第28話 合法ロリ小学生VSちょっとせこい女性教師。宿題を賭けたバトルが今ここに!?

「待って、みんな。清水ちゃんは悪くないよ」


 クレアだった。いうに事欠いて問題を引き起こしたクレア自身が清水先生を庇っている。


「この……なにをぬけぬけと……悪いのはクレアさんでしょう」

「そうだよ、清水ちゃん。悪いのは私。だから私の名誉を挽回するためにひとつ勝負しない?」

「勝負って……何よ、この展開……」

「ルールは簡単。清水ちゃんが問題を出して私がそれを解ければ私の勝ち、解けなかったら私の負け。私が負けたら、私はもう授業中に居眠りはしないし、清水ちゃんの言うこともちゃんと聞くよ」

「そんなことしなくても私の言うことを聞いてほしいんだけど……ちなみにクレアさんが勝った場合はどうなるの?」

「今日の宿題がなしになる」

 クレアがそう言った瞬間、教室の空気が変わった。

 はっと息を呑む気配や、おお……と思わず声を漏らす者。今日の宿題がないってことは……土日も楽できるじゃん、と色めき立つお調子者もいた。

 クラス中の期待の眼差しがクレアの小さい身体に集中する。だがそれをよしとしない清水先生は首を振った。


「それはできません。宿題はみんなのためでもあるのよ」

「えー、なんで? 問題は清水ちゃんが決めれるからすごく有利なのに」


 クレアが不満そうにプニプニなほっぺを膨らませると、


「そうだぞー。教師が逃げるのかー」

「勝負くらいしてやれー」

「問題児を更生させるチャンスなのに。ここでやらなきゃ何が先生よ」


 次々とヤジが飛んできた。それを聞いたクレアが小さく微笑む。


「ほらほらぁ、この場をおさめるには勝負するしかないよー」

「……分かったわ、分かりました。そこまで言うならやってやるわ」


 清水先生は頷くと踵を返し、電子黒板まで歩むと三角形の図を描いた。その三角形の角にそれぞれA、B、Cと記し、辺には数字を書き込んでいく。


「じゃあ問題、辺ABが一三センチ、辺BCが五センチ、この時の辺ACの値を答えなさい」

「えっと……えっと……」


 クレアがお遣いに来た子供みたいに指を折って計算している。

 おいおい大丈夫か、こいつ。そんなんで計算できんのかよ……。

俺の心配をよそに、クレアは目をぱちくりとしている。その姿があまりにおかしかったのだろう。清水先生は余裕の笑みを浮かべた。


「ふふっ……考えても無駄よ。これは三平方の定理。中学三年生で習う内容よ。小五の子供が解けるような問題じゃないし、まして授業中居眠りするアナタじゃ――」

「――一二センチ」

「……っ!?」

 目を点にし、清水先生が息を呑んだ。


 あ、これ当たってるパターンだ。やるなぁ……クレア。


 だがあてずっぽうってこともあるからか、清水先生は動揺しながらも、

「とっ、と、途中式も答えなさい。数学では途中式も採点対象だから」


 教卓に両手をつき、視線を細めてクレアにプレッシャーを与えた。とはいえそんなプレッシャーなんて無意味だった。


「一三の二乗=五の二乗+Xの二乗だから、この二乗を外すと、一六九=二五+Xの二乗になって、二十五を移行して一六九マイナス二五=Xの二乗を計算するとXの二乗=一四四。つまりXの二乗=一二の二乗。よって答えは十二センチ」

「……正解よ」


 クレアはのんびりした声で答え、清水先生から勝利を勝ち取った。


「さぁみんな。これで宿題はなくなったよ。土日はゆっくりと過ごすといい」


 クレアが椅子から立ち上がり、ばっと両手を広げると、クラス中から喜びの声が響く。


「うぉぉぉ! さすがクレアさんだぜェ!」

「すげぇ、すげぇよ……! 宿題を消し飛ばすなんて……!」

「やった! これで遊びたい放題だよ。クレアちゃんのおかげ」

「もはや女神じゃん、遊びを司る女神じゃん……!」

「ありがたやありがたや、女神クレア様に感謝を」


 なんだろう。一部クレアを神格化する奴もいたが、みんなすごく生き生きしてるぞ。


「……ん?」

「ふー…………」


 ふとシャノンと目が合うと深いため息をしていた。

 そのため息は、護衛が目立つんじゃないという思いと、清水先生に同情する気持ちを含んでいるようだった。そうだよな……クレアって見た目は子供でも中身は絶対子供じゃないし、なんか勝負にかったのもズルしてるみたいだよな。やっぱ問題児だわ、コイツは。

 喜ぶクラスの皆と、うなだれたまま動かない清水先生。クラスの雰囲気はすっかりお祝いムード一色だ。

 そうしてこの日、クレアは宿題を消し飛ばした遊びの女神として祭り上げられたのだった。

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