54話 命を捨てること
これから大規模な戦いが始まる。そろそろ見えそうな位置に敵の部隊がやってきているようだ。
敵の規模から考えて、不意打ちなど無意味に等しいだろうな。どれほどの強さなのか、気になるところだ。
ルミリエの情報によると、十分勝ち目があるとのことだから、強い敵の数は限られているのだろう。
できるだけ犠牲を少なくして勝ちたいものだ。特に、俺の親しい人達を死なせるわけにはいかない。
今から戦う帝国軍を説得しようとするなど、味方の犠牲を増やす愚策でしかない。
だから、素早く大将首を取って降伏させるのが理想かもな。まあ、そこまでうまくはいかないだろうが。
「敵軍には、心奏具を使える人は少ないみたいだね。だから、心奏具使いを狙うのもありかもしれないよ」
心奏具を使えるのならば、重要な戦力として扱われるだろうからな。士気をくじくなら、ルミリエの提案も悪くはなさそうだ。
さて、どうやって戦っていくのがいいだろうな。俺とサクラで遠くから攻撃できるうちに攻撃するつもりではあるが。
敵が近づいてきてからが問題だ。乱戦になると大変だし、どうにかうまくまとまって行動したい。
「サクラ、まずは敵をある程度減らしていこうか。それからも、できるだけ近くで戦おう」
「そうね。あんたのことを守るためにも、近くにいたほうが良いわよね」
「わたしだってリオンさんのそばから離れませんよっ。リオンさんの隣で戦うんですからっ」
「同感ですね。リオン君は危なっかしいですから、しっかり守ってあげないと」
「そろそろ敵が見えてくるから、先制攻撃するのなら準備しておいてね」
ああ、本当に始まるのだな。いい加減、戦いにも疲れてきた。できればこれが最後であってほしいものだ。
とはいえ、俺達が負けて最後になるわけにはいかない。勝って終わりにしたい。
敵が見えてくると同時に、俺とサクラは全力で心奏具での攻撃を仕掛けた。
俺はエンドオブティアーズの剣を伸ばして切り裂き、サクラはソローオブメモリーから上級魔法のレーザーを発射する。
いつもの戦術だが、あまり対策はされていないようで敵はどんどん減っていった。
とはいえ、いくらか防いでいる敵もいる。おそらく心奏具を持っている敵だ。できるだけ見た目を覚えておく。
「ずいぶん楽なものね。ノコノコと突っ込んでくるだけ。このまま終われば良いんだけど」
「流石にそこまで簡単ではないと思うぞ。心奏具を持っているやつは仕留めきれていないからな」
「なら、わたしが切り捨ててあげますねっ。心奏具もろとも真っ二つですっ」
「警戒すべきです。ユリアさんの心奏具では、エンドオブティアーズは切り裂けない。同様の敵がいる可能性も想定すべきかと」
シルクの言うとおりだな。油断して怪我をしたり、ましてや命を失ったりするわけにはいかないのだから。
なぜユリアのホープオブブレイブで俺のエンドオブティアーズを切り裂けないのかは分からない。
だから、同じような敵と出会うことは十分に考えられる。しっかりフォローしてやらないとな。
しばらく距離を保ったまま攻撃を続けていく。その間に敵はまた減っていき、それでも前進を続けてくる。
恐るべき練度だ。ここまで一方的に攻撃にさらされ続けて、逃げ出すこともなく進軍できるのだから。
あまつさえ、隊列はしっかり保たれている様子。よほど指揮官に人望があるのか、元々命を捨てられる人だったのか。
なんにせよ、いま順調だからといって気を抜いていい相手ではないな。俺達よりよほど戦いに慣れている。
「サクラ、油断するなよ。敵の動きはまるで乱れていない。警戒すべき相手だ!」
「ええ。こんなところで死ぬわけにはいかないものね!」
「そろそろわたしの出番になりそうですねっ。しっかり役に立ってみせますっ」
