手が生えた

おくとりょう

また生えた

 今日は土曜日。夏に備えて、私は家庭菜園の土を耕していた。

 去年はトマトとナスを育てたので、今年は違うモノにしようか。エダマメなんていいかもしれない。根っこの菌、根粒菌が土を肥えさせてくれるらしい。それなら、冬にブロッコリーを育てるのにも都合がいい。ブロッコリーは"大食らい"だからなぁ。

 ワクワクしながら、黒い土をほがしていると、ちらっと見慣れない白い色が見えた。……まだ何も植えてない場所なのに。

 ドキドキしながら手を伸ばす。ふかふかの土に手を差し込む。冷たくツルツルした何かに当たった。そぉーっと土を掘り起こす。


 それは手だった。

 まるで発芽するみたいに土から飛び出た真っ白な手。生気の無い白い肌に土の黒がよく映える。私は再び土を被せた。どうせ、すぐに枯れてしまうから。

 何故だか私の畑にはよく手が生える。理由は知らない。そもそも、これが手なのかすら分からない。何かを求めるみたいに、天に向かって伸びる手は手首まで伸びると、すぐ枯れてしまう。ちゃんと水をあげても、どんな肥料をあげても一緒だった。

 今もいくつか生えているのだけど、きっとこれも全部枯れると思う。パッと開いた白い手はお花みたいで私は結構好きなのに。

一週間もすれば、いつの間にかみんな消えてしまうのだ。ぎゅっと何かを掴むように、握り締めるようにしぼんだあとに、跡形もなく消えてしまう。土の上に小さな窪みだけ残して。

 あーぁ、枯れたものが植物みたいに残ればいいのに。本物の手のように腐った匂いがしないのはいいのだけれど。

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手が生えた おくとりょう @n8osoeuta

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