12話 友情と思惑
「
おそらく盗賊団から先生と呼ばれていた人間。そいつは心奏具を使えるようだ。どれくらいの強さだろうか。おそらく2人がかりならば、問題はないだろうが。
「炎の心奏具は最近見たばかりだな」
「ここに俺達の討伐にやってきた愚か者のことか? あいつは身の程知らずだったな」
なるほど。この盗賊団を討伐に来て、この男に敗れたといったところか。
まあ、身の程知らずだというのは同感だ。とはいえ、一応同じ学園の仲間だったのだし、仇くらいは取ってやるか。
その前に、できるだけ言葉で情報を集めておきたいところだ。
「似たような心奏具を使うお前も、似たような強さなんじゃないか?」
「あんなくだらない心奏具と同じにされては困る。俺のソードオブファイアはあいつと違って炎を射出できるのだから」
釣れた。なるほどな。あいつの剣からは炎が発射されるのか。いいことを聞けた。なら、それを前提に戦えばいい。
エンドオブティアーズならば距離をとっても十分戦える。だから、やりようは十分にあるんだ。
そんな事を考えながら俺が剣を構えようとすると、サクラが前に出た。右腕のソローオブメモリーを構えている。
こいつと戦うつもりか? そうだとして、いったいなぜ?
敵の構えを見る限り、サクラでも十分勝てると思うが。というか、遠距離攻撃を徹底すれば何もさせずに勝てるだろう。
だが、なぜかサクラは近接で戦おうとしている様子。
俺の考えていることに思い至らないほど、サクラはバカではない。だから、なにか思惑があるのだろうが。
「あたしに任せてちょうだい。リオン、あたしがどれだけ強いか、しっかり見せてあげるから!」
「お前が俺の相手か。まさか女のほうが来るとはな。だが、そう簡単には負けんぞ!」
そのままサクラは敵のもとへと向かって走る。
俺は念のため、エンドオブティアーズの剣を敵に向けた。サクラが危なくなった時、剣を伸ばして即座に敵を刺し殺せるように。
卑怯だの何だの、そういった事は知ったことではない。俺にとっては、サクラの安全が何より優先すべきことだ。
「さあ、行くわよ!」
サクラはそのままソローオブメモリーで殴りかかる。
敵はソードオブファイアでサクラの拳を受けていた。まずは一撃。お互いの心奏具が弾かれ、互いに体勢を崩す。
すぐに体勢を立て直した敵は、剣から炎をサクラに向けて放つ。
「これでどうだ!」
「そんな遅い攻撃、当たるわけ無いでしょ!」
サクラは相手の炎を難なく避ける。当たり前といえば当たり前か。サクラの言う通りに、敵の放つ炎はとても遅い。
先読みなどせずとも、見てから十分回避が間に合うほど。
これならば、サクラのソローオブメモリーの足元にも及ばない。ただ、だからといってサクラの勝ちが決まったわけではないからな。
少なくとも俺だけは、絶対に気を抜かないようにしないと。
「ならば俺の剣技を見るがいい!」
そう言って敵はサクラに向けて心奏具の剣を振っていく。
ただ、サクラは余裕を持って敵の攻撃に対処できている。剣を避け、拳で打ち払い、時折サクラの方から攻撃を仕掛ける。
今のところ、サクラが優位と言えるだろう。
「大した剣技じゃないわね! もっとうまい剣を知ってるのよ!」
実際、敵の剣技は大したことがない。剣の振りは遅いし、パターンも少ない。それに、フェイントなどをしかけているという様子もない。
とにかく単純な技で、これで先生などと呼ばれていたのが不思議なくらいだ。
そのままサクラは敵を追い詰めていく。敵は負けそうになっていると判断したのか、剣を振りながら炎を放つ。
だが、はっきり言ってうまくないな。単純に剣を振る方向に炎を出しているだけ。
俺が同じ能力を使えたならば、相手の避け方を見ながら誘導するくらいはするぞ。剣を振り下ろして、右に避けたならばそちらに炎を放つくらいのことは。
「なぜだ! なぜ俺の炎が当たらない!」
どう考えても原因はハッキリしているが。下手な剣技と、下手な心奏具の扱い。それらが相まって、単純な動きにしかなっていないからだ。
とはいえ、わざわざ敵に教えてやる義理はない。何事もなく、サクラに倒されてくれ。
「これで、トドメよ!」
サクラが敵のあごに拳を叩き込む。そのまま敵は仰向けに倒れていった。
サクラはこちらを向いてピースサインをしている。だが、敵が剣を握り込む姿が見えた。
なので、即座にエンドオブティアーズの剣を伸ばして刺し殺す。すると、サクラは驚いた様子だった。
「急にどうしたのよ? そんなにトドメを刺したかったの?」
「まだ敵は動ける様子だったからな。現に心奏具を強く握りこんでいた」
「あ……ごめんなさい、リオン。またあんたに助けられちゃったわね」
サクラは沈んだ様子だ。だが、俺は今回の結果を悪くないと考えている。
「気にするなよ。お互い無事だったんだから。次に同じ失敗をしなければいい」
「そっか。ありがとうね、リオン。でも、悔しいわ……」
サクラは本当に気に病んでいるみたいだ。だが、俺はさっき油断してくれてよかったと思う。
