第18話




「ここ、大丈夫らしいっす!」

 

 嬉々としてアスラが先行して歩いていく。

 教会に迷惑がかかるからと神父からあらかじめ聞いたようでその建物から離れて、丘の下。

 教会へ来た道とは逆に降っていく。

 街のちょうど裏側。

 雑木林が立ち並んでいるが、陰鬱な印象はなく、もし晴れていたらピクニックでもできる様なところ。今は雪が積もり白樺。海外沿いは椰子の木の低く胴の太いものが植えられていた。

 今は雪灯りに照らされ、良い雰囲気を醸し出していた。しかし、晴れの日も視界はきっと良好で、木漏れ日が綺麗だろうと言うようなところ。

 

 それを両手に見てから開けた場に辿り着く。

 周りにはまた異なった木々が今は雪に身を包み立ち並ぶ。ここは手入れされているようで裏とはいえ内陸や海水浴などで有名な隣街からも近く、歩いて来る者がここを利用しているらしい。大きな関所や魔物の壁はないのはそこまで強い魔物がいないことが窺え、普段治安が良いのが見てとれた。

 ここは裏手だがこの街の入り口も兼ねているようだった。

 

 この広場の奥の方には長屋があった。

 普段は狩人やギルド員達の休憩所や旅人たちが集まって子供たちに話を聞かせてあげたり、魔石などの使い方を教えてくれたりしていた。それと同時に行商人やサーカス団といった催しもできる広場。

 そういう憩いの場とは知らず、戦闘の場にしようとするアスラ。


 今は粉雪の降り、しかし所々晴れ間も見えていた。

 灰と橙と紫の逢魔時トライアド

 人気ひとけはなく、二人きり。

 

 ━━これがミゼーアと共に散策しているのであれば、共に一晩空や景色でも堪能するのだが、……いかんせんこいつと二人きりだからな。

 

 さっさと終わらせよう。

 明日からまたミゼーアと…! 明日はどう話をすれば良いか……久々の再会すぎて、わからんな。

 どうしようか。

 

 アスラが「よしっ」と、合図を送るため振り返ったと同時に、

「さっさと終わらせよう」

 

 と、急に殴りかかる紫蘭。

「ええぇぇえ⁉︎」と、アスラが驚き寸でかわす。

 髪が触れるくらいギリギリで。

 しかし後からくる氷の礫に目を瞑る。

 

「ゔぁ……!! ちょ……、ひきょーーすよ!!?」

 目を擦り後ろに退けるアスラ。

 師匠が勝手気儘なことを訴えた。

 そんな事よりも明日のソフィーの件がウキウキな紫蘭は己がどうこう言われようが気にしていない。

 

「さっさと終わらせるぞ。俺は明日予定がある」

 

 と、足元を凍らせ飛ぶように間合いを詰める。

 まるで獲物を捉え、降下する猛禽類の様。

 また殴りにかかる。

 今度はその拳さえも凍らせて。

 それをアスラは右に左に避けていく。

 少し氷の飛び散るのを竜から聞いた、熱波のバリアを意識して使い、肌に触れる前に溶かす。氷が飛び散るよりマシのようで、アスラはそのまま来る攻撃を交わしていく。

 舞う六花。

 そよぐ炎燼。

 

 ━━ってか接近戦かよ!! ……まあ、いいけど。

 この人も中々脳筋だよな。

 それに意外と動けるよな〜昔はその場に立ったまま敵を打ち倒す強者タイプかと思ったもん。


 ……また、殴り来るか。

 ホントは氷を解かしてとか竜に教わったやつとか応用して考えてたやつ作戦したかった……まあ楽しいからいいケド。

 

 と、紫蘭が再度殴りかかろうとしたので構える。

 しかし、殴る気配は無く、氷霰こおりあられが降りかかる。

 それに反射的に目を瞑る。


「……うぷっ」

 

