88話 心からの約束
今日はルミリエを家に誘っている。正確には、俺の使用人達とルミリエとで話したいとのことらしい。
それで、俺の家に誘うことにした。外したほうが良いかと聞いたが、別に俺が居ても問題ないとのことだ。
ユリアとノエルとフェミルを連れて、部屋で待たせているルミリエのところへと向かった。
メルキオール学園ではクラスメイトだから、全員顔と名前は一致しているだろう。
それに、帝国との戦争でユリアとフェミルとは知り合っていた。ノエルは孤児院にみんなで通っていたからお互いに知っている。
だから、ある程度関係は出来上がってはいるんだよな。きっと、ルミリエ的にはもっと仲を深めたいのだろうが。
俺としては、親しい人間同士が仲良くなってくれることはありがたい。
だから、ルミリエの提案は大歓迎ではある。とはいえ、ルミリエは何をするつもりなのだろうか。
まあ、心配はしていないんだがな。ルミリエはもちろん善人だし、使用人達もいい人達だ。だから、うまくいくはずだ。
「そういえば、ルミリエはあの歌姫ルミリエなのよね。ずいぶん気軽に話しかけちゃったけど、失礼じゃなかったかしら?」
「気にしなくていいよ。リオンちゃんの使用人なら、私の身内でもあるからね」
「なら、ノエルもルミリエお姉ちゃんの身内ってことになるね」
「もっと大事なことがありますよっ。今の言葉は、ルミリエさんがリオンさんの身内だって言っているも同然なんですっ」
確かにユリアの言うとおりだな。まあ、俺としてはルミリエの考えに異論はないが。
ただの友達というよりは、身内という関係のほうが近い気がする。一心同体というか、一蓮托生というか。
ミナやシルク、ディヴァリアも含めて、みんながいることが俺にとって当たり前なんだ。
「ふふっ、リオンちゃんと離れるなんて、考えられないからね。きっとみんなも同じだろうね」
「そうですよっ。絶対に、リオンさんのそばからは離れませんっ。どこへだって着いていきますよっ」
「ディヴァリアお姉ちゃんと一緒なら、ノエルも同じかな。2人のそばが、ノエルの居場所だから」
「私はそこまででもないわよ。エリスの面倒だって見なくちゃいけないし。まあ、恩返しはしたいけれどね」
俺のそばに居ることを当たり前だと考えてくれる人がこんなにいる。嬉しい限りだ。
やはり、1人は寂しいからな。こうして誰かと一緒にいる時間があるから、生きていて楽しいのだから。
「俺としてはありがたいけど、無理に一緒にいる必要はないんだからな」
「そんな心配はいらないよ。私達はみんな、リオンちゃんが大好きなんだからね。リオンちゃんのそばはポカポカだから」
「無理になんて考えたことはありませんよっ。わたしはリオンさんとずっと一緒に居たい。それが幸せだからってだけなんですっ」
「ノエルだって同じだよ。リオンお兄ちゃんとディヴァリアお姉ちゃんのそばが、ノエルの大切な場所だから」
「ふふ、リオンも大変ね。いっぱい執着されちゃって。でも、女の子に囲まれて嬉しいのかしら?」
どうだろうな。俺の親しい人は、もうキュアンを除けば女の人ばかりだが。
それでも、女に囲まれたから嬉しいという感覚ではない気がする。ただ単に、親しい人と一緒にいるから幸せなのだろう。
結局、いくら美人だろうが、特に大切ではない相手との時間は苦痛ですらあるからな。
気を使って接しないといけない相手は、正直に言えば一緒にいて疲れる。
「お前達がそばに居てくれることは、嬉しいぞ。女だからかどうかは、関係ないと思いたいが」
「ふふっ、女の子だからっていうなら、私達に手出ししてたんじゃないかな。だから、リオンちゃんは安心していていいよ」
「それもそうか。いつ寝床に誘われるのかと思っていたけど、結局今でもないものね。性欲ではないか」
「わたしは、ちょっと残念ですけどっ。ディヴァリア様がいるから、仕方ないんですけどねっ」
「ディヴァリアお姉ちゃんが相手なら、敵わないよね。あんなに素敵な人なんだもん」