もしも、もっと危険な状況でサクラが気を抜いていたならば。サクラはもっと危ない目にあっていただろう。
だから、今のうちに問題を認識してくれて良かったんだ。
「あまり気にするなよ。今回はだいぶ活躍してくれたじゃないか」
「そうかもしれないけど、結局あたしはリオンに助けられてばかりよ」
「俺だってサクラに助けられている。どちらかに不足があれば、相手がおぎなう。それが仲間ってものだろう?」
「あたしはちゃんとあんたの役に立ててる……? あたしはあんたにとって、必要な存在なの……?」
「もちろんだ。お前といると楽しいし、頼りになるし、居てもらわないと困る」
間違いなく俺の本音だ。
もはやサクラが原作の主人公であることなどどうでもいい。いや、そこまでハッキリと言い切れないかもな。
とはいえ、サクラは俺の大切な友達だ。そして、決して失いたくない人の1人。短い付き合いではあるが、もうサクラの居ない毎日など考えられないんだ。
「そう。信じるわ。信じたいわ。だって、リオンのことだから」
「そこまで俺を大切に思ってくれてありがとう。だが、無理に信じることはないぞ。疑われたら悲しいけどな」
「そうね。あたしもあんたに疑われたら悲しいかもね。でも、あたしはもう決めたから」
「そうか。俺はサクラに幸せになってもらいたいんだ。それを忘れないでくれ」
「分かったわ。嬉しいことね。じゃ、そろそろ帰りましょうか」
俺はサクラとともに学園へと帰っていく。今回の事件は大変ではあったが、得るものもあった。総じて、悪い件ではなかったな。
――――――
私は、ディヴァリアは、リオンとサクラに実戦経験を積ませたいと考えていた。
リオンとサクラの仲を深めること。そして心奏共鳴にたどり着いてもらうこと。
それらを目標としていた。リオンがさらなる活躍をできるようにするために。
サクラは私にとっても好ましいと言える人柄。だから、きっとリオンを支えてくれるはず。そう信じて、私自身もサクラと仲良くしようと決めた。
なんとなく、サクラはリオンと似ている気がする。大切な人のために頑張っちゃいそうなところとか、相手をまず大切にしようとするところとか。
だから、きっと本当に仲良くできるはず。
ただ、サクラと話す前に、変な人がリオンに敵対していた。私のリオンをバカにした時点で、その人は殺すと決めていたけれど。あまつさえ、私の行動にまで口出ししてくるのだから。
――人って噂だとしても、信じたいことは信じるみたいなんだ。
そんなリオンの言葉を思い出した。
私は問題の男を始末するために、とある噂を流した。
盗賊団が活動を拡大しており、心を痛めていること。そして、盗賊団を倒したものを、私が近くに置くつもりであること。
真に受けた何人かが、無謀にも盗賊団に挑んで死んでいった。その中には、当然私が狙っていた男もいる。
当然の報いではあったが、せっかくだからもっと利用するつもりだった。
ただ、その前にサクラと仲を深めるつもりで。ミナやシルク、ルミリエも交えて、みんなでサクラとパーティを楽しむ。
サクラはとってもいい子だと思えて、だからみんな気に入っている様子だった。
――友情と打算は両立しうるよ。大切な人だとしても、利益のために利用することはあるんだ。
リオンはそう言っていたよね。私にとっては、サクラが当てはまる相手かな。
サクラのことが気に入っているのは本当。友達だと思っているのも本当。頼ってくれていいって思っているのも本当。
それでも、私はリオンと結婚することがいちばん大切だから。
ごめんね、サクラ。私はあなたを利用するよ。サクラが幸せになるために、力を尽くすつもりはある。
だとしても、リオンとともに苦難に挑んでもらうつもりだから。そのための第一の戦場として、私は盗賊団を利用した。
――恨みのために道理を捻じ曲げる人はいる。そういう人は、自分の手で何かがしたいみたいだよ。
リオンの言葉だ。その言葉通りになったね。
盗賊団に挑んで死んだ、リオンに難癖をつけていた人。その父親は、きっかけとなったリオンを殺したかったみたい。
だから、学園に干渉して、無理難題だと思える盗賊団の討伐を依頼させた。私がその盗賊団を用意していたとも知らずに。
それに、学園は2人なら達成できると踏んでいたみたいなのにね。
結果として、盗賊団の討伐はリオンとサクラにとっていい経験になったみたい。
人を殺す感触にある程度慣れて、2人は距離を縮めて。ついでに、リオンを恨んでいた人の悪事をばらまいてあげた。仲間も財も奪われて、1人で生きていけるのかな?
リオンとサクラはとても仲良くなっている。そして、サクラの心のなかで、リオンはとても大きくなったみたい。
ねえ、サクラ。もしリオンを好きになっても、それはいいよ。
でも、リオンは私のものだから。理解しておいてね。
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