第17話 ここから始まる。進化系エイリアンと少年の因縁の物語が……

「彼女はどうなったと思う?」


 その言葉にはっとする。シャノンの話が妙に身近に感じられたから、他人事には思えないから、俺はすっかり聞き入っていた。

 だがそれと同時に、あり得ない、と思う。だって子供がどうこうできる相手じゃないだろ……。


「私は皮肉な話だと思ったぞ。父親に褒められたい一身で練習した猟銃で、その父を、たった一人の家族を撃ったらしいからな……」


 そうだった。その少女もたった一人の家族を失っていたんだ。だからこんなにも親近感が生まれたのか……でも、彼女の方がもっと悲惨な形で失っていた。

 俺は小さく首を振り、自分に置き換えて考えるのをやめ、素直に言葉を紡ぐ。


「そんな状況だったとしても、父親を撃ったんだ。取り返しなんてつかない。酷い話だ」

「ところがそうなってないんだ。彼女は尊敬できる士官に成長し、今は病棟で右往左往しているぞ。お前を探してるんだ」


 それって……、とだけ呟く。急に目の前が明るく開けた感じがした。


「もう分かっただろ。マリーさんだ」

「だ、だろうな。でもあんなに優しそうな人が……信じられねぇよ。というか、なんでそんな話をするんだ?」

「言っただろ、前向きになれるようにって……お前は拒んでるんだ。マリーさんが母親の代わりをするのを。家族のように接することを」


 だから、親近感を持たすためにマリーさんの過去を語ったのか。シャノンずるい。


「お、俺は、そんなこと思って――」

「ずっとこうしているつもりか? それこそ取り返しがつかなくなるぞ」

「うぅ…………」


 喉の奥につかえるものを感じた。情けなくて、どうしていいか分からなくて、気づくと、俺は眉間に深い皺を刻んでいた。


「ゆっくりでいい。少しずつでいい」


 そう言うとシャノンは神妙な顔になって立ち上がり、正面のフェンスを静かに見つめた。そこから見える住み慣れた街並みに向けて、澄んだ声が響く。


「だが慣れろとは言わない。受け入れるしかないんだ、日和さんのことは」

「そんなこと言われても……分からねぇよ……俺だって、どうすりゃいいか……」


 すがりたかった。立ち直る方法があるなら知りたい。こんなこと同い年の女の子にするような話じゃないと分かっていても、すがりたかった。


「模範解答なら、もう教えただろ。迷いがあるなら、とりあえず真似してみたらどうだ?」


 言葉に詰まった俺をまっすぐ見ると、シャノンは言った。


「……マリーさんみたいになれって言いたいのか?」

「そうだ。ああなるしかない……じゃないと壊れてもおかしくなかったんだからな……」


 消え入りそうなシャノンの声が、風にそっと流される。

 だがしっかりと胸に突き刺ささった。

 殻に閉じこもったように縮めていた手足が緩むのを感じる。暖かな視線を感じる。

 シャノンのあどけない顔には、思いやりと、それに勝る決意の色が浮かんでいた。


「でもな、お前だけの問題じゃないんだ。私の目標でもあるから……一緒に目指そう、誰にも負けない強い兵士を。また同じ思いをしないためにも」

「……ありがとう。本当に、ありがとう」


 改めて、何度もそう思う。そばにいてくれてありがとう。心配してくれてありがとう。元気づけてくれて、ありがとう。


「な、なんだ急に……当然のことをしただけだぞ。それにあれだ、あれっ。お前は大事な友達だからな」

「……うん……そうだな。俺もそうだ」


 ここまで言われては感謝してもしきれなかった。

 ……ああ、一体どれだけ俺の心を打ち抜けば気が済むんだろうか。シャノンずるい。

 シャノンには、言葉じゃなくて、行動で伝えないといけない。いつも近くで当たり前のように手を差し伸べてくれて、でも助けられっぱなしは嫌だから。


「じゃあ行こう。俺が言うのもなんだけどな」

「むぅ……そうだぞ、私が連れ戻しにきたんだからな」

「まぁそう言うなよ。もう少し労わりの言葉を掛けてくれたっていいんだぞ? こっちは病み上がりなんだから」

「調子のいい奴だな。さっきまでの態度は――あれ? いや、これでいいのか……?」


 などと話しながら歩み、俺は屋上の扉の前に立った。

 そしてこれから、VICSに何も奪われない自分になるための戦いが始まるのだった。



(お願い)

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