ep37 十九淵裡尾菜⑦
糸緒莉と長穂が遠目に見守る中......。
ナゴムは裡尾菜にドキドキしっぱなしだった。
彼の心は完全に裡尾菜に奪われていた。
(本当に綺麗だなぁ......)
裡尾菜は艶っぽい目つきでナゴムを一瞥し、離れていくようにススッと歩きだしたかと思うとすぐにピタッと立ち止まった。
「リオナさん?」
「山田さん。私の本当の姿、見ますか?」
「え?」
肩越しにナゴムを見る裡尾菜はどことなく様子が変化する。
遠目に見ていた糸緒裡がビクッとして反応する。
「あのヒト、まさか......!」
「糸緒莉ちゃん?」
長穂はまだ気づけない。
だが、それがなんなのかはすぐに判明する。
「り、リオナさん?」
ナゴムと糸緒莉たちが見つめる中......裡尾菜の全身を覆うように渦巻く煙幕がボワァァっと立ちこめる。
「!?」
間もなく煙幕がスーッと晴れると、ナゴムは仰天する。
「えっ!?裡尾菜さん??」
そこに現れたのは、狐の耳と尻尾を携えた着物姿の女性の姿。
「これが、私の本当の姿です」
裡尾菜は真っ直ぐナゴムの方を向いて言った。
「私は妖。妖狐の妖なんです」
ナゴムはびっくりして唖然としていた。
予想していたと見える糸緒莉も驚きを隠せない。
「妖かなとは思っていたけど...まさか妖狐だったなんて!」
「う、うつくしい......」
長穂は驚きというより、妖狐・裡尾菜の美しさに吸い込まれるように魅入られていた。
さらに、展望デッキフロアにいた他の客たちも、突如として現れた美しき妖狐に目を奪われる。
「あ、あれって、妖狐?」
「ヤバい。めちゃくちゃイイ......」
「び、美人すぎる......」
「ま、まるでキツネの女神さま......」
「はぁ〜キレイ......」
目どころじゃない。
性別も関係なく皆、妖美なる狐の妖に心まで奪われていた。
「フフフ......」
周囲の視線が集まる中、裡尾菜は何かを思考しながらナゴムを見つめて妖しく微笑んでいた。
(これで仕上げね、山田ナゴムさん。いえ、天狗の山田ナゴムさん......)
そう。実は十九淵裡尾菜は、山田ナゴムの素性を知っていた。
裡尾菜がここで正体を明かしたのも、そのことに端を発する。
いったいどういうことなのだろうか?
ここで時を少しさかのぼろう。
それは裡尾菜がマッチングアプリでナゴムと出会うちょっと前のこと......。
「ん?これは......」
週末に大阪へ出張したついでに、京都の実家に帰った裡尾菜はある物を発見する。
「あ、裡尾菜様。あちらで奥様が...」
「ねえ、これって...」
「あっ!そ、それは...」
「誤魔化さないで」
裡尾菜が手に取ったのは、一室の机の上に置かれていた一枚の写真と何かの書面。
「ハァー。お見合いでしょ?もういいって言ったのに、またお母様が勝手に...」
裡尾菜はウンザリした表情でため息を漏らした。
「し、しかし、それは奥様が裡尾菜お嬢様の身の上を慮るがゆえに...」
着物姿の女中が必死に説明しようするが、
「私じゃない。十九淵家のためでしょ」
裡尾菜が冷ややかな口調でさえぎった。
彼女は写真と書面を机にパサッと投げつけると、独り言のように言い放つ。
「だったら私にも考えがある」
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