120話 目的意識のつながり
さっそく俺達は帝国へ向かって進んでいる。
完全に少数精鋭で、俺の知り合いばかりだ。残りはデコイというか、敵の目を引き付けるための存在らしい。
大軍に注目させておいて、俺達の手で皇帝を暗殺する。それが目的だ。
だが、順調には行かないのだろうな。シャーナさんの予言がある。
少なくとも、双翼の双子、近衛騎士団長、暗闇の短剣には出会うはずなのだから。
まあいい。どんな敵が現れようが、打ち破るだけだ。
現在の状況としては、俺とサクラ、ユリア、ノエル、ソニアさん、シャーナさんで動いている。
ミナとシルクとルミリエは王都に集まっていて、いざという時にはフェミルが転移してシルクを運ぶ手はずだ。
いつものように、ミナとルミリエに協力して指揮を取ってもらう。
ディヴァリアは何をしているのか知らない。おそらくは、大勢を鼓舞しているのだと思う。
本人が戦えるということはあまり知られていないので、士気を高める役割のはずだ。
というか、ディヴァリアが出てしまえば本当に1人で全部終わるんだよな。
まあ、そっちのほうが俺は楽ができるのだが。とはいえ、無理強いはできない。
ディヴァリアだって俺達の命をどうでもいいとは思っていない。それでも、わざわざ俺達に戦わせる理由があるんだから。
「やっかいな敵と出くわさなければ良いが、そうは行かないのだろうな」
「でしょうね。万が一王城に楽にたどり着けても、少なくともそこからは大変でしょうよ」
「何でも良いですっ。リオンさんの敵は全部殺すだけですからっ」
「ノエルだって負けないよ。リオンお兄ちゃんとディヴァリアお姉ちゃんのためだもん」
「小生が露払いいたします。リオン殿は皇帝を討ってください」
「まだまだ敵は現れなさそうじゃが、警戒を怠るでないぞ」
「今のところは大丈夫だね。最終的には、リオンちゃんに皇帝を倒してもらう。でも、そこまでにも敵はいるよ」
当たり前のことだ。まだ王国内ではあるから、安全ではあるのだろうが。
軍を帝国に向けて動かして、同時に内乱も誘発するつもりらしい。
だから、俺達のような少人数にかかずらっている暇はないという想定だ。
とはいえ、勇者なんて二つ名をつけて、全く注目されないはずもない。
俺の動きはどこまで補足されているのだろうな。それが問題だ。
「ああ、分かった。帝国に入るまでは安全か?」
「今のところはね。状況が変わったら、また伝えるよ」
「なら、今はゆっくりしていて良いんだな」
「そうだね。休むのは大切だよ。きっと厳しい戦いになるから」
そうだよな。シャーナさんの見た未来では、俺は死んでいた。その程度には厳しいはずだ。
だからこそ、油断せずに行きたい。みんなで生き延びて、新しい未来を見るために。
シャーナさんだって、同じ事を望んでいるはずだ。いや、俺の大切な人はきっと同じ気持ちのはず。
だから、絶対に勝ってみせる。大切な人以外の何を犠牲にしようとも、俺は突き進むだけだ。
「分かった。そっちでも動きがあったなら教えてくれ。連携は大切だろうからな」
「こっちは大丈夫だよ。最悪の場合は、ディヴァリアちゃんが動くから」
なら、何も気にしなくていいな。ディヴァリアならば、個人でも帝国を相手取れるだろう。
俺達は俺達のことだけを心配しておけば良い。ずいぶんと気が楽になった。
万が一王国が大変なことになったらなんて考えながら戦うのは厳しいからな。
ありがたいことだ。ディヴァリアには感謝したいな。
「だったら安心だな。ディヴァリアに勝てるやつなんていないんだから」
「そうよね。あたし達2人がかりで、手も足も出なかったんだからね」
「ノエルとリオンお兄ちゃんでもダメだったよ。すっごく強いよね」
「だからこそ、いま味方である状況は心強い。間違いなく最強だからな」
