135話 強さと弱さ

 今日はソニアさんと話をしている。俺の家で訓練する予定の日だったが、休めとのことだ。

 その時にディヴァリアの名前を出していた。どうも、ソニアさんのディヴァリアに対する印象が変わったような雰囲気がある。

 なんだろうか。今までは恐れていたのが、別の感情に変わったとか?

 まあ、悪意ではなさそうだから気にしなくていいか。ディヴァリアに心配をかけるなと言っていたし。


「ソニアさん、帝国での時はありがとう。だが、あまり無理をしてくれるな。ハッキリ言って、心配だったんだ」


「リオン殿も似たようなことをしたと聞いていますよ?」


 それを言われると弱いが。サクラの心奏具が壊れた時、確かに槍を体に受けて、敵の動きを妨害していた。

 ソニアさんは剣で同じ事をしただけだからな。俺が言えたことではないのは確かに正しい。

 とはいえ、ソニアさんに傷ついてほしくないのは事実。どう言ったものか。


「俺だって心配をかけたことは反省している。ソニアさんの行動を見て、よく分かった。だから、同じ事を繰り返さないように気をつけるよ」


 実際、本音だ。俺が傷ついたら悲しいと思う人は何人も居る。ようやくちゃんと理解できた。

 俺は周囲に悲しんでほしくないから、ディヴァリアの力を借りてでも確実に勝つ。そのつもりだ。

 だって、俺が死んだら泣く人の存在を、シャーナさんの見せてくれた未来で思い知ったから。

 俺の本当の心に気づけたことで、周りの心もよく見えるようになったから。

 これまでの俺は、ずっと間違い続けてきた。みんなを失わなくて済んだのは、単なる偶然でしかない。


「なら、良いのですが。リオン殿は新たな心奏具に目覚めたとのことで、私の力も必要なくなるかもしれませんからね」


「ソニアさんには、これからも頼るつもりだ。俺1人でできることなど、しれている。よく分かったからな」


「リオン殿が周りに頼れば、多くの人が力を貸しますよ。無論、小生も」


「ありがとう。心強いよ。ソニアさんにはずっと勝てなかったからな」


「ふふっ、今なら勝てるかのような物言いですね」


「勝つ確率はかなり高いと思う。ディヴァリア以外の人間には勝てる手段を持っているつもりだ」


 トゥルースオブマインドはメチャクチャに強力だからな。

 ハッキリ言って、油断さえしなければ、これまで戦ってきた誰を相手にしても勝てると思う。

 負ける可能性なんて、ソニアさんを見誤っていた場合だけなんじゃないか?


