ep16 飲み会④

【登場人物】

山田ナゴム・・・主人公。社会人三年目の会社員。正体は天狗のあやかし。

雲ケ畑糸緒莉・・・マッチングアプリで出会った会社員女性。正体は女郎蜘蛛のあやかし。

茂原水希・・・糸緒莉の同僚。眼鏡女子。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 すぐさまナゴムは、糸緒莉の指示どおり同僚にメッセージを送る。


 同僚は、

「ん?山田から?アイツどこにいるんだよ...」

 スマホを開いて中身を見ると......

「はぁ!?山田が気分悪くなった糸緒莉さんを多目的トイレで介抱してるって!?」

 憤然とする。


 直後、今度は糸緒莉が同僚の水希にメッセージを送った。


『ごめん。みんなは先に行って。ナゴムくんがついててくれるから。私はだいじょうぶだから』


 水希がその内容を皆に伝えると、男性陣が沸きたつ。


「山田のヤツめ!糸緒莉さんを......!」

「あのヤロー!幹事のくせに!」


 一方、女性陣の反応はまた異なる。


「しおり、だいじょうぶかなぁ」

「あのコに限ってそういうことは...」

「山田さんに任せてホントに平気なの?」


 飲み会メンバーみんなが判断に迷っているところ、水希が提案するように言う。


「みんなは先に行ってて。私はここに残ってふたりの様子を確認してからいく。もし山田さんが変な考え持っていそうなら、私が制裁しとくから」


 水希の眼鏡が鋭く光った。


「じゃあ、あとはミズキに任せるね」

「糸緒莉さんによろしく言っといてください!」


 彼女の言葉に従った飲み会メンバー達は、順番待ちした下りのエレベーターへ乗りこんでいった。

 その様子を離れた所からこっそりとうかがっていた糸緒莉は、急いでメッセージを送る。


『ナゴムくん!今、みんながエレベーターで降りていくところだわ!今のうちに階段から上がってきて!ミズキだけ残ってるけど、今なら店前の人も混んでるし、あのコの目を盗んで戻って来られる!私はすぐに店のお手洗いに戻るから!』


 それからすぐに、糸緒莉はお手洗い(多目的トイレ)に駆けこんだ。

 しかし、後を追うように水希もお手洗いへ向かっていく。

 このままだとナゴムは、糸緒莉よりも先に水希とはち合わすことになってしまう。


 はたして......。


 数分後。

 多目的トイレのドアが開いた。

 目の前で待っていた水希は困惑する。


「あ、あれ?しおりじゃない?」


 まったくの他人が出てきたからだ。

 いぶかしげにたたずむ水希に、後ろの女性が疑問に思い声をかける。


「つぎ、入らないんですか?」

「あっ!す、すみません!どうぞ!」


 水希はあわててトイレから離れ、店外へ出ていった。


『ちょっとしおり!あなた今どこにいるの!?店のトイレにいないわよね?!?』

 

 即座にメッセージを送った水希。

 彼女からのメッセージを確認した糸緒莉は、ナゴムとともに多目的トイレから出る。


「いい?行くわよ」

「あ、えっと、その」

「なに?」


 糸緒莉はナゴムにもたれかかっていた。

 ナゴムは糸緒莉の女性らしい肉体を腕で感じ、どぎまぎする。


「こ、ここまで演技しないと、ダメですかね...」


「それはそうでしょう?調子悪くなった私をナゴムくんが介抱したっていう設定なんだから」


「もう回復したってことじゃダメかな?これだと今後、別の意味で怪しまれるような......」


「別の意味って?」

「だから男女の...」


「なっ!ヘンなこと言わないで!ヘンタイ!」

「お、俺が間違ってるんすか??」


「そういうこと言うと、なんだか恥ずかしくなってくるじゃない!」

「だから、もう回復したってことで...」


「やるならちゃんと設定どおりにやらないとダメなの!」

「が、ガンコだなぁ」


「ちがう!怪しまれたら元も子もないって言ってんの!」

「だからこれだと別の意味で...」


「正体がバレるよりはマシよ!ナゴムくんもそうでしょ!」

「ま、まあ」


 糸緒莉に説き伏せられる恰好で、ナゴムは戸惑いながらも彼女の指示どおり彼女の肩を抱いて店を出ていった。

 その道中、

(イイ匂いがする......)

 至近距離で〔しおり〕を感じながら、彼は悟られぬよう胸のドキドキをひた隠した。

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