126話 近衛騎士団長

 さて、残る敵はあと3人のはず。

 暗闇の短剣、近衛騎士団長、そして皇帝レックス。

 間違いなく皇帝は最後になるから、これからの相手は2択に絞られる。

 いったいどちらだろうな。なんにせよ、倒すだけではあるが。


「リオン殿。帝国の近衛騎士団長は一騎打ちを好むと言います。ですから、挑まれたら小生は受けます。ですが、最高のタイミングで横槍を入れてください」


 ソニアさんは素晴らしいな。相手の情報をしっかり集めて、勝つために手段を選ばない。俺だって見習うべきことだ。

 一騎打ちと思わせておいて、しっかりと連携するつもりでいるのだからな。

 頼りになる限りだ。単純な強さだけでなく、ずる賢さも持っている。味方としてこれ以上はない。


「分かった。タイミングが悩ましいな」


「そうですね。1度目と2度目では何もかもが違いますから。小生が合図するのもいいですね」


「なら、余裕があれば頼む。全力でソニアさんの力になるからな」


「分かりました。では、リオン殿。向かいましょう」


 俺達は進んでいき、次の部屋に入る。そこには、赤と黒が入り混じった鎧に身を包んだ大柄な男がいた。


「近衛騎士団長だよ。気をつけて戦ってね」


 ルミリエの言葉で誰かを確信した俺は、ソニアさんとともに剣を構える。


「行きますよ、リオン殿。謹慎つつしめ――フィアーオブパワー!」


 ソニアさんの首元に黒い首輪が出現する。

 さあ、戦いの始まりだ。王国の近衛騎士団長と、帝国の近衛騎士団長。因果なものだ。

 だが、関係ない。勝つのは俺達だ。相手が何をしようとも、絶対に斬り伏せてやる。


「来たか。勇者リオンに近衛騎士ソニア。私はレックス様に仕える近衛騎士、アイク。さて、貴様らの力、見せてみるが良い」


「望むところだ!」


 さて、ソニアさんと協力して戦わなければならないような相手には、エンドオブティアーズの能力を隠してなどいられない。

 まずは初手、敵に剣を向けて伸ばす。当然のようにかわされる。一応、俺に出せる最速ではないが。

 合わせてソニアさんが目で追うのも難しい速度で駆け寄り、斬りかかる。

 今度は相手の剣で受け止められた。そのままソニアさんと敵は数合打ち合っていく。


 どうやって敵はソニアさんのスピードについていっているのだろう。

 俺では追いつくことすらできない、凄まじい速さだと言うのに。

 ウインドを使って補助をすることで、多少は追いすがることができる。

 だが、敵からは魔法を使っている気配を感じない。

 おそらくは、心奏具の能力だとは思うのだが。


「ただの雑魚ではないようですね。聖女様の足元にも及ばないですが」


 それは誰だって同じだろうさ。俺もソニアさんも他の誰も追いつけない存在だぞ。

 なにせ、女神アルフィラを打ち破るほどの人間なんだ。ただの人と比べるほうがおかしい。


「侮るな。それにしても、勇者リオンは期待外れだな。見ているだけとは。ここは近衛騎士団長どうし、一騎打ちはどうだ?」


 本当に一騎打ちを仕掛けてくる人間とはな。だが、都合がいい。

 俺は予定通り動くだけだ。最高のタイミングを見計らって、横から殴りつける。

 先ほど突きの全力を見せなかったことは、いい伏線になってくれるはずだ。

 本気で剣を伸ばせば、恐らくは達人くらいしか避けられない。

 剣の向きからとりあえず逃れるという手段は使えるが、敵がソニアさんに集中していたらどうかな。


「リオン殿。手出ししないでください。王国と帝国の威信をかけた戦いなのです」


 戦いの前に俺に告げた言葉がウソのようだな。だが、ソニアさんの考えは分かっている。

 ただ見ているだけのふりをして、敵のスキを伺えということだろう。

 簡単な話だ。だが、慎重にタイミングを図らなければな。おそらく、チャンスは一度きり。


「分かりました。ソニアさん、武運を祈ります」


