5話 つかの間の憩い
俺はもっと強くなるために、授業以外でもサクラと訓練していた。
サクラとは気軽に話ができるので、訓練にも身が入る。
なんというか、いい意味で遠慮がないんだよな。言うべきだと思ったことをしっかり言ってくれる。
だから、切磋琢磨する上では素晴らしい相手だと言える。なぜなら、俺の欠点をしっかりと理解できるから。
「ところで、サクラの心奏具はどんなものなんだ?」
「使える前提なのね。まあ実際使えるんだけど。見せてあげるわ」
そう言ったサクラは右手を前に出す。
おそらく、右手に握るなりする心奏具なのだろう。サクラが超火力アタッカーだったことは覚えているから、きっと強いはずだ。
「
サクラの右手に鉄製の手袋のようなものが現れる。ソローオブメモリーといったか。殴りつける心奏具なのだろうか。
まあ何でも良い。すぐに分かることだ。
「あたしのソローオブメモリーは、殴ることもできるけれど。本質はそこじゃないわ。上級魔法だって好きに発動できる心奏具なのよ」
それは恐ろしく強いな。
上級魔法。俺が思いつくものでいうと、大爆発を起こすものとか、マグマを降らせるものとか。適当に使っているだけでも、相当な強さを発揮しそうだ。
ただ、制御も相当難しそうだな。味方を巻き込まないだけでも一苦労だろう。
「俺のエンドオブティアーズは、剣と盾の一組。長さや大きさを操れるんだ」
「なかなか便利そうじゃない。あたしのソローオブメモリーほどじゃないにしろね」
サクラの言う通り、実際俺のエンドオブティアーズはサクラのソローオブメモリーほど便利ではないだろう。
とはいえ、俺の心奏具がエンドオブティアーズである以上、持っている手札でどうにかするしかない。
「とりあえず、お互いどの程度のものか見せ合おうじゃないか。訓練ならば、お互いの実力を知りたいだろう?」
「そうね。心奏具を出しなさい。相手をしてあげるわ」
「なら、遠慮なく。
俺も心奏具を展開してサクラと向かいあう。
サクラは早速魔法を撃ってきた。レーザーのようなものだ。流石に当たっただけで大怪我はしないだろうが、必死に避けた。
なんというか、出が早くて反射的にどうにかしないといけない。
ただ、右手の動きでどこを狙っているのかは分かる。なので、一度どういうものか見てしまえば、かわすのは簡単だった。
「このっ、よく避けるわね! 当たりなさいよ!」
「負けてやるわけがないだろう! これならどうだ!」
今のままでは近づける気がしないので、エンドオブティアーズの剣をサクラに向けて勢いよく伸ばす。
すると、サクラは避けるために体勢を崩す。今のうちだ! 全力でサクラに向けて駆け寄っていく。
ただ、剣を振り下ろす前にサクラは姿勢を元通りにしていた。なので、剣をソローオブメモリーで受けられてしまう。
「ちょっと驚いたけど、もう通じないわよ!」
サクラはそう言うが、近づいてしまえば魔法は撃ちづらいだろう。
ならば、全力で攻撃し続けるだけだ。
剣を振り、かわされれば剣の形を変える。サクラは見た目に合わせて剣を避けようとするので、剣の形が変わると戸惑うようだ。
「攻守逆転だな! このまま押し切ってやるぞ!」
「そんな簡単に負けるわけ無いでしょ!」
サクラは俺に向けて火を放つ。おそらく下級魔法だ。それでも、当たれば手痛い。なので、盾で防ぐ。
そのまま空いている右手の剣で攻撃するが、サクラには避けられてしまう。
ただ、これまで剣の形を変えてきた成果として、サクラの避ける動きは大きい。
これならば、魔法を放つだけの余裕を持つことは難しいだろう。
「サクラ、追い詰めたぞ!」
「確かにね。でも、ここで終わりじゃないのよ!」
サクラは拳を振り上げて、俺の剣に殴りかかる。
俺の心奏具とサクラの心奏具がぶつかり合う瞬間、電気が発生した。なるほど。俺を感電させるつもりだったのか。
