139話 王の誓い

 今日はミナを家に招いている。結局、ディヴァリアに告白してからも女を招いてばかりだな。

 とはいえ、ディヴァリア本人からもミナ達と会うようにとは言われている。

 まあ、3人とも重要人物だからな。軽んじるのは、いろいろな意味で良くない。

 それに、立場が変わったとしても大切な友達なんだ。ディヴァリアだって遠ざけたくないよな。無論、俺もだ。


「リオン、レックスとの戦いで、よく生き延びてくれました。わたくしは、判断を誤っていた」


 どういう意味だろうか。エンドオブティアーズでは勝てなかったことなのか、他の理由なのか。

 何にせよ、ミナのおかげで勝利に近づいたのは間違いない。

 レックスと真っ当に戦うことができたのは、ミナがいてくれたからこそだ。

 帝国に正面から挑んでいては、勝つことは難しかっただろうさ。

 ミナは自分の価値を低く見積もりすぎている。他の誰にも代わりなんてできない存在だぞ。


 サッドオブロンリネスがどれほど強力かなんて、考えなくても分かる。

 相手がどこにいても監視できて、自在に情報を集められる。とてつもないことだ。

 ルミリエと組み合わされば、無線通信のようなことだってできる。

 中世に魔法がくっついてきたみたいな世界で、あまりにも大きなアドバンテージだ。ハッキリ言って、強すぎる。


「結果的にみんな無事なんだから、正解で良い。それに、お前がいなくちゃ、そもそもレックスとの戦いにたどり着けたかどうか怪しい」


「リオンが殺されかけた時、わたくしは冷静ではなかった。フェミルをうまく使えば、リオンを助ける手段なんていくらでもあったにも関わらず」


 まあ、シルクを運んでくれただけでも、ケガの治療はできたよな。

 とはいえ、ミナがサポートしてくれた状況で、トゥルースオブマインドに目覚めたかは怪しい。

 それを思えば、ミナの判断は一番良い結果を産んでくれたと考えて良い。

 結果論だとはいえ、間違いなくミナがいたからこそだ。俺とレックスの1対1の状況にしてくれたからだ。


「まあ、俺にだって反省点はいっぱいある。それでも、悔やむ必要はない。よりよい未来をつかむ事ができたことは間違いないんだから」


「リオンを傷つけておいて、良い未来なんて言えません。また、リオンに頼りきっただけ。物語の姫のように」


「それは違う。お前は全力で俺を助けてくれた。守られるだけの存在ではなかった」


「結果が伴わなければ意味がないのです。わたくしは、リオンの力にはなれなかった」


「違う。結果論ならば、俺は新たな力に目覚めた。だから、何も問題はない」


 ミナの気持ちはある程度は分かる。

 レックスに対する勝因は、トゥルースオブマインドだった。だからこそ、役に立てなかったと悔いているのだろう。

 こんなところでも、力こそを至上とする価値観が響いている。

 ミナは大きな助けになってくれた。だが、ミナ自身が敵を打ち破ったわけではない。そこが苦しいのだろう。


 だが、違う。ミナの成し遂げたことはとても大きい。

 ただ強いだけの誰にもできなかったことを成し遂げているんだ。

 きっと、正面から帝国軍にぶつかっていれば、勝利すら怪しかった。

 それに、帝国も王国も、犠牲を最小限に済ませられたはずなんだ。


「リオン。これからも、わたくしを必要としてくれるのですか? わたくしの治世を望んでくれるのですか?」


「当たり前だ。ミナ以上の王なんて思いつかない。たとえディヴァリアが相手だとしても、王への適性ではミナが勝つよ」


 間違いなく本音だ。サッドネスオブロンリネスによる状況の把握。ミナ自身の確かな知性。

 他にも、庇護欲を誘う外見も、固い信念も。そして、扇動者としての才能も。

 全てが噛み合って、王として最高の能力になっている。

 俺など足元にも及ばない。きっと他の誰だって追いつけない。歴史に名を残すことは決まり切っている。


「リオンがディヴァリア以上に評価してくれる。それだけで、最高の気分です。まるで人生の絶頂かのように」