 来たのはただただ寒さ。

 冷たさ。

 と、思っていたら指がが動かせず「!?」となるアスラ。

 足は先程降りかかった霰とともに出したのか、霙がまるで火を出さないよう足から冷やされていた。

 紫蘭が悠々と歩き、露出した肩から氷剣を出す。

 

「……やば」

 

 急いでそれを溶かそうと火を焚べる。

 しかし、空気も氷点下。手も凍りつき上手く熾せない。

 

「判断ミスかな?」と煽り、取り出していた刀で袈裟切をしてきた。

 

「うわおおおっ……ととと!! あっぶないっすよ!!」

 

 一振り目をどうにか躱すアスラ。ようやくお湯の感覚が伝わってきて、溶けているのがわかった。アスラはバレないようにこっそり後ろに手をやる。


「殺す気で来てます!?」

 

 ちょっと嬉しそうにする。

 そう言いながらアスラは、後ろにステップして避けていくも、積雪に足を取られそうになる。それに加え紫蘭がアスラの行く方向にある雪をかさ増ししていく。

 

「も、もーー、そのゆっくり歩いてくるの無しっす! 怖いから!!」

 

 と、ある程度距離をとりつつアスラは拘束された手を自らの炎で溶かしていく。それに気づかず紫蘭は一気に間合いを詰める。

 その詰め方に一瞬白銀の鳳凰に見えて、過去の情景を思い出しアスラは背筋が凍った。しかし後ろで完全に解けたことにホッとして、今一度冰刄を振るう紫蘭に立ち向かう。


「でーとの予定があるからな」


 攻撃する紫蘭のそれを白刃取り。

 目を見開く紫蘭に「へへっ」と嬉しそうなアスラ。

 手の残りの氷を投げ捨て、足の方も燠火おきびした足を振って銷雪しょうせつす。そして嬉しそうに火力全開にする。

 

「今度はこっちの番っすよ」

 

 と拳を地に突き、拳部分のみ少し爆破して四方に紫焔を放射する。

 波打つ火炎。

 雪を溶かし、自分好みの動き回れるフィールドとしてつくっていく。


 周辺の雪が急速に蒸発して水蒸気になっていく。

 その雪霧に身を隠しながらアスラが突撃。

 紫蘭は無表情の顔を少し歪ませ、


 ━━乗り気にしてしまった。

 長引かないと良いが……。


 と後悔しながら距離をとり、再び一瞬だけ鳳になり、翼を広げる。威嚇するように冷風を凪ぎ、熱波と赤紫の焱炎とするのを防ぐ。

 白霧が立ち込め、視界が悪くなるもお互い譲る気配はない。

 そして紫蘭は肩から。アスラはその辺の燃えた地の火から。再び剣を取る。

 アスラが飛び、剣を交える。


 火と氷。

 氷に白旗が上がるも紫蘭はその過剰な魔力で補えることができていた。

 過去。アスラの魔力や魔石による攻撃で想定外の場合をのぞいて幾度も防げていた。

 

 片方が剣を振ると氷で薙ぎ払う。

 溶けて出た水で少し炎を弱らせる。

 だんだん蒸気で周りが見えなくなるも、それを繰り返す。

 紫蘭は時折周りの炎を繰り出した霙によってかき消し、アスラのようにその蒸発した霧に身を隠す。

 

 炎よりも手数多く氷を打ち出し、周りの気温や残雪も相まってとうとう消火しきった紫蘭。


「はあ……はぁ、ははっ」

 

 と、汗と溶け出た水でびちゃびちゃなアスラ。

 しかしその眼はぎらぎらと光っていた。


(もう終わりだな……。

 爆散より、常に炎を出力する方が、魔力の消費が激しいようだな。魔石に頼る方法も教えるか。それなら俺がやめても問題ないだろう。

 ……コイツに伝えたら、更に燃え上がりそうだ。いや。元々魔石の扱いは長けているだろうしすぐ習得されて飽くことがなくなりそうだな。それならそれをさせた方が俺が楽だな)


 そう紫蘭が思っていると「まだまだぁ!!!!」と髪の赤紫のメッシュと同じ色の豪炎を轟かせた。

 

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