星南家の守りびと【短編】

Choco

 鈴の音が涼やかに響き渡る漆黒しっこくの闇の中。

 

 孔雀くじゃくのような鳥が一羽、悲しみであふれたのどしぼって鳴いている。

 片翼のみを大きく開き、天を仰ぐその姿は鳳凰ほうおうのように神々しい。


「必ずや、我のもとへ───」



 *

 *

 *



 縁側えんがわにて、秋風が二人の前髪を、ふわりとさらっていく。少し離れたところで、蚊取り線香の白い煙を薄っすらとくゆらせている。自分同様、藍色あいいろの浴衣姿でトコトコとやって来た奏人かなとを抱えるようにしてひざの上に乗せると、雄一郎ゆういちろうは夜空に浮かぶ満月を見遣みやった。

「今夜は、うちのご先祖さまの話をしてやるかの」

「ご先祖さまの?」

「そうだ。うちの先祖に、星南武一郎ほしなぶいちろうという人がおってな」

 興味津々の奏人を横目に、雄一郎は楽し気に語り始める。

 今から千年ほど昔。陰陽師おんみょうじやら、呪禁師じゅごんしやらが大活躍していた時代があった。

 平安の世。天皇を助けたり、陰陽五行思想いんようごぎょうしそうという考えをもとにした陰陽道おんみょうどうによってうらなったり、あやかしなどから人々を救ったと言われている。一種の、神職というもの。

 武一郎は、陰陽師を守り剣を振るっていた武士の一人であった。

「ねぇ、おじいちゃん」

「なんだ?」

「その人たちって、強いの?」

「おう、そりゃあもうな。いろんな呪文を唱えてだな、その時代の天皇や人々を悪い妖怪や災害から守ったとされておる」

「魔法も使えるんだね! すげえ」

「それにな、うちのご先祖様も、神様の声とも言われとる鈴の音によって導かれた仲間と共に、妖怪の王をやっつけちまったらしいぞ」

「え、マジで?!」

 雄一郎が、父からその話を聞いたのも、奏人と同じ7歳の頃。剣道に慣れ親しんでいた雄一郎にとって、これほどわくわくする話は他に無く、いつ現代に存在する陰陽師たちと共に戦ってもいいように、ひたすら剣の道を邁進まいしんしてきた。

 昔話もいいが、星南家に代々伝わる陰陽師との物語を奏人にも話して聞かせることで、自分のようにより剣の道を極めて欲しい。という、想いもある。

 予想以上に奏人が食いついてきたことで、雄一郎は幼少を思い出しながら物思いにふけった。

「もしも、この現代に悪い妖怪どもがよみがえったら、奏人はどうする?」

「もちろん、俺がやっつけてやる!」

「そうかそうか。そりゃあ、心強いのう」

 チリーンと、涼やかな鈴の音が響き渡る。外し忘れた風鈴かと思いきや、どこか寂し気な音色に二人は一瞬、顔を見合わせた。

 それは繰り返される度に、より不気味に高く大きくなっていき────

「うわあぁぁぁ!! なっ……え?」

 薄暗い部屋に、カーテンの隙間から微かな光が差し込んでいる。ここが自分の部屋であり、ベッドの上であることを確認すると、奏人は額の汗を片手で拭いながら長い息を吐きだした。

「ガキの頃の夢って。つーか、ビビりすぎだろ……だっせえ……」


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