「さあ、かかってきなさい。小生に勝てると思わないことですね」


 俺達2人なら、絶対に勝てる。ソニアさんはつまらないプライドなど持ち合わせていない。

 転じて、敵はいらぬ遊びに精を出す始末。俺が油断する訳にはいかないが、きっとソニアさんだけでも勝てるだろうさ。


「行くぞ、アストライア王国の近衛騎士団長!」


「来なさい、スヴェル帝国の近衛騎士団長!」


 ソニアさんはあまりにも素早く駆け回り、近づいては斬り、斬っては離れを繰り返している。

 対する敵もあなどれず、ソニアさんの目で追うことも難しいスピードについていく。

 とはいえ、足で追いついているわけではない。近づいてくるソニアさんの剣に合わせて、相手も剣を振っているだけ。

 それが至難の業ではあるのだが。帝国の近衛騎士団長だけあって、強い。


 おそらくは、俺1人で勝つことは難しかっただろうな。

 だが、きっとアイクが帝国の最強。暗闇の短剣は別種でやっかいだろうが、最大の壁はここのはず。


「やるな、ソニア! こんな好敵手をずっと望んでいた!」


「くだらない遊びに付き合うつもりはありません。さっさと倒れなさい」


 アイクの心奏具はどんな能力だろうか。まだ分からない。

 おそらくは、身体能力のどれかを強化するものだとは思うのだが。割り出すのが難しいんだよな。

 ソニアさんの動きについていく時点で、並大抵の身体能力では無理だ。

 それでも、能力を理解できれば、俺達が敵を倒す一助となる。早く答えに辿り着きたい。


 ソニアさんは剣だけでなく、手や足も出している。

 相手の足を踏もうとしてみたり、肩あたりを押さえて剣を止めようとしたり、蹴り飛ばそうとしたり。


「ずいぶんと手癖が悪いではないか。王国の騎士には品がないと見える」


 くだらない物言いだな。ソニアさんに通じる挑発でもないだろう。


「その言葉、後悔しなさい!」


 ソニアさんは勢いよく剣を振り上げ、突っ込んでいく。

 まさか、冗談だろう? ソニアさんが冷静さを失った?

 このままではまずいかもしれない。状況を注視しないと。


 ソニアさんは剣を振り下ろし、敵はソニアさんの剣を弾き飛ばす。


「わが剛力に通じるとでも思ったか!」


 ソニアさんは体勢を崩している。俺がなにかしようと思うより先に、敵はソニアさんに向けて突きを放つ。

 そして、ソニアさんに剣が刺さったかと思うと、彼女は両手で敵の剣を掴んだ。

 狙っていたな、ソニアさん! 無茶しやがって!


 おそらくソニアさんは俺に敵を攻撃させるために、わざと自分にスキを作った。

 なら、俺が合わせない訳にはいかないよな。


「悪あがきを!」


 そんな事を言う敵に向けてエンドオブティアーズの剣を向け、一瞬で敵の喉元まで伸ばす。

 剣は敵に突き刺さり、そのまま敵は倒れていった。


「ソニアさん!」


 慌てて俺はソニアさんのもとまで駆け寄っていく。まだ意識はある。血は出ているが、致命傷ではないはずだ。

 心臓や脳を突き刺されているわけではない、なら、シルクが治してくれるはず。


「リオン殿。必ず勝ってください。あなたの武運を祈っています」


「連れて帰るわよ。リオン、まだちょっとだけ待ってて」


 フェミルが転移で現れて、ソニアさんを連れて行く。

 言われた通りに待っていると、今度はフェミルとエルザさんが現れた。


「リオンさん、次は私があなたに手を貸します。よろしくお願いしますね」


 エルザさんがここにいるということは、戦うつもりなのだろう。

 心奏具を使えることは知っている。それでも、エルザさんに戦わせたくはなかったのに。

 だが、後悔などしていられない。誰も犠牲にしないためにも、全力で次の敵を倒すだけだ。

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