123話 七色の杖
七色の杖と呼ばれる老人は、大きな杖を持っている。
それでも、実際に杖の色が虹色な訳ではない。
つまりは多種多様な魔法を使えることを例えた名前なのだろう。予想通りだったな。
最大の問題は、最上級魔法を使えるのかどうか。次いで、シャーナさんと同じ無詠唱が使えるかどうか。
流石に最上級魔法を使われたら、王城ごと壊れかねないが。それでも、やってこないというのは楽観だろう。
勝てる相手に油断した結果負けるというのが最もバカバカしいからな。
しっかりと、適切に戦っていきたい。さあ、ノエルとの連携だ。ディヴァリアを相手に戦ったとき以来だな。
「いくぞ、ノエル。
「うん、行くよ!
俺の両手に剣と盾が、ノエルの手元に弓が出現する。
さて、敵は心奏具を使ってくるのかどうか。使ってくるとして、どんな能力なのか。
事前に説明を受けなかったあたり、初見でも勝てる敵なのだろうが。
シャーナさんが教えてくれなかったこともあるし、さほど重要ではないはずだ。
だからといって油断などできない。ノエルだって戦うのだから。何よりも、未来がかかっているのだから。
「ヒートフレイム」
敵の方から炎の渦が飛んでくる。盾で防ぐ。そのスキにノエルが弓を撃っていく。
が、当たらない。避けられている。流石にそこまで簡単ではないか。
いくら老人とはいえ、心奏具の力を使えば鍛えた男の速さくらいは超える可能性がある。
心奏具を持っているとすれば手の杖だが、果たしてどんな効果だろうな。
あるいは、単なる魔法使いの可能性だってあるが。俺は最悪に備えたほうが良いよな。
「さて、最上級魔法を撃てないのなら、どうとでもできそうではあるが」
「ふ、貴様の魔力では下級魔法がせいぜいではないか。知った口を利くものだな」
実際に俺の魔法は大したことはないが。それでも、ディヴァリアもサクラもミナもシャーナさんも最上級魔法を使える。
だから、上級魔法の限界くらい分かり切っているんだ。
いま撃たれた魔法の感じからすれば、練度はそれほどでもない。隠し玉もないのなら、勝ちは決まったようなものだ。
「俺の知り合いには最低でも4人最上級魔法の使い手がいるからな。どうしても、上級魔法なんて軽く感じるんだよ」
「虎の威を借る狐が! 我がワンドオブマジックの魔力は無限! それを思い知るが良い!」
「できるものならな。ほら、無限の魔力があるんだろ? 最上級魔法を撃ってみろよ」
こいつの上級魔法の感じからすると、最上級魔法を撃たれてもエンドオブティアーズならば耐えられる。
ディヴァリアがかつて俺に放ったディヴァインカラミティに及ばないのは分かり切っているからな。
それに、わざわざ詠唱で足を止めてくれるのならば都合がいい。さて、どこまで挑発に乗ってくれるか。
「ヒートフレイム! クールフリーズ! ソニックトルネード!」
炎の渦、氷の塊、激しい竜巻の順で襲いかかってくる。
だが、盾で受けることは容易だ。どれも上級魔法だからな。
これは、ノエル1人なら大変だったかもしれないな。距離を取れる状況なら、一方的に勝つ手段もあっただろうが。
それよりも問題なのは、最上級魔法を撃たないのか、撃てないのかだ。
撃たないのであれば、まだ冷静な判断能力を残していることになる。そっちの方がやっかいだな。
最上級魔法を使えないのならば、無限の魔力がブラフか、あるいは無限の性質のせいか。
考えるに、最上級魔法に届かない出力の魔力が無尽蔵に湧いて出る。
そうだとすると、持久戦は不利だな。はたしてどうしたものか。
やはり、挑発を続けて敵の情報を引き出したい。間違いなく、言葉に影響を受けているからな。
「エンドレスブレイズではないのか? エバーフロストでも? カタストロフストームでも?」
俺の知っている最上級魔法を並べ立ててみた。いま使われた上級魔法の更に上位のものばかり。
さて、どんな反応を返してくれるかな。それによって今後の行動が変わってくる。
今のままだと、俺1人でも勝てそうな気がするからな。何かはあるはずだ。
