第28話





 ルシフェルの部下が出ていき、神父が飲み物や食べ物を出すためいったん下がった。どうやら二階に応接室があるらしくそこに向かう二人。


「火天になっても、変わらんなアスラ」


 とルシフェルが階段を上がりながらアスラの背中に向かっていう。彼女はそう言いながら自身の右側の仮面の口に近い場所を少し擦る。

 応接室は二階のアスラが寝泊まりしているちょうど部屋の横。

 こちらもまた豪華なものではない。だいたいの客人は礼拝堂などで終わらせるためか簡易なテーブルと椅子のみ。後半分は箱で埋め尽くされていて物置も兼用しているようだった。

 その窓から孤児院の子供が遊んでいる所を窓から見つつ話す。


「そうかぁ……? つっても、ルシとは最近会ったばっかだし。そりゃ、そんなさっさと人間変わんねぇって! 第一、俺変わる気しねぇな」

「まあ、それがいいのだがな」

「……そうか?」

「ああ、アルフェルドは置いといて。レイラは真面目過ぎる。

 僕の酒とか飯の誘いには乗らなくなった…いや、時間がないみたいだった。

 第二部隊隊長になってから、部隊内で派閥が分かれているからどうにかしてまとめたいようだった。だから僕と会う時間も彼らと食事して距離詰めていってるようだ。

 その一部はサークルを作って水の使い手達と集まって傷を舐めあってるって感じらしい。……まあ、今はもうまとめ上げたと聞いたから流石と言ったところか。

 あの部隊は枢機卿も熱をいれて鍛えているらしいからな。……そのサークルの名前は失念してしまったが」

 

 と、アスラとルシフェルと過去にパーティメンバーとして共に戦った、レイラとアルフェルドという人物の今を伝えるルシフェル。

 ギルド時代。

 アスラはちょうど騎士団に入る直近の頃。討伐任務に執着していて彼らと一緒に騎士団に入った。座学までは一緒だったが、それ以降紫蘭にばかり師事していたため、ルシフェル以外の現状が一切わからなかった。


「……うーーん。

 あいつの部隊水の使いが主だしな……師匠いるし向上心?っての? ま、もっと上位に上がりたい奴らが多い騎士団ならそりゃサークル作る気持ちはわかるなぁ」


 と、師匠である紫蘭が水の席にいる限り、絶対四天王に入れないだろう元パーティーメンバーを想う。

 特にレイラという紫蘭のように表面上はクールだが中身が野心家でアスラのようにイケイケで、戦うなら前衛を選ぶ人物に関しての話が盛り上がっていた。


「ししょー……紫蘭様と多分戦ったことあるんじゃね? レイラ」 

「確かにレイラ自身何も言わないからこそ……あり得る」

「今度聞いてみるわ、ししょーに」

 

 二人が旧友を想っているとノックがして、「お待たせしました」と神父。

 紅茶を注いで渡す。神父は邪魔しないようにと応接室を出た。

 それを区切りに、


「……この話は追々な」


 とルシフェル。

 神父が注いだ紅茶をふーふーして飲むルシフェル。アスラはそれを一気飲みしていく。


「……で? 魔石が見つかったって?」


 テーブルに肘をついて身を乗り出すようにアスラが切り出す。


「ああ、しかも粉末の。

 今その船、コンテナはもう取り締まっているから大丈夫だ。その時、少し戦闘があったみたいだが魔石は使っていない魔法使いたちだったらしい。

 …………しかし。一体彼らは教会の聖騎士団がどうやって魔力を得たのか?

 どうやって人間を逸脱した存在になれたのか? どこで知ったのか?」


 と途中から自問自答するようにルシフェルが仮面を触る。


「さあ、」とアスラが返した。続けて、「それより、聖騎士って大体人間の時魔石に触れて使ってってさあ……。適性、慣れがあったわけじゃん?

 一応テストとかは受けたじゃん?

 そいつらはどうかねぇ?」

「さあ? 我が騎士団の研究部も昔はエグかっただろうし、他者の事は言えんな」

 

 暗に人体実験の予測を立てる。今は志願制だが戦争が活発でまだ魔族がいたとされる時代。孤児などを集めて『天人』を作っていたことがあった。魔石の発見や人類の探究心は凄まじいものだったという。最たるものは『聖女様』の件。

 これは座学では美化されて教えられ、当時皆心の中で失笑した思い出があった。


 そのことと師匠を思い出しアスラは「ま、まあな」と賛同しつつ、


(ルシフェル意外とこの辺冷静なんだよなぁ。

 俺みたいにパーティ時代は前衛一緒に猪突猛進してたのになー

 それは今も変わんないのかな?

 俺もだけど、魔石抜きで魔法使えるようになった分頭おかしい所もあるけど……? これは副作用的なやつっていってたな。ししょーだっけ?

 

 そうだとしても、頼りなるぜ〜)


 アスラは頼る気満々。既に二、三日近く燃焼しきっていて、何をしてアスラが怠惰なのかは不明なルシフェルから見ても彼が頼りにできないのを、


「アスラ……おまえは、怠惰が過ぎるな。昔はもっと…………、いや。仕方ないか。お互い」

 

 と、叱咤はせずアスラの思っていたことをルシフェルが伝えてきた。それに「へへっ」と笑う。

 アスラは追加された紅茶を含む、同時に外から獣の雄叫びが聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る