70話 未来の王

 そろそろ王が後継者を指名するような雰囲気が出ているが、ミナはいつもどおりだ。

 マリオには会えていなくて、どんな状況かは分からない。追い詰められていなければいいが。

 今日は俺とディヴァリア、ミナとシルクとルミリエで集まっている。

 このメンバーで一緒になるのも久しぶりだな。サクラが友達になってから、サクラも居ることのほうが多かったから。


 こうしてみんなで集まると、やはり落ち着くな。俺の居場所はここなんだと思える。

 もちろん、俺の家やメルキオール学園にも居場所はある。だが、この4人で過ごす時間が最大のいこいなんだ。


「ミナ、調子はどうだ? 次代の王が決まったら、いろいろと大変だろう」


「気にしなくてもいいですよ。わたくしには十分な希望がある。リオン達が居てくれるなら」


 どういうことだろう。王位への希望という意味ではないだろうし、俺達と一緒なら救われるというような意味だろうか。

 だとしたら、ありがたい限りだ。俺の大切な居場所は、ミナにとっても大切な居場所だということだからな。


「だったら、嬉しいね。ミナが喜んでくれるなら、私達がこうして時間を作る価値があるよ」


 ディヴァリアも俺と同じみたいだ。やはり、俺達4人は大切な友達どうし。この4人ならば、どんな未来が待っていても、乗り越えられるはずだ。

 それに加えてサクラ達まで居るのだから、心強いことこの上ない。俺達の前途は明るいだろうな。


「同意します。それに、どんな怪我をしたとしても、私がいる。絶対に生かしてみせる。リオン君がどれほどの無理をしても」


 名指しされてしまった。そんなに無理ばかりするイメージだろうか。

 シルクは穏やかな雰囲気だから、そこまで心配しているわけではないと思うが。例えのたぐいだろう。

 それでも、危なっかしいと何人にも思われているのだから、気をつけないとな。

 ユリアを助けた時のように、シルクを泣かせる訳にはいかないのだから。


「王様になったミナちゃんをたたえる歌は、準備できてるよ。だから、バリバリ突き進んでいいからね」


 ミナが全力で進んだら、クーデターが起こってもおかしくはないが。いや、おかしいな。

 原作ではミナがクーデターを起こしていたとはいえ、今のミナならばありえないこと。

 だからこそ、ミナに王になってもらいたいのだから。民の幸せを考えられる人なんだから。


「ええ。わたくしには皆がいる。だから、全力で突き進みます。振り返りはしない」


「手伝えることがあったら、言ってくれよ。何でもするからな」


「リオンは本当に何でもしちゃうからね。あまり頼れないかな」


 そうか? 俺は無実の人々を殺せと言われたら、拒絶すると思うが。

 まあ、みんなの助けになれるのならば、労を惜しむつもりはないとはいえ。

 ディヴァリアの言う何でもするは、それこそ戦争だってするという意味だからな。

 俺としては、もっとためらいを覚えてほしいものだが。


「同感ですね。ですが、あまり遠ざけても無駄でしょう」


「うんうん。私達の困った顔を見ちゃったら、リオンちゃんのやる事はひとつだもんね」


 まあ、ミナ達が困っているのならば、絶対に手助けする。それは間違いない。

 危険だからと遠ざけられても、全く嬉しくはないからな。みんなが傷つくことは、絶対に避けたいのだから。

 シルクもルミリエも笑顔だから、悪く思われている訳ではないのだろうが。


「お前達が苦しんでいるのに、隠されたら悲しいからな。それで手遅れになったら、誰よりも俺自身を恨むだろう」


「そういう人だから、私達はリオンが大切なんだけど。少し困るときもあるよね」


 ディヴァリアは眉をハの字にしているから、本当に困っているのかもしれない。

 とはいえ、どういうことなのか。俺がみんなを手助けすることで困る。まさか足を引っ張っている?

