竜の魔力使い

日進月歩

第1話 竜の気まぐれ

「運搬を急げ!!」

石レンガで築かれた城壁の上から鎧を纏った男が叫んだ。城壁の上では他にも多くの人々が内側から運ばれてきた荷物を受け取っていた。城壁の上からは草原を踏み荒らし、砂埃を立てながら進んで来るモンスターの群れが見える。城壁の外側では魔法使いが地面に堀を造り、魔術師がトラップを設置。同じように戦士らが木材で障害物を作っていた。

「魔法使いと魔術師は作業が終わり次第城壁に登り、スタンピートに備えろ!」

「おいそこ木の固定が甘いぞもっとしっかり縛れ!」

「ポーションだ、登ってきた魔法使いたちに配ってあげて」

「手が空いたやつは軽く食事を摂ってください!」

「弾薬を運べ!銃が使えるやつは最後の点検をしろ!」

「騎士団は城壁に近づいたモンスターを優先して倒すんだ」

「いざとなったら女子供は逃げるんだ。急ぐぞ」

大勢が街を守るためにギルドを中心に準備をしていた。そんな中人混みをかき分け1人の男が周りを見渡す。物資の管理責任者らしきがたいのいい男に声をかけた。

「すみません、俺の頭ぐらいの大きさで桃色のドラゴンを見ませんでしたか?」

その顔には焦りが見える。

「悪いが今みんな忙しいんだ。君も手伝ってくれ」

そう言われ、荷物を渡された。そして城壁の上に運ぶように言われた。男は後ろにいた女と話し始め、再び声をかけても軽くあしらわれてしまった。

「見たか見てないかぐらい教えてよ...」

そう愚痴を言いながら渋々と急ぎ足で城壁に登る。最後の一段に足をかけた時、

「おい、あそこにいるのは誰だ!?」

誰かが叫んだ。声は波のように段々と広がってゆき、城壁の上と外側の視線はその一点に集中した。男も視線をそちらに向ける。

「あれもしかして...いや絶対そうじゃん...」

荷物を置いて頭を抱える。彼らの視線の先には布で全身を覆った人物が立つ。背はそれほど高くない。そこは城壁や堀、トラップ、障害物よりモンスターの群れに近い。視線の先に立っていた人物はそれらを鬱陶しく思いながらも無視する。自分に向かって走ってくるモンスターの群れを見た。そしてそれに向かって右手を突き出した。

「《ドラゴン・ブレス》」

手のひらから光が飛び出した。光は拡散しながらモンスターに向かって突き進み、彼らを焼き尽くした。余波で砂が舞い、木で造られた障害物は崩れた。かろうじて射線上にいなかったモンスターたちは散りじりとなって走り出した。そして光が収まった頃にはその場には誰も居なくなっていた。ギルドに残された仕事は残りのモンスターの討伐と光線の余波で城壁から落ちた負傷者の治療だけだった。その日の夜は宴会だった。街には生き残ったことを喜ぶ声と変な人物に感謝する声で溢れていた。余った木材で作られた屋台で1人の少年がアイスクリームを買った。そして嬉しそうに振り向いた瞬間そこにいた桃色髪の女にアイスをぶつけてしまった。

「ご、ごめんなさい...」

今にも泣き出しそうな少年。女は一度少年を見た後、服についたアイスクリームに手をかざす。するとアイスクリームが服から全て剥がれ、空中で一つにまとまった。そして女が手を振るとそれは地面へと緩やかに飛んでいった。それを見ていた少年の目に涙はなく、興味津々といったように輝いていた。

「なあ少年。わざとじゃないんだろう?」

彼女が尋ねると肯定の意味で勢いよく頭を振った。満足そうに笑うと彼女はアイスクリームを買い、彼に差し出した。

「少年、今日の私は気分がいい。ありがたく受け取りなさい」

「あ、ありがとう!」

そう言って駆け出した少年を優しく笑いながら見送った。そしてその反対から勢いよく歩いてきた男に後ろ襟を掴まれた。

「やっと見つけました、マスター!どういうつもりなんですか!!」

「やあバルバロス」

大剣を担いで走り、汗は着いた顔が怒りで真っ赤なバルバロスに向かって心底楽しそうに笑いかけた。

「仕事の時間だ」

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