第2話
元気良く両扉を全開にして帰還を伝える彼に紫蘭は侮蔑を送る。心なしか一つ目の猫も睨んでいる様に見えた。
「? どうしたすか?」
その一人と一匹の行動を察してか、ニヤニヤしながら赤紫メッシュが特徴の騎士が聞く。
同時に、入ってきたドアの横の壁。
そこのスイッチについている紅の宝石に触れる。
部屋がじんわりと暖かくなっていくのをなんとなく感じながら、
「もしかして、俺の名前忘れた……とか?」
と捲し立てる。
「うるさいぞ。アスラ」と、紫蘭。
肘をつき頬杖。
苛立ちを態度だけで伝える。
ただし猫のようなモノを撫でる手は優しいようで、気持ち良さそうにしていた。
「お!」と、反応を嬉しがる騎士。実は師匠である紫蘭が来た事も嬉しかった弟子。
アスラと言われた彼。
島国━━火竜の国という竜が治める島の出身で元はギルドで一人、または仲間たちと共に依頼を受けていた男。
紫蘭が何故入ったのかと聞いた時。
「もっと強くなれそうだから。見えなかった世界見れそうだから」とか言う軽い気持ちでアスラは騎士団に入っていた。
島で見た景色。ギルドに所属していた時。そして騎士団。力はもちろん、地位も違ってくるのだろうなと、初対面時紫蘭も思っていた。しかし初対面で戦う事になるとは思っていなかった。
普段はミゼーアという妻以外歯牙にも掛けない紫蘭が何となく思い返しているとアスラが犬が尻尾を振る様に、
「いやいや師匠のおかげで俺、ここ入れるから〜」「またお手合わせしてくださいネ」「てっきりまた蘇生後だから喋れないとかだと思ったっす……」
と、アスラが立て続けに語る。
━━うるさい男だ。
先ほどみたいにキッチリして居れば良いものを
まあ、俺がこれだし、指摘する気もないが
と、紫蘭が思いながら「さっさと席に着いたらどうだ」と顎でアスラに着席を促す。
とはいえ、紫蘭の座っているその横の今は一つ目の猫が寝ている水の席。
それ以外の火土風。
どれも空席。
魔法の力が込められた宝石━━魔石を付与された道具を持ってでしか人間は魔法を行使できない。
魔石を得るには魔物を狩らねばならない。
それは有限。尚且つ命懸け。
乱獲、不正売買等見受けられた。
今はまた魔物家畜化や化石化した魔物から採掘しようと一攫千金を求める者達もいた。
先にアスラが触れた紅の宝石も、暖房を兼ねている魔石。
それを制御監視するため
更に彼らを統括する火土風水の魔石を基礎としていた為四天王がその者たちの上にいた。
その席の事を紫蘭は言っており、その四天王にアスラが選ばれた。しかし、
「……まあ、二人きりっすね。
あと、一匹?」
嬉しいすか? と、嬉しそうにする。そして、その内の火の席に座るアスラ。
整えていた髪も解きわしゃわしゃしていつも通りに。
「きしょくわる……」と紫蘭。
「まあまあ弟子が、火の席に着いたんだからー
ちょっとは嬉しがってくださいよー」
と、駄々をこねる。
彼の言う通り、数十年前。
紫蘭の下で弟子として働いていた。
アスラが戦い慣れていない頃。
紫蘭が身代わりに何度か死にまくって「あ、あ」としか喋れなかったり、体内に取り込んだ炎の力を上手く制御出来ず、大体紫蘭の氷に守られた事も多々。
「ね、感極まるっすよね」と、目を
先程の紫蘭のように少し走馬灯を。過去を振り返っていたようでアスラが鼻を噛む。
「どうせ何も考えてないだろう」と紫蘭が呟きながらも、
「あれからどうだった?」
と、しばらく会っていなかった為ちゃんと近況を聞いてあげた。
式典も彼が席に加わる為のもの。
一応どこに座る事になるかも近況とかも何となく話は聞いてはいたが適当に話をするため話題を振ってあげた。
「大丈夫す。ご存じですよね?
候補の者……まあ元俺とパーティメンバーしてたヤツと決闘して勝ちましたよ」
と、アスラ。
前述の通り人は魔法を使えない。
彼ら天人がそれ無しでそれぞれの属性の魔法が使えるのは適合した魔石の粉末を服用しているから。
人によっては魔物のその肉を常食している者もいた。
もっと昔は如何わしい人体実験があったらしいが、今は立候補制。
ただし人によって反応が異なり、死ぬことも多々。晴れて魔力を得ても途中で命を落とすこともあり色んな意味で奇跡的にも魔力を得て天人に。
そう言う事で師弟以降の事はもちろんアスラの体調面を含め紫蘭は質問してみたが、すぐ返された。
「まー紫蘭様が、彼女サン以外に興味出てるのも珍しいですね。ここに来るとは思わなかったっす。
やっぱ弟子の晴れ舞台拝みに来てくれたんすね!」
「ふ、残念だが、どうでも良い。
ただの時間潰しだ。
それより、他の者は?」
と、「もー、またまたぁ」と言うアスラを無視して紫蘭は扉を見る。
まだ他の席。
風、土を司る者は来ない。
「遅い」と、呟く。アスラが、
「いや俺だけスよ……
他はいませんでしたね。
俺と対戦した人も元同僚みたいなもんだったし、
もしあいつが土とか風の空席いたら違ったんすよねえ。
ま、同じ火が得意だからどうっすかね?」
どこか遠い目をして答えた。
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