ep11 復帰
【登場人物】
山田ナゴム・・・主人公。社会人三年目の会社員。正体は天狗のあやかし。
雲ケ畑糸緒莉・・・マッチングアプリで出会った会社員女性。正体は女郎蜘蛛のあやかし。
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場面は週明けに戻り......。
月曜日の昼。
「ええ?ダメだった?」
「はい。ダメでした......」
「まっ、こればっかりはしょーがないよな」
「ですねぇ」
社内の休憩スペースで休んでいた山田ナゴムに、まさに彼をマッチングアプリに引きこんだ張本人である先輩が声をかけていた。
「それで次は?」
「つぎ、というのは?」
「次のコだよ、次のコ」
「つぎのコですか?」
「なんだ?もうアプリやめちゃったの?」
「いえ、やめてはないっすけど」
「じゃあなんで次にいかないんだ?」
「まだ切り替え中っていうか...」
「おそい。おそいぞ山田!それでもおまえはマーケティング業界に身を置く人間か!」
「えええ??」
ツンツンした短髪に、いかにも営業らしい自信ありげな目を光らせた先輩が、ナゴムに喝を入れる。
「いいか?利益を上げ続けるには、目の前の顧客を追っているだけではダメだ!
つねに複数の明確層と顕在層にリーチしながら、同時に潜在層や準潜在層から新規顧客を掘り出しつつ顧客育成も行い、さらに...」
「ちょちょちょっと待ってください!これ、マッチングアプリのハナシですよね!?」
「もちろんだ!なぜなら、マッチングアプリとは、いわば恋愛マーケティングだからだ!」
「で、でも、ヘタしたらただの節操ナシのクズヤローになっちゃいませんか?」
「それはちがう。ちがうぞ山田ぁ!」
「えええ??」
「これは己の欲望のために行うものではない。お客様に喜んでもらうために行うものなんだ!むしろ社会貢献だ!」
「お客様ってなんすか!?いや、それよりなんの社会貢献っすか!?」
「少子化対策だ!」
「あ、あああ......」
「それはともかくとして......ダメもとでもっと気楽にやってみれば?
べつにアプリの出会いにこだわる必要もないしヤメたきゃヤメりゃあいいけどな。
あっ、そうそう。午後の〇〇社の件なんだが...」
「き、急に仕事のハナシっすか」
「山田。これが切り替えだ!」
ナゴムは先輩に、
(俺って、先輩にノセられてマッチングアプリやって、いいようにからかわれているだけなのでは?)
と思った。
一方で、彼はこうも思う。
(でも確かに......もっと肩の力を抜いて、気楽にやってみようかな。
うまくはいかなかったけど、ここ十数日間の糸緒莉さんとのやりとりは本当に楽しかったわけだし。食事デート自体も楽しかったわけだし。
......よしっ。もっと気楽に楽しんでやってみるか!......あれ?結局また先輩にいいようにノセられてるんじゃないか俺!?」
一週間後......。
会社帰りの電車の中、山田ナゴムは、吊り革につかまりながら実に楽しそうにスマホをいじっている。
(なんか、すごくイイ感じな気がするぞ?気楽にやっているのがいいのかも?)
彼はマッチングアプリに復帰していた。
先週、先輩に言葉をかけられた日の夜からである。
(写真を見た感じの〔ながほ〕さんは大人しそうだけど、実際はどうなのかなぁ?メッセージはすごく丁寧でマジメな印象。
うーん、会ってみたいぞ。
そうだな......よし。難しいこと考えず、気楽に誘ってみよう。ダメならダメで仕方ない!その時はその時だ!)
山田ナゴムは〔ながほ〕にデートのお誘いメッセージを送った。
夜の九時を過ぎると......。
部屋でゆっくりしていたナゴムのもとに
「ティロリン」
スマホの通知音が鳴る。
(さっそく〔ながほ〕から来たかな?)
彼は期待に胸ふくらませて、テーブルの上に手をのばし、スマホを手にとると...
「えっ?糸緒莉さん?」
意外な人物からの連絡に一驚する。
「なんの用事だろ?ま、まさか先週の事故がらみの何か?」
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