ディヴァリアが暗殺部隊に加わっていれば、俺が何をせずとも終わったはずだ。
皇帝だろうが、シャーナさんが名前を挙げた奴らだろうが、全く意に介することもなく。
どれほど距離があるのか、シャーナさんの映像で改めて思い知らされた。
当たり前のように個人で国を滅ぼす存在と張り合うだなんてバカげている。分かっているんだ。
それでも、ディヴァリアに少しでも近づきたい。どうしても抑えきれない感情だ。
「後顧の憂いがないというのだから、うちとも交流を深めてみるか?」
「急にどうしたんですか、シャーナ先生。これまであたし達になんて興味持ってなかったじゃないですか」
「敬語などいらんよ。うち達は運命共同体なのだからな」
「分かったわ。それで、理由は何? 簡単に信用なんてできないわよ。命がかかっているんだからね」
「まさにそれじゃ。いま交流を深めないなど、賢い選択とは言えん」
「確かにね。それで、リオンのどこを気に入ったの? ソニア先生も一緒になって」
「うちは身内を大切にする姿勢かの。だからこそ、内側にいる今は誰よりも信じられる」
「小生は、折れない心でしょうか。小生にも敬語は不要ですよ」
「そういえば、ソニア先生の戦い方、どこかで見たことある気がしますねっ」
ユリアが見たことある戦い方なんて、そう多くないだろうに。いったい誰と同じだと感じているのだろうか。
まあ、気にしても仕方がない。というか、嫌な可能性しか思いつかない。
仮定が事実だったとして、ソニアさんへの感謝が無くなるわけではないのだが。それでもあまり考えたくはない。
ユリアの故郷を滅ぼした、黒い鎧の敵。確かにソニアさんと同じくらいの強さだと感じていた。
いや、もうやめよう。真実を明らかにしたところで、誰も得をしない。
「ソニアさんもシャーナさんも、手伝ってくれてありがとうございます。心強いです」
「他ならぬお主のためじゃ。感謝などいらぬ」
「リオン殿のお力になれるよう、微力を尽くしますね」
「リオンお兄ちゃんは先生にまで好かれちゃって。ディヴァリアお姉ちゃんに言いつけちゃうぞ」
「ディヴァリアちゃんはとっくに知ってるかな。だから、大丈夫だよ」
「まあ、リオンが女に好かれてるからってデレデレするのはイメージできないわね」
サクラの信用は嬉しいような、複雑なような。
まあ、好意的に見られているのだと考えておこう。サクラを袖にしているからだと思うと、少し気まずい。
「ソニア先生もシャーナ先生も、リオンさんの味方なんですね。なら、仲良くできますっ」
「まあ、そうね。リオンの敵はあたし達の敵。ノエルもユリアも、同じでしょ?」
「だね。リオンお兄ちゃんのためだけに、ノエルは戦うんだから」
「リオンちゃんがみんなを助けたおかげなんだから、当たり前だよね」
「ふふっ、ソニア先生も、リオンさんに助けられたんですか?」
「心は救われましたね。リオン殿のような方がいる。その事実だけで、強い勇気がもらえましたから」
なんというか、褒め殺しもしんどいものだな。
シャーナさんの見せてくれた未来のおかげで、俺が大切にされている事実は理解できたが。
それでも、皇帝を討つまでは止まることなどできはしない。
「あたし達、うまくやっていけそうね。リオン、あたし達でかならず勝ちましょうね」
「ああ。かならずみんなで生きて帰る。それだけが、俺の望みだ」
「リオンちゃん達、仲良くできそうで良かった。これなら、きっと勝てるよね」
そうありたいものだ。
俺達の紡いだ絆の力で、道をさえぎる敵を打ち砕いてやる。
生きるために。みんなの笑顔のために。絶対に負けない。力を合わせて、何が何でも勝ってやる。
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