「聖女様には、勝てませんか」


「どうだろうな。そもそもディヴァリアに敵対するつもりはない。ただ、勝機はあると思う」


「それほどに……! どのような能力なのですか?」


「チェインオブマインドとエンドオブティアーズを混ぜた感じだな」


「なるほど。形を変えながら破壊の力を出せるような?」


「そうだな。剣や盾も使えるんだ」


 なかなかに説明が難しいな。チェインオブマインドと基本は同じで、エンドオブティアーズのような剣と盾も出せる。

 そして、破壊の力を剣と盾にも付与できる。そんなところか。

 都合がいい感じにまとまってくれた。俺にとっては一番扱いやすい形だろう。

 だからこそ、俺が使いこなしやすい能力だと言える。ただでさえ強力なのに、俺との相性まで良いんだ。


「リオン殿の剣技も活かせるわけですか。それは素晴らしい」


「ああ。俺にとっては最高の能力だと思う。他のどんな心奏具より、トゥルースオブマインドの方がいい」


「小生の知る限りでも、最高峰と言えると思います。リオン殿の強さは、これまでとは別次元になるでしょう」


 まあ、そうだな。実際問題、エンドオブティアーズとトゥルースオブマインドでは比べることすらおこがましい。

 ディヴァリアのチェインオブマインドに、並ぶかもしれない心奏具。どれだけ凄まじいか。

 まだまだ努力をやめるつもりはない。だが、これまでのどんな研鑽よりも、心奏具の変化のほうが大きいだろうさ。


「確かにな。だが、油断はしない。みんなを守るためにも、これからも努力を続けるよ」


「リオン殿らしいですね。そんな優しさこそが、皆さんの心を解きほぐしたのでしょう」


 まあ、ミナやシルク、ルミリエは原作よりも明確に明るくなっている。

 そして、ディヴァリアは人の心を手に入れたらしい。俺が優しいかはともかく、俺の影響ではあるだろう。

 みんなが幸福を知ることができた様子なのは、本当に嬉しい。俺の力添えが影響していると思うと、余計に。

 ソニアさんだって、幸せになれているのだろうか。そうだと嬉しいな。


「ソニアさんは、いま幸せか?」


「ええ。リオン殿のおかげですね。ただ逃げるだけだった小生に、ほんの少しの勇気をくれたから」


 おそらくは、ディヴァリアから逃げていたのだろうな。

 近衛騎士団長になるような人の人生が、ただ逃げるだけだったはずがない。

 今のソニアさんくらいの強さは、逃げていただけで得られるものじゃない。

 だからこそ、ディヴァリアの強さが恐ろしかったのだろう。

 努力していればいるほど、異常性がよく分かるものだから。


「なら、良かった。俺はソニアさんだって大切なんだ。尊敬しているし、頼りにもしている」


「はい。よく分かっています。守るべきものが目の前にあるときだけ折れない、貴殿の弱さと強さは」


 ソニアさんの言葉があると、レックスとの戦いでの流れにも納得できる。

 確かに、誰も俺の後ろに居なかった。例えばユリアやサクラがそばに居て、諦めようとは思えない気がする。

 まあ、愚かなのだろうな。俺が死ねば世界は滅ぶ。だったら、みんなの命を背負っていたはずなのに。

 目の前に誰かがいることが、俺の心の支えにもなっていたのだろうな。きっと、レックスとの戦いでは孤独を感じていたはずだ。


「俺が死ねば、みんな苦しむ。分かっていたはずなのに、レックスとの戦いでは一度折れていた。悔しいよ」


「結果として、貴殿は勝った。だから、十分ですよ。貴殿の大切な人は、誰も犠牲にならなかった」


 ソニアさんは、俺を包み込むような穏やかな顔をしている。

 まあ、結果だけを考えれば何も問題はない。レックスは倒れ、俺は強くなり、みんな無事だから。

 それでも、もっと良い道筋があったような気もするんだよな。

 まあ、今すべきことは、傷を癒やし、トゥルースオブマインドに慣れること。

 未来のために努力すべきであって、過去を振り返り続けるべきではない。


「ありがとう。ソニアさんに、もっと勇気を与えられる俺になりたいものだな。それが、ソニアさんへの恩返しだ」


「ふふっ、リオン殿は変わりませんね。あるいは、力に溺れることも想定していましたが」


「俺1人だけなら、ありえたな。でも、俺にはみんながいるから。みんなを守りたいから。そのおかげだ」


「やはり、リオン殿は大切な人のために立つ方。貴殿の強さをこれからも紡ぐためにも、ずっと離れません」


 ありがたいことだ。ソニアさんは師匠として頼りにしている。だが、それだけじゃない。

 もう、俺にとっては大切な日常の一部だから。ずっと、そばに居たい相手だから。


「嬉しいよ。ソニアさんのことも守れるように、もっと強くなってみせる」


「つい、期待してしまいますね。小生は物語の姫になどなれない。分かっているのに、求めてしまいそうです」


「いいんだ。夢見る権利は誰にだってある。俺だって、届きそうにない星に手を伸ばしていたから」


「リオン殿……。貴殿に、小生のすべてを預けます。剣技も、小生の希望も、なにもかも。貴殿の居なくなった未来に、小生は居ない。覚えておいてくださいね」

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