「準備できました。しっかりと守ってみせます。アンガーオブドゥームと、回復魔法で」
そして、敵はチャンバラができそうなくらいまで近くにやってきた。ここからは俺達も攻撃を受ける可能性がある。
しっかりと、気を引き締めていかないとな。気合を入れた俺は、敵のもとへと駆け抜けていく。
「学生にしてはずいぶん強いじゃないか。だが、お前達の快進撃もこれまでだ!」
敵からも反撃されながら、俺は敵の攻撃を盾で受け、スキができた相手から切り捨てていく。
炎や電撃、風の刃などが飛んできて、なんとか盾で後ろを守りながら進む。
シルクもサクラやユリアを守ってくれているようで、俺達はケガせずに敵を攻撃できていた。
「それ以上リオンさんを攻撃なんてさせませんよっ!」
ユリアが炎を撃ってくる敵の心奏具を切り裂いた。すると、敵は追撃も逃げることもせず、突っ立っているだけ。
だから、俺は剣を伸ばしてトドメをさす。ユリアはその間に他の敵の心奏具も切り捨てていった。
心奏具を切られた敵は、どいつもこいつも動くことすらできない様子で、楽に仕留められる。
「ちょうどいいわね。あたしがまとめて!」
サクラは複数の上級魔法を放ち、敵の数を減らそうとする。すると、敵は心奏具をもったやつを体でかばっていく。
本当に恐ろしい敵だ。命を捨ててまで勝つために行動できる。かばわれた心奏具使いは、こちらに衝撃波らしきものを放ってきた。
「攻撃はひとつも通しません!」
シルクの結界で、敵の攻撃は全くこちらに届かない。攻撃の直後でスキが生まれた相手を、剣を伸ばして貫いていく。
今のところは順調だ。心奏具を使える相手も、こちらよりは弱い。なんとかうまく倒せている。
「あの集団を好き勝手させるな! どいつも心奏具使いだ! やっかいだぞ!」
敵の誰かが俺達に攻撃を仕掛けるよう指示しているようだ。面倒だな。とはいえ、当たり前か。
俺達がいちばん敵陣に被害を出しているのだから、ここで俺達を野放しにするなどバカのすることだ。
だが、こんな所でやられるわけにはいかない! みんなを傷つけさせるわけにもな!
「そう簡単にやられると思うなよ!」
俺は全力で攻撃を仕掛けていく。エンドオブティアーズの剣を横に動かし、敵と重なったタイミングで伸ばす。そして、どんどん敵を貫いていく。
剣を伸ばしたまま横から切り捨てるパターンと組み合わせることで、敵は正面と横の両方を警戒しなくてはならない。
そして、敵が俺に注目している間に、サクラが上級魔法を放ち、ユリアが近寄って切り捨てていく。
サクラの上級魔法を防げる敵でも、ユリアには簡単に真っ二つにされていく。どうにも、ユリアの攻撃をつい防ごうとしてしまうようだ。
ハッキリ言って、ユリアの攻撃に対して防御などほとんど意味がない。心奏具ですら、大部分は斬られるのだから。
「調子いいわね! このまま全滅させてやるわ!」
「わたしも続きますよっ! リオンさんの敵はみんな殺しますっ!」
「慌てないでください。私がしっかり守れるように」
勢いよくサクラとユリアが攻めていって、俺とシルクがサポートする。
また一気に敵が減っていって、数えられるほどの数になった。
「そろそろ終わりかしら? しっかりとどめを刺してやるわ!」
「そうですよっ。リオンさんの敵なんて、1人も生かしておけませんっ」
「そうはいくか! もはやこの戦場は敗北しているも同然。だとしても、せめて1人でも道連れにしてくれる! 我が名はアルス! その人生の最後に刻まれる名だ!」
アルスという名はルミリエに聞いた。この部隊を率いている人間だ。だとすると、強いのだろう。
ここからが本番だと言うつもりで、気合を入れていこう。
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