俺がディヴァリアに惚れているかのように話が進むのは、どういう訳なんだ。
まあ、もう慣れたから別にいいんだけどな。確かに、聖女としてのディヴァリアならば、誰も敵わないほど魅力的だろう。
それでも、ディヴァリアは他人の命なんて虫くらいにしか思っていない。
だから、どうしてもディヴァリアのことは怖い。大切な幼馴染であることは間違いない。死んでほしくない相手であることも。
だとしても、いつかの未来で敵対することへの恐怖は消えないんだ。
なにせ、敵に回ったら絶対に勝てない相手だからな、ディヴァリアは。
「お前達のことをどうでもいいと思っていたら、もしかしたら手出ししていたかもな。でも、大切な相手だからな。ちゃんと大事にしたいんだ」
「うんうん。私達を大切な人だと思ってくれているのは、十分知っているよ。ルンルンしちゃうくらいにはね」
「ただの孤児だったノエルを、いっぱい大事にしてくれたからね。リオンお兄ちゃんは、きっとノエルを裏切らない。そう信じられるんだ」
「出会ったばかりだったわたしのために、命を懸けてくれた人ですからねっ。そこが心配でもありますけどっ」
「私を助けてくれた時も、見ず知らずの相手だったものね。助かったのは確かだけど、リオンに恩返ししたい今では、やめてほしいわね」
ユリアとフェミルの意見は分かる。自分が助けられたことは嬉しいが、それはそれとして、大切な相手なら、自分を大事にしてほしいだろう。
そうだよな。親しい人間が、俺ならサクラやディヴァリア達が見知らぬ人のために無茶をしたとして。絶対に嫌だと思うはずだ。
どうでもいい他人のために命を懸けないでくれと、きっと考えるはずだ。
「分かった。もう分かっているんだ。これ以上抱え込もうとすれば、取りこぼすだけだと。だから、もう親しい人のためだけに戦うつもりだ」
「それで良いんだよ。リオンちゃんは、ちょっと優しすぎるくらいだったから。今の考えでちょうどいいかもね」
「わたし達を大切にしてくれるなら、十分ですよっ。リオンさんの敵は、わたしが切り捨てますからっ」
「ノエルはリオンお兄ちゃんと一緒なら、何でも良いよ。ディヴァリアお姉ちゃんもいるんだから、他はいらないかな。ルミリエお姉ちゃん達や、ユリア達は大事だけどね」
「私も大体同感ね。身内だけを大事にするって、とても大切なことよ。そして、案外難しいことでもあるわ」
まあ、俺もマリオとエギルはすでに見捨てているからな。難しさは分かる。
だからこそ、いま俺の手にあるものを、全力で大切にしたいんだ。
ディヴァリアも、サクラも、ルミリエ達も、使用人達も。父さんと母さんも。
失うつらさというのは、よく分かった。だから、もう味わいたくないんだ。そのためならば、敵を殺してでも、誰かを見捨ててでも。
結局、みんなの希望というのは、幻想でしかないのだろうな。
俺は無謀な目標に向かって突き進んでいたわけだ。愚かなことだ。
それでも、今気づけたからには、もう迷いはしない。大切なもの以外の何を捨ててでも、親しい人達を守ってみせるんだ。
「ああ、分かった。俺はお前達を失わないために、全身全霊を懸ける。だから、何が何でも生きていてくれよ」
「分かったよ、リオンお兄ちゃん! どんな事でもしてみせるから、ずっと一緒に居てね!」
「始めから、答えは決まっていますっ。リオンさんと生きることだけが、わたしの願いなんですからっ」
「エリスのためにも、しっかりと生きないとね。だから、安心していいのよ」
「うんうん。私達は、リオンちゃんを悲しませたりしないよ。全力でキラキラした日々をあげるから、リオンちゃんこそ、生きていてね。約束だよ」
「ああ、もちろんだ。絶対に果たしてみせる」
大切な約束ができた。何があっても、裏切ったりはしない。それが、俺の幸せなのだから。
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