141話 歌に込めた想い
今日はルミリエと過ごす日だ。最近、スケジュールをディヴァリアに管理されだしている。
なんというか、今日は誰々と会う予定だよと言われてしまうのだ。
まあ、構わないけどな。別に嫌ではない。少し困惑しているのは事実ではあるが。
いずれ、尻に敷かれるようになるのだろうか。なんかイメージできてしまった。ちょっとだけ恐ろしい。
とはいえ、ディヴァリアが俺の嫌がることをするとは思えない。長い付き合いだから、相手のことはある程度分かるんだ。
「リオンちゃんも大変だね。自分で予定を決められないなんて」
「ルミリエだって、歌姫としての仕事は似たようなものじゃないか?」
「まあ、そうかもね。ウダウダしても仕方ないから、合わせてはいるけれど」
そうなるよな。歌いたくなった日に歌うなんて、なかなか難しいだろう。
となると、歌姫にまで押し上げてしまったことは迷惑だっただろうか。
今さら過去は変えられないが、ルミリエに負担をかけるのは喜べないからな。
「ところで、無理はしていないか? 歌姫なんて、辞めたって良いんだぞ。ルミリエを苦しませるのは、俺達みんな嫌だからな」
「ううん、大丈夫。ある程度は私の方でも調整しているからね。ムズムズはしないよ」
「なら、良いが。ルミリエに喜んでほしくて、歌を広めたんだからな。悲しまれたら本末転倒だ」
「ありがとう、リオンちゃん。でも、大丈夫。キラキラした私を、いつでも見せてあげられるから」
ルミリエは最高に輝いているからな。キラキラなんてものじゃないかもな。
まあ、呼び方なんてどうでもいい。ルミリエの歌が最高だという事実だけがある。
とにかく、本人が苦しんでいるわけでないのなら、これ以上は無用な心配だな。
ルミリエは歌が好きだというのは、今でも変わっていない様子なのだから。
「ルミリエの歌は最高だから、ときどき独占したくなるな」
「リオンちゃんなら、別にいいよ。他の誰かより、リオンちゃんに聞いてほしいのは本当だから」
「まあ、いつでも聞けるというだけで、十分に贅沢ではあるが」
「私は大人気だもんね。誰よりもワクワクさせられる歌だと思うよ」
ルミリエからは強い自信を感じる。やはり、いいな。
俺達にとって、ルミリエの歌は比べる相手など居ないほどのものだ。だから、当然の評価ではある。
これまで積み重ねてきたものが、ルミリエの自信に繋がっている。そう思うと、心が満たされていくようだ。
「そうだな。他の誰の歌より、ルミリエの歌がいいよ。誰にも負けない、最高の輝きだからな」
間違いなく本音だ。歌という分野に限っては、誰も敵わないだろうさ。
元気いっぱいなイメージのルミリエだが、しっとりとした歌だって歌える。
表情や声色、動きなんかも歌の魅力を引き上げている。
歌って踊れるアイドルといった感じだが、誰と組んでも引き立て役で終わらせるだけの力がある。
「ふふっ、嬉しいね。私の歌を一番好きなのは、きっとリオンちゃんだよね」
「そうかもな。ルミリエの歌に惚れたから、みんなに広めたんだから」
初めはディヴァリアやミナ、シルクに。それから、大勢に。
俺が惚れ込んだ歌は最高だったんだと、歌姫だと認めた人々が証明してくれた。
まあ、俺だけが好きなだけでも、それはそれで構わないのだが。ルミリエ本人がどう思うかという問題はあるが。
というか、歌っていないときのルミリエも、俺を明るく照らしてくれる人ではある。
今でも、元気な表情が、声色が、俺にまで元気を与えてくれる。
活発な印象の赤い髪と瞳をはじめとした顔は、思わず目を引きつけられるほど魅力的だ。
やはり、天性の才能があるのだろう。誰かを魅了するということにおいては。
「リオンちゃんの結婚式は、私の歌で彩ってあげるね。いつまで経っても忘れられない思い出になるくらい」
「それは楽しみだな。ルミリエの歌は、全部覚えているつもりではあるが」
「ありがとう。やっぱり、リオンちゃんの言葉は私にドキドキをくれるね」