即座に殺せないか、試してみても良かったかもしれないな。エンドオブティアーズの剣を伸ばしたら、どう対処されただろうか。
「何も使えない愚かな若造が! 我が研鑽を侮辱するか!」
そのまま先程のように上級魔法を連発してくる。盾で受けながら剣を伸ばしてみると、弾かれたような感覚があった。
流石になにかの防御はしていたか。さて、タネはどんなものだろうな。
「ノエル、何か分かったか?」
「何となく思うんだけど、魔力をなにかに注ぎ込んでいる感じがあるよ」
ふむ。魔力で防御しているのだろうが。そうなると、相手の防御を抜くだけの火力が必要になるな。
エンドオブティアーズでは無理だったから、もっと強い力が。
だからノエルなのだろうか。一時的に強い火力を出すのなら、ノエルの弓を連射するのは良いかもしれない。
「リオンお兄ちゃんは防御を続けて。ノエルがいろいろ試してみるね」
まずはノエルがエネルギーの矢を連射して、軌道を曲げて敵のもとへとぶつけていく。
だが、敵の防御は抜けない。まあ、今のは小手調べだろう。
俺の仮説が正しいとすると、ワンドオブマジックの無限の魔力は、敵の防御にも影響している。
断続的に同じ威力の攻撃を続けていれば、ずっと敵が消耗しない都合上、防がれ続ける。
ならば、大きな威力の一撃だよな。ノエルも同じ考えみたいだ。
「行くよ!」
一瞬だけ俺の防御から飛び出し、矢を一つに束ねて撃ち出していく。
それでも、まだ敵は倒れない。これまで通りに魔法を撃ち続けてくる。
さて、まだ打つ手はあるだろうか。ノエルの手札を全部知っている訳では無いが、矢を束ねるのは火力を期待してだろうからな。
「ノエル、まだ行けるか?」
「この感じだと、ちょっと本気を出す必要があるね。リオンお兄ちゃん、次の敵の時には戦力になれないかも。ごめん」
「別にいい。ノエルが無事でさえいればな。絶対に俺は皇帝に勝つ。心配するな」
「うん。分かったよ。リオンお兄ちゃん、少しだけ耐えていてね」
ノエルの言葉通り、俺は敵の魔法を防ぎ続ける。
大した負担ではないとはいえ、消耗の程度は問題ないかが気になる。
俺は連戦を繰り返すことになっているからな。できるだけ楽に勝ちたい。
最後の皇帝にたどり着くまでに、十分に余力を残さなければ。
なぜシャーナさんは俺の負担が大きい形を選んだのだろうか。まあ、いまさら疑うつもりはないが。
「ミラクルオブエンカウンター、ノエルの心を具現化して」
まさか、ノエルもディヴァリアと同じことができるのか。
それなら、なぜ俺は心を具現化できないんだ。本当の心にたどり着いていないからか?
「行くよ! このまま死んじゃえ!」
ミラクルオブエンカウンターから巨大な剣の形をしたエネルギーが放たれていった。
どこか見覚えのある形の剣は、敵の魔法を食い破っていき、そのまま敵に直撃する。
さっきまで鉄壁だった防御はあっけなく貫かれて、そのまま七色の杖は死んだ。
「よくやったな、ノエル!」
「うん。でも、ノエル疲れちゃった。ミナお姉ちゃん、お願い」
ノエルがそう言うと、すぐにフェミルが現れた。
「フェミルの転移では、視界の範囲にしか移動できないんじゃなかったのか?」
「だから、ミナの心奏具で視界を広げてもらってね。だから、私はあなた達をどこへでも運べるわ」
なら、なぜみんなを帝都まで運ばなかったのか。
理由は簡単だよな。フェミルと合わせて2人しか転移できないのだから、万が一の事態があればフェミルが危険だ。
七色の杖には、俺1人では勝てなかっただろうし。他の敵も怪しい。
「じゃあ、リオンお兄ちゃん。頑張って勝ってね!」
「リオン、こっちでも必要なら人を運ぶから。シルクとかね。だから、みんなの安全は任せておいて」
「ああ、頼む。お前には助けられてばかりだな」
「いえ、当然のことよ。私も武運を祈っているわ」
そしてノエル達は帰っていった。さて、次の敵は誰だろうか。気合を入れ直さないとな。
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