「今が最高なんて事態には、俺がさせない。ミナの未来は、明るいものにしてみせる。友達として、絶対に達成するべきことだ」


「ありがとう、リオン。あなたの力添えがあるだけで、万軍の支えを得たかのようです」


「勇者だからな。お前の道を切り開いてやるさ。トゥルースオブマインドの力でな」


 ミナが王になることは、俺やディヴァリア、友達たちの望みだった。

 そして、王としてのミナを支えることだって、きっと大切な願いだ。

 何が敵になったとしても、絶対にミナを支えてみせる。

 俺達が出会ったのは、きっとミナを王とする国を作るためだから。


「何よりも心強いです。リオン、わたくしは、あなたの望む王になれるでしょうか」


「ああ。間違いない。疑う理由なんて、どこにもない」


「でしたら、全力で突き進むまでです。わたくしは、あなたの望みを叶えたい。あなたの求める国を作りたい」


「ミナの理想とする国が、きっと俺にだって最高の国になるさ」


 ミナの能力も、人格も、これ以上ないくらいに信頼している。

 俺が思い描くよりも立派な国を創り上げてくれるような気すらする。

 まあ、ミナに負担を押し付けないように気をつけなければならないが。

 俺達だって全力で力を貸すのだから、できないことなんてないはずだ。


「分かりました。なら、ディヴァリア達とも協力して、あなたの望む世界にしてみせます」


「期待している。だが、無理はするなよ。お前を不幸にしてまで、いい国を創りたくはないんだからな」


「リオンの心がある限り、わたくしは不幸にはなりません。安心してください」


「なら良いが。悩み事があったら、いつでも相談してくれよ。良い答えが出せるとは、保証できないが」


 実際、俺よりミナの能力のほうが高いだろうからな。俺にできることは、ミナに共感すること、ミナを肯定すること。それだけだ。

 ミナにできないことは、きっと他の誰にもできないことだ。だから、どんな未来が待っていても恨んだりはしないさ。

 まあ、ミナが大きな失敗をするイメージはできないが。だとしても、俺だって全力で力になる。頼り切りにはならない。


「ありがとう。リオンと出会えたおかげで、わたくしが望むものは全て手に入りました。理解者も、友達も、王の座も」


「ミナ自身が素晴らしい人だからだよ。俺はなんだかんだで、好みが激しいからな」


 実際、死んだところで心が傷まない人は大勢いる。

 メルキオール学園の生徒は大勢死んだ。有翼連合に襲撃されたり、戦争をしたりして。

 それでも、ただ流していた相手は多い。会話したことのある相手だって、けっこう居たのだがな。

 結局のところ、俺はとんでもないエゴイストなのだろう。だからといって、変われやしないが。

 ミナ達が大切に思ってくれる俺のままでいい。そう、心から感じてしまうからな。


「わたくしの望みは、リオンが望む王になること。それだけです。あなたが全部をくれたから、あなたに返したい」


「お前自身の幸せこそが、俺の望むものだ。だから、幸福をつかんでくれ」


「分かりました。でしたら、絶対に離れないでください。リオンは絶対に必要なんです。どんな栄養よりも、欠かせないんです」


 まあ、当たり前のことだ。俺は近衛騎士になる以上、ミナを守るのが使命だ。

 それを抜きにしても、ミナは大切な友達なんだ。離れたいだなんて、絶対に思わない。


「分かった。なら、ずっと一緒にいよう。ずっと、支え続けてみせる」


「約束ですよ。あなたが居ない国になんて、何の意味もない。それだけは確かです」


「ああ。約束だ」


「破ったら、わたくしの持てる力を尽くして、あなたを奪い去りますからね?」


 絶対に破らない約束なんだから、何の問題もない。ミナが王となった国は、俺の望みなんだから。

 どんな試練が待っていようと、打ち破ってみせる。

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