105話 変えられた未来5
さて、次の映像は何だろうか。ミナ達3人は見たから、他の誰かだと思う。
とはいえ、サクラの戦いというか、原作の話ではあるだろうからな。
そうなると、残る可能性は限られてくる。やはり、ディヴァリアの戦いなのだろうか。今まで以上に見たくないな。
ディヴァリアが死ぬ姿を見せられて、俺は正気を保てるのだろうか。
「さあ、もう少しだけ耐えてもらうぞ、リオン。お主の未来を決める、大切な時間なのじゃ」
ああ、シャーナさんにも俺の苦しみはわかっているのだな。じゃあ、本当に大切なのだろう。俺を苦しめてでも、見せる価値があるということなのだから。
しっかりと耐えていかないとな。みんなの未来のために。
映像を見ていると、ディヴァリアの姿が映っている。いつもの聖女然とした顔からは程遠い、冷徹な表情をしている。
平原で軍勢を目の前にしていても薄く微笑んでいて、恐怖すらあった。
「私の道を阻むのなら、消えてもらいましょうか。
俺の知っているディヴァリアとは何もかもが違うな。口調も、表情も、心奏具も。
フェイトオブデッドエンドは短めの剣。チェインオブマインドとはまるで異なる。
そういえば、心奏具は心の形だった。なら、今のディヴァリアの心奏具が原作と違うということは、心が原作と違うということ。
なら、俺のやったことも無ではないな。ディヴァリアの心を変えられたのだから。どう違うのかは、そこまで分からないが。
「魔女ディヴァリアの暴虐を許すわけにはいきません! すでに国2つを滅ぼした化け物です。それでも、メルキオール王国の近衛として戦うのです!」
すでに国2つも。笑ってしまうくらいとんでもないな。というか、滅ぼした姿は映像にはなっていないんだな。
いや、必要ないから省かれたのかもしれないが。なんにせよ、ひどい化け物だというのに異論はない。
おぼろげな記憶では、確か逆らうものをすべて殺していっていたからな。
俺の知っているディヴァリアは敵でも必要なら殺さない。原作だと、機嫌を損ねたら即座に殺していたはず。
というか、ソニアさんもここでディヴァリアと戦っていたんだな。
つまり、原作でディヴァリアに滅ぼされた騎士団とはソニアさんたちのこと。なら、これから先は。
「その程度の軍勢で、私の敵になれると思いましたか。哀れなことです。さあ、死になさい」
声色も表情も俺の知らない姿で、どうにも困惑してしまう。
ただ、そんな俺を置き去りにして映像は進んでいく。フェイトオブデッドエンドから黒い炎が放たれ、そのまま騎士団は灰になっていった。当然、ソニアさんも。
次いで視界に映る全てを焼き払っていき、そのまま映像は途切れていった。
あんなもの、どうやって倒せばいいのだろうか。少なくとも俺には不可能だ。
まさか、サクラ達が負けてバッドエンドという訳ではないだろうし。
となると、思いつくのは心奏共鳴くらいのものだが。いけるか? 俺とサクラ、俺とノエル、俺とユリア。どの心奏共鳴でも足りない感覚があるのだが。
俺の考えをよそに、視点はサクラ達のもとへと移り変わる。
サクラ、マリオ、エギル、キュアンの4人で集まって、隠れているのか?
