65話 妹として
今日もメルキオール学園に通っている。
マリオを見つけたので声をかけようとすると、その前に呼び止められた。
「リオンお兄ちゃん、今ヒマ? ねえねえ、お話しよ?」
最近、うまく男友達に話しかけられない。
前回はユリアに、その前はミナに、もう1つ前はディヴァリアに妨害というか、呼びかけられてそっちの相手をしていた。
もちろんみんな大切な友達だから、話しかけてもらうのは嬉しい。それはそれとして、マリオ達とも関係を深めたかった。
だが、今の状況が続くと難しいだろうな。偶然だとは思うから、いずれマリオ達とも話せるはずだが。
「ああ、大丈夫だ。ノエル、学園は楽しいか?」
「うん! リオンお兄ちゃんもディヴァリアお姉ちゃんもいるからね。他の人達とも仲良くできてるよ」
ノエルが満足そうなら、十分か。もともと学園自体に興味があるわけではなく、俺達の近くに居たいだけだったみたいだからな。
そんなノエルには授業は退屈でないかとか、いろいろと心配していた。
だが、楽しそうな顔をしているからな。学園生活とも相性が良かったのだろう。
「なら、良かった。せっかく入学したのに、ノエルが苦しいのなら意味はなかったからな」
「心配してくれてありがとう! でも、大丈夫だよ。何があっても、リオンお兄ちゃんとディヴァリアお姉ちゃんがいれば幸せだから!」
本当にノエルは俺達が大好きだよな。嬉しいが、俺達以外の幸せも知ってほしいところだ。
せっかく学園という、いろいろな人と関われる場所にいるのだから。
ノエルが幸せになってくれるのなら、必ずしも俺のそばでなくていい。
「お前に苦しい思いはさせたくないが、最近は平和も怪しいからな。念のために、強くなっていてくれ」
「うん! ノエルが死んじゃったら、リオンお兄ちゃんは泣いちゃうからね。絶対に死んだりしないよ」
本当に俺は泣くだろうな。ノエルは妹のように可愛くて大切な存在なのだから。
きっとディヴァリアだって、とても悲しむ。俺達が過ごした時間は、確かな絆を産んでいるはずなのだから。
「なら、安心だな。できるだけ俺が守ってやるつもりだが、俺は弱いからな」
「リオンお兄ちゃんは頼りになるけど、今度はノエルが助けてあげる! これまでいっぱいお世話になったからね!」
ノエルの実力なら、本当に助けられることになるだろうな。2人なら強い心奏共鳴も使えるのだし。
むしろ、これから借りばかり増えないか心配しないといけないくらいだ。
俺より年下にも関わらず、すでに俺より強い可能性すらある。嫉妬しそうな時もあるが、ノエルの笑顔を思い出すとなんとかなる。
それにしても、俺はつまらない人間だな。大切な妹であると考えていながら、ねたみを持ちそうになるのだから。
ノエルに才能があるのなら、素直に喜んでやるだけでいいはずなのに。
それを言うなら、ディヴァリアにも、サクラにも、ユリアにも、みにくい感情を抱いている。
こんな俺がみんなの友達や大切な存在で居ていいのだろうか。
俺自身がろくでもないやつだという自覚はある。だが、俺から離れていったところで、みんなを悲しませるだけだ。
いくら俺でも、みんなからの好意を疑うほど終わってはいない。だから苦しいのかもしれないが。だが、我慢すべきことだ。
「ノエルは頼りになるだろうな。だが、無理はしないでくれよ。ノエルが無事でいることが、いちばん大切なんだ。恩返しなんて、その後でいい」
「リオンお兄ちゃんは優しいね。そんな人だから、ノエルを拾ってくれたんだよね」
「ディヴァリアが言い出した事だからだけどな。それに、ノエル自身が魅力的だからだ」
本当に、俺の周りの人間は魅力的な人が多い。俺には不釣り合いだと思えるほどに。
だけど、今のノエルのような穏やかな表情を壊す訳にはいかないからな。好意は素直に受け取るべきだ。
