13話 悩みを抱えて
昨日盗賊団の討伐を終えたので、サクラの様子を確認したい。
サクラの発言からするに、もしかしたら人殺しは初めてではないのかもしれない。
とはいえ、精神に負担がかかっている可能性は十分にある。だから、そのあたりをちゃんと見ておきたいのだ。
サクラを探していると、すぐに見つかった。どうだろうか。いつもと同じように見えるが。
だからといって、ここで調査を止めるのはな。まずは話しかけてみてから考えるか。
「サクラ、調子はどうだ? 昨日の今日だから、気になってな」
「まあ、疲れはしたけれど。大丈夫だと思うわ」
「ならいいが。人を殺す感触を思い出してつらいとか、よく聞く話だからな」
サクラは俺の言葉を聞いて肩を落とす。やはり、なにか悩みごとがあったみたいだ。
当然の話だ。動じていない俺がおかしいだけだろう。サクラは優しいからな。俺のために我慢していた可能性もある。
「それが、何ともないの。あたし、人を殺したのよね? なのに、いつも通りに過ごせているのよ? あたしって、人でなしだったの……?」
これは、どちらだろうか。自己防衛的な感覚で実感が無くなっているのか。それとも、本気で人殺しを気にしていないのか。
どちらにせよ、サクラを人でなしだなんて思わない。とはいえ、サクラになんと言葉をかけるのが正解だろうな。
「サクラは俺を守ろうとしてくれただろう? だから、お前がおかしいわけじゃない。お前は優しいやつだよ」
「違うの! あたしはリオンにいいところを見せたかっただけ。頼りになるって思ってほしかっただけ。こんなあたしが、ディヴァリア達と友達で居ていいの……?」
それを言うならば、ディヴァリアなど人の命をなんとも思っていないが。
だから、逆に適正があると言えるかもしれない。まあ、直接サクラに伝えていい言葉とは思えないな。
さて、どうしたものか。間違いなくディヴァリア達は気にしないだろうが。
「ディヴァリア達の心は俺にはわからない。だが、俺はお前と友達で良かったと思っている。きっと、みんなも同じだと思うぞ」
「リオン……信じていいの? あたしをまだ友達だと思ってくれる?」
「当たり前だ。俺にいいところを見せたいと思ってくれているなんて、俺を大切だと思ってくれている証だ。嬉しいだけだぞ」
間違いなく本音だ。サクラの意見は、サクラが俺を友達だと心から思ってくれている証拠でしかない。
それに、ここまで心をさらしてくれているのだからな。嬉しいと思いこそすれ、嫌だとか思う理由などどこにもない。
「リオンはそう思ってくれるのね。こんなあたしを。ありがとう。リオンと友達になれて良かったわ」
「なら嬉しいな。サクラは大切な友達だからな。あんなつまらない事件で距離ができたなら、悲しいだけだった」
「なんだ。リオンもあたしと同じなのね。ちょっと羨ましいな、ディヴァリアが。昔からリオンと一緒だったのよね」
「ディヴァリアから聞いたのか?」
「見てれば分かるわよ。こんなにあたしを大切にしてくれる友達と、もっと早くに出会えていたら。そう思っちゃうのよ」
俺も同じ気持ちだ。サクラともっと早く出会えていたならば。俺はもっと楽しい日々を送れていただろう。
それだけじゃない。サクラは何かを過去に抱えているようだから。その問題を解決してやる事もできたかもしれない。
「そうだな。同感だ。サクラと一緒なら、昔ももっと楽しかっただろう」
「リオンもそう思ってくれるのね。やっぱり、あんたは最高の友達よ」
「俺にとっても、サクラは最高の友達だぞ」
「あんたと隣の席になれたこと、あたしの人生で最大の幸運だったかもしれないわね」
そう言いながら、サクラは花開くように笑う。さっきまでの沈んでいる表情より、明らかに見ていて楽しい。
ただ、サクラの人生ではもっと幸運が訪れるはず。俺と出会ったことなんかよりもっと素晴らしい未来が待っているはず。
だから、その瞬間のサクラの顔が見たい。きっと、今見た顔よりももっときれいだろうから。
「俺にとっても大きな幸運だったな。サクラと出会えて良かった」