だが、エンドオブティアーズは鉄ではない。よって、電気を通すこともないんだ。
「残念だったな、サクラ!」
そのまま剣を振り下ろし、サクラに直撃する直前で止める。
サクラは嘆息し、両手を挙げていった。
「なるほどね。心奏具はただの武器じゃない。そこらの剣や盾と同じ様な対策ではダメってわけね」
「そうだな。俺が持っていたのがただの剣なら負けていただろうが。今回は俺の勝ちだ」
「はぁ、悔しいわね。でも、いい勝負ができたわ。これからもよろしくね、リオン」
「ああ、もちろんだ。サクラとならば、いい切磋琢磨ができるだろう」
それだけではない。サクラとならば、おそらくこの世界における最高の技が使える。
今すぐに使えるわけではないだろうが、大きな手札となってくれるはず。
ただ、原作でディヴァリアは心奏共鳴を使わずに最強だったんだよな。
だから、絆が重要な原作で、絆の否定者がコンセプトなのだろうと言われていた。
「いい時間だったわ。またね、リオン」
「ああ、またな」
そのままサクラは去っていく。
暇を持て余した俺は、ディヴァリアを探して話をすることに。すぐにディヴァリアは見つかって、世間話に興じていた。
「有翼連合の件は大変だったな。ディヴァリアはまた名声を上げたんじゃないか?」
「そうかもしれないね。名声を求めているわけでもないけど」
まあ、名声の利用価値は考えているのだろうが。
ディヴァリアならば、うまく名声を扱えるような気がする。おそらく、民衆を扇動することが最も得意なのだろうが。
「聖女様、だもんな。もはやこれ以上だと重荷なくらいじゃないか?」
「ありえるね。だけど、私なら大丈夫。うまくやってみせるから」
実際にディヴァリアならばできるのだろう。天才だとしか思えないからな。
それに、いざとなれば圧倒的な力でどうとでもできる。取れる手段の幅広さが、そのままディヴァリアの強さになっているんだ。
「なにか手伝えることがあったら、言ってくれよ」
「ありがとう。でも、大丈夫。リオンは自分の訓練に集中してね」
確かに、俺はできるだけ力をつけたい。
ただ、ディヴァリアの近くにいないと不安になる。何か悪事を見逃しているのではないか。そんな気がして。
「できることなら、いずれディヴァリアから一本くらい取りたいものだが」
「それは難しいかもね。私、強いから」
実際、ディヴァリアは強いどころではない。その気になったならば、国すらも滅ぼせるのではないかと思えるほどに。
単なる弱い人間でしかない俺としては、嫉妬してしまいそうだが。
ディヴァリアならば、どんな敵でも負けないのだろうな。俺と違って。
「いつか、ディヴァリアと並び立てるくらいに強くなりたいな」
「リオンが隣に立ってくれるなら嬉しい。期待してるね」
ディヴァリアがそう言うと、本当に頑張りたくなってしまう。
いや、今でも努力しているはずなのだが。とはいえ、もっと。
柔らかく惹きつけられそうな笑顔に、つい浮かれてしまいそうになる。俺といるときには冷たい表情が多いから、余計に。周りに人がいるときの笑顔とも、また別種だということもある。
「お前の期待には、応えたいものだな」
「リオンは何度も私の期待に答えてくれた。だから、きっと大丈夫」
いったいどんな期待に応えていたのだろう。
分からないが、ディヴァリアを喜ばせられているのなら、嬉しいと思ってしまう。
ディヴァリアの顔を見ていると、突然よそ行きの顔になった。つまり、誰かが来たということ。
周囲を見回すと、よく分からない男子生徒がいた。
「リオン・ブラッド・アインソフ! 君に聖女のそばはふさわしくない! 君に決闘を申し込む!」
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