ノエルは元気いっぱいの子ではあるが、出会ったばかりの頃は曇った目をしていた。
だから、今のノエルは俺達の存在あってこそなのだろう。そう思えば、この子のそばに居る資格はあると思える。
「リオンお兄ちゃんにそう言ってもらえて嬉しいよ! リオンお兄ちゃんも、もちろん魅力的だよ!」
「ありがとう。これからもずっと思ってもらえるように、頑張っていくよ」
ノエルだけではなく、俺の大切な人みんなにな。
俺自身の価値を決めるのは、俺を大切に想ってくれる誰かだろうからな。
だから、信頼してくれる人の期待だけは裏切りたくない。これからも、きっと同じ思いだろう。
「そういえば、ディヴァリアお姉ちゃんとの結婚式はいつなのかな? ノエル、ずっと楽しみなんだ」
あれは冗談のたぐいではないのだろうか。もしディヴァリアと結婚できるのなら、嬉しいような、怖いような。
ディヴァリアだって穏やかな側面はある。だから、結婚相手を大切にする可能性もあるよな。
とはいえ、根本的に好かれていないと、いつの間にか死んでいることになりそうだ。
「ディヴァリアの都合もあるからな。すぐにとはいかない。それでも、ノエルが祝ってくれるのなら嬉しい」
「2人の結婚式、絶対にお祝いするからね! ノエルの大切な2人が家族になるの、きっと最高だよ」
俺とディヴァリアが結婚すれば、ノエルは俺たち2人と一緒に過ごせるからな。それは最高だろう。
ノエルはとても優しくて明るくて、俺達に元気をくれる存在だからな。この子も喜んでくれるのだから、いい未来のはず。
とはいえ、根本的な問題がある。ディヴァリアが俺に好意を持っているのかどうかだ。
ディヴァリアだって妥協くらいはできる。だから、最低限に人として好かれていれば大丈夫だろう。
それでも、もし本気の想い人が居るのならば、俺を殺してその本命を追いかけるくらいはしかねない。
まあ、何にせよかなり未来の話になるだろう。今から想像していても仕方ないな。
とはいえ、俺達が結婚した時のノエルの顔は、きっと素晴らしい笑顔だと思う。できれば見てみたいくらいだ。
「今はただの幼馴染だけどな」
「リオンお兄ちゃん、そういうところはダメなんだよなあ。まあ、いいところは他にいっぱいあるけど」
どういうところがダメなんだろう。サクラも似たような雰囲気を出していたことがあったな。
なんというか、あきれのようなものが見える。なぜかみんな、ハッキリとは言ってくれないんだよな。
「ダメならば、直したいものだが」
「ここで言っちゃったら、ディヴァリアお姉ちゃんが困るから、言わないよ」
なぜそこでディヴァリアの名前が出るのだろうか。分からない。
ただ、ノエルの中ではハッキリしているのだろう。だったら、聞かないでおくか。
おそらく、同性だから分かることがあるんだ。俺には分からない何かが。
「なら、聞くわけにはいかないな。ノエル、いろいろとありがとう」
「どうしたの、急に。でも、どういたしまして。リオンお兄ちゃんが嬉しいなら、ノエルも嬉しいよ」
「いや、ノエルには助けられていると思ってな。俺達の関係に気を使ってくれているみたいだから」
「当たり前だよ。2人はノエルの大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃんなんだから。ずっと仲良くしていてほしいんだ」
俺とディヴァリアがずっと仲良くしている、か。そんな未来があるのなら、嬉しいな。
外道であるディヴァリアにだって情はある。その思いが、いずれ平和をつむいでくれたら。
届くのか分からない可能性だが、どうしても希望を持ってしまう。
「ああ、そうできたらいいな。ノエル、あらためて、これからもよろしくな」
「もちろんだよ! ずっと一緒にいようね。約束だから!」
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