91話 希望の意味
孤児院が何かおかしなモンスターに襲われている。見た目もバラバラで、絵がそのまま形になったよう。
この世界にモンスターなどいなかったはずなので、おそらくは心奏具の力だ。
だが、正体なんてどうでもいい。とにかく、ここにいる人達を守らないといけない。
戦う力なんて持っていない人がほとんどなのだから、俺とサクラでどうにかしないと。
「サクラ、行けるか!?」
「やるしかないでしょ! エルザさん、子ども達はこれで全員!?」
「ええ、今ここにみんな集まっています」
不幸中の幸いだったな。これで子ども達がバラバラだったら、どうにもできなかった。
ここにいない人を探しながら、子ども達を守ることなどできそうにない。なにせ、モンスターは1体や2体ではないのだからな。
いったいどこから現れたのか、何のために子ども達を襲っているのか、何も分からない。
これでミナの心奏具のように、はるか遠くから操作しているのならおしまいだ。
俺とサクラの二人で耐えきることなど、きっとできない。だから、なんとか犯人を見つけ出したい。
だが、やれるか? 俺もサクラも、守りながら戦うことに向いていない。
シルクがいれば、どうとでもできた気がするのだが。それでも、今ある手札でどうにかしないと。
1方向からモンスターがやってくるだけなら、エンドオブティアーズの盾を拡大するだけで済んだ。
ところが、複数の方向からモンスターが襲ってくるので、1方向を守るだけではダメ。
全力でモンスターを排除しなければならないが、ここは建物の中。俺もサクラも最大の火力を出せば、みんな生き埋めだ。
本当に大変な状況だ。それでも、何が何でもやるしかない。ここの子達は、つまらないことで死んでいい子達じゃないんだ。
エルザさんだって、俺やディヴァリア、ノエル、他のみんなにとっても大切な存在。
である以上、どんなことをしてでも、みんなを守るしかない。覚悟を決めるべきか。
「お兄ちゃん、大丈夫だよね?」
「リオンお兄ちゃんがいるんだもん。勇者はきっと、わたし達を助けてくれるよ」
エリス達の期待に応えるためにも、この子達の笑顔を失わないためにも、すべてを懸ける。
体の負担なんて気にしている状況じゃない。とにかく、全身全霊で。
「ウインド!」
後でシルクが治してくれるはず。そう期待して、負荷を無視して全力で加速する。
とにかく、子ども達に被害を出す訳にはいかない。その一心で、襲いかかる痛みに耐えていた。
風で無理やり体を押しているのだから、当然だ。関節も痛いし、筋肉も痛い。それでも、ここを乗り切るために、手段を選んではいられない!
幸い、モンスター達は真っ二つにしただけで動かなくなって消えていく。
これで、もっと正確さや手数を求められていたら、詰んでいたな。だが、今の状況なら希望はある。
モンスターが尽きるのが先か、何らかの助けが来るのが先か、俺達が負けるのが先か。
とにかく持久戦になるだろう。ここに子ども達をおいてはいけないのだから。
俺とサクラのどちらかが黒幕を探すという手もある。だが、モンスターの数が多いからな。
犠牲を出さずに持ちこたえられるかどうかは怪しいところだ。今打つべきバクチではない。何か策が思いつかないなら、子ども達を守るべきだ。
まだマシなことに、モンスターの動きは単調だ。犬みたいなやつ、猫みたいなやつ、訳の分からない怪物みたいなやつ、人みたいなやつ、いろいろいる。
それでも、大きな動きに違いはない上、特殊な能力も無いようだ。
ただ、変な見た目をしたモンスターが襲ってきているという心理的圧迫感だけがある。
きっと、子ども達は怖いのだろうな。元気づけてやりたいが、その余裕はない。
モンスターごと建物を壊していいなら。そもそも、誰も守らなくてもいいのなら。簡単に倒せる程度の相手なのだが。
子ども達を邪魔だと思っているわけではない。今みたいな状況でも、誰も勝手な動きをしていない。尊敬できる相手だ。
だから、必ず全員を無事に生かすために、どこまでも全力を尽くすんだ。
「安心してくれ。何があっても、必ずお前達を守ってみせる。サクラ、行けるか?」
「ええ、大丈夫。ちゃんと、みんなあたしの手で守るから。リオンも、エルザさんも、エリスもね」
サクラは返事をしながらも初級魔法で敵を
同時に複数の魔法を放てるサクラがいなければ、誰か犠牲が出ていただろうな。今日一緒に来られたことは、数少ない幸運だ。
ディヴァリアだって、この人数を無傷で守るのは難しいはずだ。なにせ、火力が高すぎる。
「お兄ちゃん、がんばって……!」
「リオンお兄ちゃん……!」
いま、守るべきものが背中にいるという事実が、俺に力をくれる。
エリスも、他の子も、エルザさんも、みんな必ず無事で終わらせるために。どれだけの痛みにだって耐えてみせる。
もっと、もっとだ。シャーナさんに教わった身体強化をフル活用しろ。そして、さらにスピードをあげるんだ。
ウインドの風は下手したら骨が折れるんじゃないかというくらい強い。いや、本来はもっと弱い風なのだが。
シャーナさんのおかげで手に入れた魔力操作のおかげだ。後でお礼を言わないと。
そのまま、全力で駆け回ってモンスターたちを切り捨てていく。方向転換のときなど、腕が千切れそうだとすら思う。
だとしても、ここでみんなを守れるのなら、すべてを出し切る。
どれほど痛かろうが、今誰かを死なせるよりはマシだ。それに、後先を考えていては、今この場所にいる人達を守りきれない。
剣を振るたびに、諦めれば良いんじゃないかという思いすら浮かぶ。
なにせ、ウインドの風圧で変な方向に曲がりそうな体を無理やり動かしているわけだからな。
失敗したら死ぬかもしれないという恐怖もある。首が折れでもしたら、それで終わりだ。
でも、絶対に諦めない。さっきまで見ていた笑顔を失う訳にはいかない。
俺が苦しみに耐えるだけでこの子達を救えるのなら、安いものだ。そうに決まっている。
もっと楽をする方法は簡単だ。ここにいる数十人を見捨てて、エルザさんとエリスを守るだけならば、どう考えても楽になる。
なぜなら、俺とサクラの2人で囲めば、十分防御できるから。動き回らなくていいから。
だからといって、いま子ども達を見捨てたら、永遠に後悔が残るだろう。
なにせ、この子達には何の罪もない。敵ですらない。そんな相手を、楽ができるからという理由で見捨てる。
そんなことをしたら、俺はサクラ達の友達だと、胸を張って言えなくなる。
みんな輝ける人達の中で、俺だけが薄汚れることになる。
絶対に嫌だ。ノエルにも、エルザさんにも、フェミルにも、他のみんなにも、誰にも顔向けできない。
だが、気合だけではどうにもならないかもしれない。そんな現実が目の前にあった。
俺の魔力はだんだん減っていくし、動きもだんだん
このままでは、誰かに犠牲が出てしまう。サクラは十分に余裕を持って動けているのに!
「ねえ、リオンちゃん! 聞こえてる? ミナちゃんのおかげで、そっちの状態がわかった。今、フェミルちゃんにシルクちゃんを送ってもらうから、それまで耐えて!」
聞こえてきたルミリエの言葉は、俺にとってはまさに福音だった。
心で諦めないと考えていても、どうしても限界が見えていたから。残酷な現実に、打ちのめされそうになっていたから。
でも、目の前に希望があるのなら、最後まで戦ってみせる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます