3章 歪みゆくリオン
64話 新しい日常
いったん帝国とは停戦となって、メルキオール学園に再び通えるようになった。
同時に、ノエルとユリア、フェミルも俺達と同じクラスとして、これから一緒に学園生活を送る。
おそらくは、ディヴァリアが働きかけた結果なのだろう。あるいは父さんかもしれないが。
ミナやシルク、ルミリエも俺と同じクラスだったからな。何かの意図はあるはずだ。
今は俺の家で、学園に通う前の最後の確認というか、時間待ちというか。
ゆっくり落ち着いて過ごせる時間だから、とても癒やされる。
サクラが同じクラスだったのは、本当に幸運だった。入学した時点では、俺達とは何の関わりもなかったわけだからな。
「ディヴァリアお姉ちゃん、リオンお兄ちゃん、今日から一緒だね!」
どうも、ディヴァリアはノエルにずっと名前で呼んでいいと言ったみたいだ。
俺としては、ノエルとディヴァリアの距離が近いのは嬉しいところ。2人とも大切な存在だからな。
ノエルはとても嬉しそうだし、同じ学園に通えてよかったな。これから先、ノエルが戦うかもしれないことだけが心配だ。
「そうだね、ノエル。しっかりリオンを支えてあげてね。使用人としてね」
「もちろんだよ! ディヴァリアお姉ちゃんだって、支えてあげるからね!」
ノエルならば、本当にしっかりやってくれるだろう。その辺は疑っていない。だからむしろ、頑張りすぎないかのほうが気になる。
俺の方で気にかけておくか。俺もディヴァリアも、ノエルが幸せであることが一番嬉しいんだからな。
「それは嬉しいな。ノエルには期待しているから」
「うん! これから頑張るよ!」
ノエルはいつも元気いっぱいだ。この笑顔が曇っていかないように、俺もしっかりやっていかないとな。
俺達の妹だと思っているから、ノエルが役に立つかどうかなんて問題じゃないんだ。
だけど、ノエル自身は俺達の世話になるだけの状況を嫌がるだろう。
うまくバランスを取っていかないとな。俺にとっての幸せは、ノエルが幸せで居てくれることなんだから。
「わたしだって、リオンさんを支えていきますよっ。ディヴァリアさんもね」
「私も同じ気持ちよ。エリスを助けてくれた恩、私を殺さないでくれた恩、しっかり返していかないとね」
ユリアとフェミルもやる気十分といった様子だ。俺を支えてくれようとする人がこれだけいる。ありがたいことだ。
俺もみんなの思いに応えられるよう、ちゃんと頑張っていかないとな。きっと俺は、この中の誰よりも努力が必要なんだから。
「助かるが、無理はするなよ。潰れられたら、助けた意味がなくなるんだからな」
「心配しないで、リオンお兄ちゃん。悲しませたいわけじゃないから、ちゃんとやるよ」
「そうですねっ。リオンさんが私の生きる意味なんですから、幸せにしてみせますっ」
「2人は極端ね。でも、私もリオンの言う通りにするわ。あなたが助けた命、ちゃんと価値あるものにしてみせるから」
俺のためでも何でもいいが、とにかく自分の幸せを大切にしてほしいものだ。
この3人ならば、俺達を踏みにじってまで自分の幸福を追い求めようとしないだろうからな。全力で幸せに向かって行ってほしい。
「なら、安心だな。お前達が不幸になったら、俺は悲しいからな」
「分かってるよ。リオンお兄ちゃんがノエルを大好きだってこと。だから、大丈夫」
「そうですねっ。わたしの幸せが、リオンさんの幸せだってことも」
「なるほどね。だったら、ちゃんと幸せになるわ。でも、リオン。助けを求めた時に、お礼なら何でもするって言ったのはウソじゃないのよ」
「ありがとう。おっと、そろそろ時間だな。行くか」
何でもすると言われて返す言葉に困ったから、時間が来たのは助かった。
フェミルにそういう意図はないだろうが、何でもすると言われると定番のネタがあるからな。
さすがにどうかと思うから、口には出さないが。とはいえ、少しだけ想像してしまった。
そしてメルキオール学園に転移していく。サクラはすでに寮に戻っているから、学園で再会だな。楽しみだ。