よく分からないが、とにかく4人でコソコソと何かをしている。
まあ、ディヴァリアを正面から倒すのは難題どころではないよな。
となると、どんな手段を取るのだろうか。気になるな。
「何があってもここで耐えている。考えただけで大変ね。でも、時間をかけなくちゃどうしようもないわ」
「そうだな。シャーナさんに託された策、ここで実現するしかないだろう」
「目の前に傷ついた人がいても癒やせない。悔しいですが、ここで負ければもっと犠牲が増えてしまいます」
「な、なんとかやってみましょう。僕達が勝たなきゃ、この世界に未来はないですから」
なるほど。ディヴァリアを倒すための作戦を実行するつもりでいるのか。
まあ、無策では絶対に勝てない相手だ。どうにか手段を考えるしかないよな。
それにしても、サクラ達から離れたところには、大勢の人がいるな。
そして、中心にいるのはディヴァリアだ。なるほど。倒すために人数を集めたのか。
これは、万ではくだらないな。数える気すら無くなる数であることは間違いない。
それでも、きっとディヴァリア1人にすら勝てない。サクラ達だけが希望なのだろう。
「まずは開戦の号砲といきましょうか。失墜する星、砕け散る月、燃え尽きる太陽。すべてを飲み込め――ディヴァインカラミティ」
銀色の長髪をなびかせながら、ディヴァリアは最上級魔法を放つ。これまで俺が見てきたものとは比べ物にならないほどの黒い光が、軍勢を包み込んでいく。
ディヴァリアを囲んでいる集団のうち、正面にいる人間はすべてチリすら残っていない。
これだけで、何人死んだんだ? たくさんとしか言いようがないが、地平を埋め尽くすほどの軍勢を、正面だけとは言え全て殺し尽くした。
やはり、ディヴァリアの実力は強いなんて言葉で表せるものじゃない。
俺がディヴァリアを殺すことを選択しなかったのは、情を抜きにしても正解だったな。
一度敵対してしまえば、死の運命が覆ることはないだろう。
どうあがいても勝つことなどできない相手に、戦いという手段を考えるべきじゃない。
なにせ、ディヴァリアはまだ心奏具を残しているのだからな。
それに、フェイトオブデッドエンドはチェインオブマインドより弱い感覚がある。
つまり、俺の知っているディヴァリアはもっと強い。今サクラ達が倒すことに成功したとしても、同じ手段が通用するとは思えないほど。
結局のところ、俺は何をしたところでディヴァリアには届かないのだろうな。
エンドオブティアーズは強い心奏具だ。それでも、初級魔法しか使えない俺では、真価を発揮しきれない。
「あんなの、どうやって倒せばいいのよ……シャーナさんの策で足りるの?」
「それでも、俺達がやるしかない。アストライア王国のために、この世界のために。勝って帰るんだ」
「すでに帝国も教国も滅びました。それでも、人の世を存続させるためにも、生き残った人々のためにも」
「そうですね。ここで全力を尽くすしかありません。負けるとしても、僕はせめてあがきたい」
「分かったわ。なら、待ちましょう。心奏共鳴のすべてを引き出せるまで」
やはり心奏共鳴か。だとしても、4人である意味は何だ? どうしても思い出せない。
この世界で、心奏共鳴が最強クラスの技だということは覚えていた。だから、サクラと協力しようとした。
だが、今見ているディヴァリアと俺の知っている心奏共鳴の力では、どうあっても差が大きすぎる。
ノエルとの合縁奇縁LV5が最大だから、もっとレベルを上げればいいのか?
まあ、見ていれば分かるか。サクラ達はみんな心奏具を出している。つまり、4人で協力して心奏共鳴を使うのか? 2人ではなく?
そうなると、今後の方針が変わってくるかもしれない。大勢で心奏共鳴が使えるのなら、俺達の中の複数人でもできる可能性はあるのだから。
サクラ達が力をためている間にも、軍勢はどんどん減っていく。今度はフェイトオブデッドエンドの黒い炎で周辺が焼き払われていった。
あっという間に全滅が見えてきたころ、ようやくサクラ達は動き出す。
「行くわよ、みんな。心奏共鳴――一心同体LV10!」
4人の心奏具が光で繋がり、ディヴァリアに向けて放たれる。
即座にフェイトオブデッドエンドで迎撃され、しばらく拮抗する。
徐々にサクラ達の方が押していき、やがてディヴァリアは光に包み込まれていった。
一瞬のことだったが、今見た光景が目の奥から消えないままだった。
ディヴァリアの命が失われていく姿は、俺の心に棘を刺したかのよう。
そう考えている間に、また意識が薄れていった。
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