 もし俺が足手まといになっているのならば、それこそ自分を許せないが。


「迷惑をかけているのなら、言ってくれよ。俺はお前達の邪魔をしたいわけじゃないんだ」


「いえ、迷惑ではないですね。わたくし達は確かに助けられている。それでも、借りが増えるばかりですから」


「共感します。リオン君のくれたものに対して、私達がどれだけのことを返せているのか」


「そうだね。少しだけ、ムズムズしちゃうかも」


 俺は大したことをしていないと思うのだが。むしろ、俺の方が借りが多いくらいだろう。

 それでも、今の言葉を否定する訳にはいかない。みんなの感情を無視する言葉なのだから。

 ただ、みんなの助けになれている事実は嬉しい。俺はみんなが大好きだからな。


「気にしなくてもいい。どうしてもというのなら、今みたいな時間を作ってくれれば十分だ」


「ありがとう。リオンの思いに応えるために、私達も頑張るね」


 ディヴァリアの言葉に、みんながうなずいていた。

 俺も、今みたいな時間を守るために、全力を尽くしてみせる。どんな未来が待っていても、それは変わらないだろう。



――――――



 リオンのいないところで、私とミナ、シルクにルミリエで話す時間を作っていた。

 もちろん、ミナを王様にするための計画の準備だ。私にとっては、リオンを英雄にする道筋のひとつでもある。

 王の後継者には第1王子が選ばれるだろう。だから、その先の話だ。


 ミナが解決しなければどうしようもない問題を引き起こして、ついでに他の王族をある程度減らす。

 そうすることによって、ミナを王様にせざるを得ない状況を作るために。


「みんな、本当に良いんだよね。また、リオンを戦場に送るかもしれないよ」


 みんながリオンを心配していることは分かっている。だから、最後の確認だ。

 協力してくれないとしても、仕方のないことではある。だから、断られても良い。

 でも、リオンにはまだまだ戦いを用意するけれど。それは変えない。

 だからといって、反対したくらいでみんなを傷つけるつもりはないよ。大切な友達なんだからね。


「ええ。わたくしの力で、リオンを死なせはしません」


「同意します。どんな怪我だとしても、何をしてでも癒やしてみせる」


「そうだね。この歌の力を、人を傷つけるために使ってでも」


 みんな、本気で覚悟が決まっているみたいだ。

 当たり前だよね。ミナが王様になるのが、私達にとって一番いい未来なんだから。


「じゃあ、この予定で進めるね。でも、意外かも。ミナは王様になれなくても、納得するのかとも考えたから」


 そんな私に対して、ミナは柔らかい笑みを向けながら言う。


「わたくしはかならず王になる。リオンがわたくしに望んでくれたから。初めて、王に向いていると言われた時の想いは、何があっても忘れません」


 今では私達は全員ミナに王様になってほしいと思っているけれど。

 そもそも最初にミナに王の才能があると言ったのは、リオン。

 私はリオンの言葉があったから、ミナが王になった国を想像したからね。

 だから、ミナにとってのリオンは、とてもとても大きい存在なんだろう。


 ありがたいことだね。ミナが王様になってくれれば、私とリオンの関係を認めてくれる人が増える。

 私はリオンが戦争を望んでいないことなんて、もう分かっているから。できる限り戦争が少ない道筋を選んであげるよ。

 そのためにも、ミナを王様にすることが始まりだ。王が認める関係なら、祝福されるだろうからね。


「うん。それでいいと思うよ。私だってミナの治世に協力するから」


「私もバリバリ手伝っちゃうよ。歌姫の人気は、役に立つでしょ?」


「同感ですね。私にできることは少ないですが、全力で協力します」


「聖女と歌姫の協力はありがたいですね。そこに勇者もいるのだから、民衆の期待は万全になるでしょう。後は、サッドネスオブロンリネスの力があれば。きっとわたくしの支配は完成する」


 結局、ミナも私の同類だよね。大切な人以外の命なんて、本当はどうでもいいんだ。

 民衆が苦しむのだとしても、リオンが喜んでさえいるのならば十分。そんな人だよね。

 まあ、リオンにだって市民の噂は伝わるだろうから、ある程度は国民の幸福を目指すのだろうけれど。


「じゃあ、次の王が指名されたときが始まりだね。私達で、勇者と真の王を作り上げようね」


「ええ。わたくし達の未来のために。ここに誓いましょう。敵対する者はすべて叩き潰して、王になると。リオンがくれた気持ちを形にするために」


 ここからが私達の始まり。だから、リオン。素晴らしい未来を期待していてね。

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