俺としてはずっと住んでいてもらっても良かったのだが、そこまで世話になれないと断られた。サクラらしい事ではあるが、少し寂しさもある。
編入生の紹介も済ませて、いつものメンバーと俺の使用人で固まっていたら、急に知らない人から声をかけられた。
「聖女様、なぜそのような平民共と関わるのです。そこの小娘など、元は孤児だと言うではありませんか。聖女様にはふさわしくありません!」
ディヴァリアの顔を見た瞬間、この男の末路は理解した。
さて、どうすべきかな。せめて楽に死なせてやるべきか、今だけでもいい思いをさせてやるべきか。
もう死ぬことが決まっている相手だと思うと、できるだけ優しくしてやろうと思える。
「私の運営する孤児院の子供と接することが、それほどおかしな事ですか? 面倒を見ていたのですから、成果を確認するのは当然でしょう」
ディヴァリアは俺よりもコミュニケーションがうまいかもしれないな。
俺ならば、ノエルを大切に思って何が悪いとか言いそうだ。どう考えても高慢な相手なのだから、理屈を説くほうがマシか。
とはいえ、それほど効果はなかったようだ。ディヴァリアが機嫌を損ねているのにも気づかず、男はさらに言葉を重ねる。
「聖女という名が汚れてもですか!? 高貴なるものにだけ許されし名ですよ!?」
そもそも原作では、平民であるサクラが得ていた称号なのだが。
この男は全く何も分かっていなくて、ある種の面白さすら感じてしまう。
とはいえ、ノエルをバカにされたのは腹立たしい。だが、どうせ死ぬ人間だからな。俺まで攻撃する意味はない。
「そもそも、私の聖女という名は、孤児院を設立したことにも大きく関係があるんですよ? なぜ、そのあたりに目が向かないのでしょうか」
まったくだ。孤児院を設立したこと、娼婦の待遇を改善したこと。他にもあるが、そのあたりからディヴァリアの名声は高まった。
それで孤児を雑に扱うのならば、それこそ名声を失いかねない。やはりこの男は、何も見えていないのだろう。
「ならいいです! せいぜい平民と仲良しごっこをしていることですね!」
男は強く床を踏みしめながら去っていく。
ああ、これは絶対に死んだ。もはや俺がフォローに回ることすら危険だ。
仕方ない。この男はもう放っておこう。今のうちに、生を味わっておけばいいさ。持って明日までの命だろうが。
「ディヴァリアお姉ちゃん、大丈夫だった? 変な人につっかかられて、大変だったよね。聖女の意味が理解できない人なんて、死んじゃえばいいのに」
ノエルはノエルで過激だな。まあ、慕う相手をあそこまでバカにされたのだから、気持ちはわかるが。
とはいえ、俺は暴言だけで死んでほしいとは思わないぞ。まあ、積極的に助けようとも思えないんだけどな。
ハッキリ言って、心象は悪いからな。何が目的なのか分からないが、否定から入って好意を持たれるとでも思っているのだろうか。
「死ねばいいとまでは思わないが、ろくでも無いやつだったな。ディヴァリアは大変そうだ」
「2人とも、心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。聖女の身分は、やっかみを受けることも多いですからね。慣れています」
「わたくしやルミリエも似たようなものですからね。お互い、対処法は心得ているのですよ」
「そうだね。他人の言葉でグラグラしたりはしないよ」
ミナもルミリエも、俺には想像もつかないような苦労をしているのだろうな。
だからこそ、俺がみんなの支えになれれば良い。大切な友達の幸せのために、頑張っていこう。
そして次の日。想像した通りに、とある男が死んだとの情報が流れてきた。
やはりディヴァリアは何があっても敵に回してはならない。あらためて確認できた。だが、それでも俺はディヴァリアの軌道修正を諦めない。
いつかみんなで幸せになるために、悪事は行われないほうが良いんだ。
だから頼む、ディヴァリア。これ以上敵を増やさないでくれ。俺はみんなと、ただ平和な日常を過ごしたいんだ。
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