になった王国で結婚式だね」


 楽しみだな。ディヴァリアとの結婚式のために、みんなで無事に生き延びてやる。

 そして、大切な人達に祝われながら、結婚式を挙げてみせるんだ。



――――――



 リオンに告白されて、とても嬉しかった。

 だけど、サクラに伝えたら、お祝いの言葉を言いながら言葉を震わせちゃって。

 泣くのを必死に我慢しているんだなって、よく分かった。

 きっと、私の喜びに水を差したくなかったんだと思う。


「ねえ、サクラ。あなたなら、リオンに抱かれてもいいよ」


「ディヴァリア……? あんなに、リオンを好きだったのに」


「今でも大好きだよ。でも、サクラだって大切な友達だから」


「あんたは嫌じゃないの?」


「少しはね。でも、サクラが泣いている方が、もっと嫌だから」


 本音だった。私も変わったなって思う。リオンを狙う女なんて、昔なら殺していたはずだから。

 でも、悪い気分じゃない。サクラが笑顔になったのを見て、私も嬉しかったから。


「ところで、あんたはリオンに抱かれたの?」


「まだかな。だから、しばらくは待っていてね」


「当然よ。ディヴァリアが初めじゃなかったら、リオンを殴るわよ」


「あはは、そうだね。ねえ、少しだけ、手伝ってほしいことがあるんだ」


「何よ? 大抵のことなら聞くわよ」


「私の敵になりそうな人が居てね。だから、もうちょっと後で演技をしてほしいんだ。私なんて許せないって」


 教国との戦争に勝った後の話だから、まだまだ先ではある。

 だけど、今のうちに布石を打っておいた方が良いだろう。

 私の計画を知っていて、同時に私を邪魔に思っている人。

 証拠を掴ませるような真似はしていないけれど、だからこそ、サクラの存在は都合がいい。


「分かったわ。リオンには任せられない役割ね」


「うん。だから、お願い」


「もちろんよ。要するに、あたしに近づいてきたやつを罠にかけるんでしょ?」


「そうだね。だから、心の準備をしておいてね」


「あたしがディヴァリアを嫌いになるなんて、あるはずないのにね」


 2人でお互いを見ながら笑っていた。

 さあ、準備はできた。リオンとの結婚式までの道筋は完成した。


 だから、待っていてね。私達みんなで幸せになる日は、すぐそばなんだからね。

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