「ルミリエが魅力的だから、それを素直に伝えているだけだ」
実際、俺の友達はみんな最高だと思う。誰だって魅了できるような輝きを秘めた存在ばかりだ。
だからこそ、みんなと比較して劣等感を味わっていたこともあるが。
今ではバカらしく思えるな。みんな、俺の能力がどれだけであっても、軽んじるような人達じゃなかった。
それに、能力を鼻にかけるような人達でもなかった。みんなを貶めるような考え方だったよな。
「ディヴァリアちゃんには、もっと言葉で伝えてあげてね。大切な恋人なんでしょ?」
「ああ、そうだな。もちろん、全力で言葉にするよ。今まで、傷つけてきたからな」
「あんなに分かりやすかったのに、リオンちゃんもヒドいよね。でも、もう大丈夫だよね」
「気づかないフリをしてきただけだからな。俺じゃディヴァリアに釣り合わないと思って」
「ディヴァリアちゃんは、リオンちゃんだけを求めていた。だから、関係ないんだよ」
今では同意できる言葉だが、以前に同じ事を言われていたとしても、否定していただろうな。
まあ、俺自身でもディヴァリアに釣り合うように努力するつもりだ。たとえ遠くても、もう諦めない。
「ああ。だが、せっかくだから、勇者という名声も利用させてもらうさ。ディヴァリアが誇れるような存在になりたいからな」
「きっと、今でも誇りだと思うけどね。私達だって、リオンちゃんの友達であることは誇りに思っているから」
嬉しいな。ルミリエ達に認められることは、民衆に認められることよりも価値がある。
俺の望みは、大切な人達との未来をつかむこと。だから、本人に求められていなければ、何の意味もないからな。
結局のところ、俺は独り相撲を繰り返してきたのだろうな。周りを見ずに、自分だけの考えで行動してきた。反省すべきことだ。
「俺だって、お前たちの友達でいられることは誇りだと思っている。誰にだって自慢できる、最高の友達だ」
「うん。私も同じだよ。リオンちゃんと出会えたことは、みんなにとって最高だったんだよ」
「ありがとう。お前たちが友達で居てくれるなら、俺は何だってできるさ」
「こちらこそ、ありがとう。リオンちゃんのおかげで、今が幸せだから」
ルミリエが幸せでいることは、とても嬉しい事実だ。
俺にとって大切なのは、大事な人達の幸福だけだから。
ディヴァリアへの好意を誤魔化し続けてきたことが、俺自身の考えも歪めていた。
誰かから認められたいという思いは、結局は代わりを求めるだけの感情だった。
ディヴァリアへの想いは届かないから、せめて満たされていたかっただけの。
承認欲求をこじらせていただけだったな。代償行為として。
「ああ、ルミリエの幸せが続くように、これからも力を尽くすよ」
「ふふっ、嬉しいよ。リオンちゃんがそばに居てくれるなら、私は何にだってなれるから」
「ありがとう。なら、ずっとそばに居ないとな。大切な友達の望みなんだから」
「ウソだったら、許さないよ。リオンちゃんに失恋したって、歌にして残すんだから」
「それは怖いな。なら、気をつけるよ。まあ、何もなくても当たり前のことだけどな」
友達の幸せを願うことは、絶対に間違っていない。
仮に否定するやつがいるのなら、きっと敵だ。まあ、いないだろうが。
ディヴァリアだって、ルミリエの幸せを願っているはずなのだから。
だから、何があっても、ルミリエの幸せは守ってみせる。
「そんなリオンちゃんがいたから、私は歌を好きでいられた。だから、私の歌はリオンちゃんでできているんだよ」
「なら、絶対に離れられないな。ルミリエの歌がなくなるなんて、世界の損失だよ」
「約束だからね。リオンちゃんの聞いてくれない歌になんて、何の価値もないんだから」
だったら、ずっと聞いていないとな。これから先の未来でも。
俺達みんなが大好きな歌を、紡ぎ続けてもらうために。
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