「最大じゃないのね。まあ、あんたの一番は分かっているわ。悔しいけど、納得できる」
俺にとっての最大の幸運とはなんだろう。サクラは分かっていると言うが。俺にはよく分からないんだよな。
「……? 本気で良かったと思っていることは確かだな」
「あたしとの出会いを、よね? 嬉しいわ。それは確かなのよ……」
そうか。サクラにとって、俺はきっと初めての友達。だから、俺がディヴァリアたちと仲良くしていることに嫉妬している。おそらく、そういうことだろう。
だとすると、俺からサクラにしてやれることは無いな。一緒にいる時間を増やすことはできるが、根本的な解決にはならない。
「サクラは俺の希望なんだ。きっと、俺の進む道を照らしてくれるだろう」
「リオンはそこまで思ってくれるの? どうしてあたしなんかに……」
サクラは自分を軽んじているように見える。だから少し不安なんだ。俺達を大切に思えば思うほど、俺達のために無理をするんじゃないかと。
だから、サクラを失えば苦しむ人がいるのだと。そう知ってもらえたならば。
「サクラなんか、なんて言われたら気分が良くないぞ。俺の大切な友達なんだから。友達をバカにされて、嬉しいわけがないだろう?」
「そっか。あたしだって、リオンやディヴァリア、みんながバカにされたら嫌だもんね。気をつけるわ」
さて、今の言葉にどれほど効果があっただろう。
サクラがきちんと自分を大切に思えるように。これからも支えていきたいところだな。
俺はサクラが主人公だったから近づいた。それを後悔しそうになるくらい、サクラを大切に思えるんだ。
「さっきはサクラなんかと言うなといったが、愚痴があるのならば聞くぞ。1人で抱え込まなくていいんだ」
「ありがとう。でも、今は大丈夫。あんた達と出会えて、今が本当に幸せなの」
サクラは晴れやかな顔をしている。だから、きっとサクラの言葉は本当だ。ありがたいな。サクラが幸せだというのなら、嬉しい限りだから。
ただ、俺はそんなサクラを戦場に巻き込もうとしている。悔しいな。俺に力があれば、サクラを戦わせなくてすむのに。
「なら良かった。俺はサクラが大好きだからな。幸せで居てほしいものだ」
「はぁ。これが別の意味ならね。でも、ありがとう。あたしもリオンが大好きよ」
別の意味とは、どういうことだろうか。
さすがに、出会ったばかりの相手に恋愛感情を抱いてほしいなどとは思わないだろう。だとすると、いったい何がある?
俺はサクラを信頼しているし、大切な相手だと思っている。それではダメなのだろうか。だとして、いったいどうすればいい?
「こちらこそありがとう。サクラ、これから頑張ろうな」
「ええ。頼りにしておきなさい。あたしはもっともっと強くなるわ」
「俺だって、サクラに置いていかれないように努力するつもりだ」
「置いていくわけないわよ。あたし達は友達なんだからね」
どうだろうか。実力的には、サクラは準最強といった才能だったが。俺はそこまでついていけるだろうか。
もちろん、諦めるつもりは無い。無いが、どうにかできるものなのか?
ディヴァリアに勝てる人間などいるとは思えない。サクラとはそこまで極端な差ではないにしろ、高い壁が待っているような気がする。
「ああ。そうだといいな。ディヴァリアを見ていると、どうしてもな」
「ディヴァリアは確かにすごい人だけど。でも、1人はさびしいに決まってる。だから、絶対に追いついてみせるわ」
サクラの言葉にハッとさせられた。
そうだよな。ディヴァリアだって人間だ。だから、孤独を感じることだってきっとある。そんな時に、隣に誰かが居ることがどれだけ力になるか。
改めて、俺は諦める訳にはいかないな。
「さすがだな、サクラ。せっかくだから、ディヴァリアに会いに行くか」
「そうね。話してたら会いたくなっちゃったわ」
決まりだな。さて、ディヴァリアはどこに居るだろうか。探さないとな。
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